俺の明日はどっちだ

50歳を迎えてなお、クルマ、映画、小説、コンサート、酒、興味は尽きない。そんな日常をほぼ日替わりで描写

「イカとクジラ」 The Squid and the Whale

2007年04月04日 23時38分44秒 | 時系列でご覧ください
舞台となるのは1986年のブルックリン。16歳の兄ウォルトと12歳の弟フランクの両親は共に作家。しかし父バーナードはかつては脚光を浴びたものの、現在は長くスランプが続いていた。一方の母ジョーンは『ニューヨーカー』誌での華々しいデビューを控えた新進作家。そんなある日、兄弟は突然両親から離婚することを告げられる。そして、兄弟は共同監護という形で父の家と母の家を行ったり来たりの生活が始まる。やがて、弟はストレスから学校で奇行を繰り返すようになり、冷静に受け止めていたかに思われた兄もまた学校で問題を引き起こしてしまう…。
1986年というと今からほぼ20年前。ベビーブーマー世代でフラワームーブメントを経て子供を持つようになった連中のあの時代の雰囲気が見事に伝わってきて、それだけでも興味深かった。
ノーメイクでコーデュロイジャケット、炭酸ドリンクは禁止、ペーパータオルは使わない、食卓での会話はディケンズ、観る映画は「ブルーベルベット」!(苦笑)。



そしてそんな家庭の家族それぞれが、これまた困った連中揃い。
本も映画も知らない人間は俗物だと見下しているくせに、教え子には手を出すわ、床に落ちた肉を平気で調理するわ、卓球しても大人気なく本気モード全開になるわ、挙句の果てには息子のガールフレンドにお茶代をたかったりと、トホホホな父親。
化粧っ気のないナチュラルな装いはさておき、旦那が言うところの「俗物」たちと(息子の同級生の父親とも!)次々と浮気を重ねる母親。
読みもしないのに、父親の言うことをそのままに、ペダンチックな本の話をし、ガールフレンドに対して平気で傷つけることを言い、さらにはピンクフロイドの曲をパクッてしまう長男。
そして鼻にカシューナッツを詰めるわ、ビールをグビグビ飲むわ、性的欲求が変な方向へ進んでしまう次男(ちなみにこの男の子を演じているオーウェン・クライン君はケヴィン・クラインとフィービー・ケイツの息子なんだそうだ)。



いつまでたっても大人になれない親と、どこか子供らしさがない歪んだ息子たち、といった本当にしょうがないこの家族なんだけど、どこか通じ合えてしまう部分が多々あって、かなりシミジミさせられるそんな気分。

基本的にはカウンセリングでの思い出話から自然史博物館でのエピソードへつながる終盤で一挙、長男ウォルトの成長ストーリーとして観ることが出来るこの作品、監督自身、両親が実際に映画評論家であり作家であり、離婚したという自体験からこの作品が作られているので、こうした新たな視点を持つようになってこそ過去の自分を客観的に描きたかったんだろうなあとは思う。

ただそれでも道で突然倒れて救急車に乗る際もゴダールの「勝手にしやがれ」の最後の台詞を吐く、このどうしようもない親父に対する深い愛情が全体に流れ、そうした一度突き放した後、振り返って見ることが出来る今の心情がうまく伝わってきて、ったくと思いつつも、都会の家族の物語として大いに楽しむことが出来たのだ。

Hey you! don't tell me there's no hope at all
(ねえ! もう何の望みもないなんて言わないでおくれ)
Together we stand, divided we fall
(一緒にいれば頑張れるけど、分かれてしまったらおしまいだよ)

学校の発表会以外でも何度か流れるこの「ヘイ・ユー」、当時のブルックリンでこの曲があそこまでマイナーな存在だったとは思わないけれど、何とか離婚を思いとどまらせたいウォルトの切ない思いも含めて、とにかく映画のテーマに即した名曲でありました。



今日の1曲 “ Drive ” : The Cars

この映画の中では当然のことながら80年代の音楽がさりげなく何曲も流れていましたが、そんな中、一番のツボだったのがこの曲。理由はさておき(笑)、カーズの曲の中では一番思い入れがあったりします。
それにしても日本では何故か人気が出なかったカーズ、彼らの84年リリースの5thアルバム『 Heatbeat City 』に収録。
ちなみにこのアルバムに同じく収録されている「 You Might Think 」は、第1回MTVビデオ・ミュージック・アワードの最優秀賞に輝いていましたっけ。
あの当時のこの曲のPVはコチラから
“ You Might Think ”はこちらで


最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは♪ (ミチ)
2007-04-05 15:01:20
一瞬映ったあの映画は『ブルーベルベット』でしたよね?
誰かに確かめたくてたまらなかったのです(笑)
ジュード・ロウのファンになる前はカイル・マクラクランのファンでした(『ツイン・ピークス』にはまりまくりでしたから)
カイルとローラ・ダーンが見えたので「あ!」と思ったのですが、ほんの一瞬だったので自信がなくて・・・。
いやはやあのトホホホは父親につける薬は無さそうですね。
うちもファミリーテニスをしますが、この家族みたいに誰かの弱点を狙うなんて事はしませんよ(笑)
返信する
こんばんは。 (ジョー)
2007-04-05 20:46:23
TBありがとうございます。
いや、ほんとに知性と情けなさは両立するという意味で、笑えて泣ける映画でした。もっとたくさんの人に観てほしい映画でした。
返信する
◇ミチさん (nikidasu)
2007-04-06 01:28:34
デビット・リンチのあの作品は、絶対子供とそのガールフレンドと一緒に
観るべき映画ではないですよね。
それにしてもつける薬がないほど困った(?)あの親父、実はあちこちにいそうで、
それはそれで納得してしまったりします(笑)。

それにしてもミチさんは家族でテニスですか?
我が家ではない世界ではあります。うーむ。


返信する
◇ジョーさん (nikidasu)
2007-04-06 01:34:12
いやはや、まさに
>知性と情けなさは両立するという意味で、笑えて泣ける映画でした。
というジョーさんのまとめ方にすこぶる納得。
思い出すたびに、あの親父に愛着がわいてきています(笑)。
この監督、次回作に何を持ってくるのか大いに期待であります。

返信する
苦笑 (kimion20002000)
2007-09-23 21:35:56
TBありがとう。
いろんなシーンでこのスノッブな両親を苦笑しながら見てしまいました。
返信する
◇ kimion20002000 さん (nikidasu)
2007-09-24 10:32:37
本当にまさにスノッブという、最近とんと使うことのなかった
その言葉がピッタリな夫婦でした。
それにしても良い意味でのシニカルさ、かなり面白かったです。
返信する

コメントを投稿