IPSO FACTO

アメリカの首都ワシントンで活動するジャーナリストの独り言を活字化してみました。気軽に読んでください。

イディオット・ボックス

2004-11-06 17:11:24 | ニュース
寒い、本当に寒くなってきた。昼間の気温は10度くらいだろうか?これから本格的な冬が始まるので、まだまだのはずなのだが、先週の気温が23度もあったことを考えると、やっぱり寒い。まぁ、雪は当分降らないだろうけど、それでも降ってほしいなと思ったりもする。2年前の大雪では積雪量が50センチを超え、自宅近くのコンビニに行くのも一苦労だった。雪解け後の道を歩くのも、あんまりいい思いではないんだが、それでも久しぶりの雪も悪くない。できれば、一晩だけ大雪が降って、翌日には全部解けてくれてたらパーフェクトなんだが、現実にはそうもいかないか。

金曜日はインタビューなどがない場合は、比較的ゆっくりと1日を過ごすのだが、今日は昼前にドキュメンタリーを1本見た。FOXニュースの内情をテーマにした「アウトフォックスト」という作品だったのだが(関連ウェブサイト:http://www.outfoxed.org/)、まがりなりにもジャーナリズムの世界で飯を食う人間としては、ぜひ見ておかなければと思った作品だったのだ。作品の一部は以前に見ていたのだが、全てを見たのは今日が初めてだった。本当は選挙前に見ておきたかったし、(これを投票の判断基準にするかどうかは別としても)アメリカの有権者達にぜひ見てもらいたかった作品であった。

日本でもDVDのレンタルがあれば、ぜひ借りてみることを薦めるが、テレビ・ニュースの怖さがよく分る作品じゃないかなとも思う。活字ジャーナリズムが専門の僕だが、テレビ・ニュースの力を羨ましく思うときもある。例えばだけど、世界貿易センタービルに旅客機が突っ込んだ瞬間や、サッカーの日本代表がワールドカップ初出場を決めた瞬間の衝撃や感動を活字で完璧に表現するのはきわめて難しいと思う。けれど、テレビのニュースには限界や怖さも存在しているんじゃないだろうか?イギリスやオーストラリアの英語の表現でテレビのことを「イディオット・ボックス(バカの箱)」という場合があるけど、アメリカのテレビニュース番組が視聴者や有権者に与える影響を考えた場合、「バカ」という言葉だけでは片付けられないような気がする。

ここでドキュメンタリーの全ての内容を語るのは控えたいが(このブログを読んでもらった人に直接見てもらいたし、それよりもなによりも、ブログを早く終わらせて眠りにつきたいし…)、幾つか気になった部分だけは書き留めておく。報道の基本は事実を伝えるという極めてシンプルなものだけど、FOXニュースの場合はニュースとコメントの境界線が確立されておらず、そのあまりにも共和党よりの内容(コメント)をニュースとして扱う同局の報道姿勢をドキュメンタリーは厳しく批判している。

それから、この局のアンカーやレポーターがよく使うテクニックに、「Some say....」や「Some people say...」といったものが多用されているという指摘も興味深かった。日本語で言えば、「一部では~」とか「~と言う人もいます」みたいなニュアンスだけど、これでは実際に誰の意見なのか、またどれくらいの割合の意見なのかが全く分らず、ニュース的には全く意味を持たない事は明白だ。しかし、タイミングと割合を考慮しながらこの言葉を使うと、視聴者は知らない間にそれらが一種の世論と錯覚してしまうのだ。これが反ケリー的なニュースや、イラク戦争賛成の色が強いニュースで使われた場合、視聴者はどんな印象を抱くだろうか?

もう1つだけ書いておくと、ゲストを呼んでアンカーとディスカッションをする場合、ゲストの運命は支持政党によって番組前からすでに決まっている。専門家などがゲスト出演して、アンカーなどと激論を交わすシーンはどのテレビニュースでも見られるが、FOXの場合は民主党支持者や反ブッシュのゲストには徹底的な攻撃が生放送中に加えられる。それはさながら公開リンチの生放送で、報道の枠をはるかに超えてしまっていると、僕も感じずにはいられない。基本テクニックは、ゲストに発言権を与えないまま、アンカーが政治観などを喋り続けるものだが、中にはもっとタチの悪いものもある。「ジャーナリスト(少なくとも東海岸では全くそう認知されていないが)」のビル・オライリーは倫理問題やブッシュの政策などで、相手のゲストを徹底的に本人の目の前でけなすのを得意としており、本番中にオライリーが「黙れ!」とゲストに向かって叫ぶことも珍しくない。このニュース番組でホストの威圧感に潰されてしまったゲストは数知れず、まずまともな議論をする環境では決してない。倫理観を語るオライリーだが、最近になって元プロデューサーの女性からセクハラで訴えられている。電話で執拗なセクハラを繰り返していたらしい。

僕の友人は、今回の選挙戦でのメディア報道の影響力に驚きながら、「結局はFOXテレビの視聴者がニューヨーク・タイムズの読者に勝利したんだろうね」と言ったが、これはなかなか的を得た発言だと思う。このドキュメンタリー、個人的にはかなり面白い内容だったと思う。個人的にもお世話になっているニューヨークのメディア学者スティーブン・レンドルも出演しており、作品の中で出てくる彼のリサーチの結果はなかなか興味深いので必見だ。

夕方、自宅近くのショッピングモールに行き、ジーンズを久しぶりに購入。今日はディーゼルの新作が出たので、それを買いに行ったのだが、最近のジーンズって本当に高くないかぃ?そう感じながらも、ちょっとした欲望と店員の「似合ってます」というチープな御世辞に負けてしまい(本当に10回以上は言ってた…)、ついつい買ってしまった。僕が文句を言っても仕方ないんだけど、いわゆるデザイナージーンズは、本来のジーンズの目的を全うしていない気がするのだ。山に登ったりするだけで、気がつくとジーンズに穴があいていた経験は何度もある。本当にジーンズらしいジーンズとはオーストラリアの田舎町で買った1本1000円ほどのもので、これをはいて馬に乗ったり工事現場で働いたこともあるが、絶対に破れる事はなかった。どうせ高いお金を出してジーンズを買うんだから、作る方ももっと頑丈に作ってくれたらいいんだけど…。

夜になって、ロズリンのホテルでボストン・グローブ紙のフランク・デラッパと合流した。明日の晩、ここワシントンのRFKスタジアムでDCユナイテッド対ニューイングランド・レボルーションの試合があるため、取材でワシントンに来ているのだ。フランクとはもう5年近くの付き合いで、僕の大切な友人でもありイタリア語の先生でもあり、そしてサッカー談義を心から楽しめる仲間なのでもある。2002年のワールドカップ、友人のサイモン・クーパーらと日本で1ヶ月を過ごしたフランクは、突然変異的にアルビレックス新潟のファンになったらしい。アメリカ人のスポーツ記者では珍しく、世界中を飛び回ってサッカーの取材をするフランクだけど、新潟の雰囲気は今でも気に入ってるとか。インターネットで地震のことも知ったらしく、本当に心配そうだった。

ロズリンのホテルを出た僕らは、ポトマック川を越えてジョージタウンに入り、洒落たタイレストランでフランクの友人と合流した。レストランで僕らを待ってたのはニューイングランド・レボリューションのクレイグ・トーンバーグGM(さすがに、ビックリした…)と彼の友人で、僕もクレイグの友人もボストンに住んでいたことがあったので、食事中はボストンの話で盛り上がった。気がつけば、話のテーマは政治と大統領選挙になってたが、ボストン出身の4人がブッシュの話を始めたらどうなるか…。どうか想像してみてください。

さすがにクレイグには僕がDCユナイテッドのファンとは言えなかったが、それでもサッカーの話で盛り上がった。中でも面白かったのは、レボルーションの春季キャンプの話で、ブラジルの奥地でキャンプをしたらしい。町に近ければ、選手の集中力が切れると考えたフロントと監督は、サンパウロから車で3時間の場所にある、文字通り「何もない村」でキャンプを行った。意外なことに、最初は愕然としてた選手達も、時間の経過と共にもの凄い集中力を出して練習に励んだのだという。4人で色々話した。サッカー、ブッシュ、ベトナム戦争、ジンギス・カーン(どういう展開でこの話になったかは忘れたが、最後はモンゴルの話を4人でしてた…)、本当に楽しい時間だった。フランクとは明日の試合前、スポーツバーでユベントス対レッジーナの試合を見る予定。僕は中村俊輔にあまり興味がないが、昔のガールフレンドの親がカラブリア出身なので、少し応援もしている。午前中にはレボルーションの監督で80年代のリバプール黄金時代の看板DFだったスティーブ・ニコルが同じバーに試合を見に来るからと誘われたけど、さすがに寝ているだろうなぁ。

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2 コメント

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Unknown (YUI)
2004-11-07 13:25:21
ご無沙汰。フィリピン仲間のユイです。お元気ですかー?実はこっそりちょくちょく覗いております。おかげでだんだん自分の意見持ちながらニュース見れるようになってきた・・・かな?(笑)これからも楽しみにしてますよぅ。相変わらずお忙しそうですが頑張ってね!
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Unknown (shi-taka)
2004-11-07 21:25:25
ダスよblog順調のようだな良かった良かった。

そっちは寒いのか・・・こっちはまだまだそれほどでもないぞ。サッカー話も相変わらずだな(笑)またいろいろ教えてくれ。



ところでメール送っても跳ね返されるのは何故?そっちのはくるんだが・・・

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