IPSO FACTO

アメリカの首都ワシントンで活動するジャーナリストの独り言を活字化してみました。気軽に読んでください。

帰国前に必ず悩む問題が1つありまして

2005-04-20 14:49:09 | テロリズム
ボストン・グローブのフランクから連絡があり、週末にワシントンに取材で来る事になったとの一報。土曜日にRFKスタジアムでニューイングランド・レボリューションがDCユナイテッドと試合を行うため、金曜日にはワシントンに入るようだ。たいてい、僕らは試合前日に別の記者とジョージタウンに繰り出し、一杯やることが多く、今回もカフェ・ミラノあたりに行くのかな(ボストンやニューヨークと比べるとワシントンのイタリアンはNGだけど、ここはまだマシじゃないかと思う)。前回はレボルーションのGMと彼の友人の4人でタイ料理に行き、なぜかそこで3時間近くもモンゴル帝国やチンギス・ハーンの話で盛り上がってた(言いだしっぺが誰かは忘れたけど、店のウェイトレスがモンゴル出身のべっぴんさんで、いつの間にかそんな話に)。今週はどこの店に行くのかは分からないけど、ウェイトレスがペルー人だった場合を想定して、やっぱりインカ帝国の本でも眺めてみるか。とにかく、歴史好きなオッサン連中なので。

新しい法王(教皇様といった方がいいのかな?)がとうとう誕生し、ドイツ人のヨーゼフ・ライッィンガー枢機卿が256代目の法王に選出され、新法王の名前もベネディクト16世に決まった。2日間のコンクラーベの後に選ばれたベネディクト16世は、最近発売されたタイム誌の「世界で最も影響のある100人」に名前を連ねていた人物でもあり、その超保守的な価値観が以前から注目されてもいた。イギリスのブックメーカーは新法王の候補者達のオッズ表を発表し、ナイジェリア出身の候補が一番人気だったが、結果は3番手のライッィンガー枢機卿の法王選出となっている。アメリカでは正午過ぎからネットワークテレビ局各社が番組を中断し、新法王選出の特番を開始している。

僕はこのベネディクト16世が非常に保守的な人物であった事くらいしか知らず、一部のメディアで話題となっている新法王の幼少時代(バイエルン地方で警察官の子供として生まれたベネディクト16世は、ヒトラー・ユーゲントに所属していた)は特に大きなニュースではないと思う。バイエルン地方に住む僕の友人にも祖父が同様の組織に入っていた者が少なくないが、ナチス・ドイツが非常に大きな政治権力を手にしていた当時のバイエルン地方では、政治的な好き嫌いに関係なくそういった組織に入る事が半ば義務化されていたというのが僕の認識だ。第二次世界大戦中にはドイツ軍兵士として参加しているが、米軍に戦争捕虜として捕らえられた事もある異色の経歴で(本人はナチス政府を嫌っていたが、徴兵され戦線に送られた)、確かに議論を呼びそうではある。

けれども、ベネディクト16世が世界的な議論の的になる理由は他の部分にある。1つには新法王はスーパー・コンサバティブ(選出から数分後、僕の携帯電話に連絡をしてきたボストンに住むアイルランド人はこう表現した)で、尊厳死や中絶といった「現代社会において無視する事のできない問題」がどう扱われていくのかを懸念する声は少なくない。また、一部のメディアはヨーロッパでカトリック信者数が減りつつある中でアフリカや中南米の信者数が増加している事を取り上げ、この時代にヨーロッパ出身の法王が誕生した事に疑問を呈している。78歳という高齢での選出に「なぜ?」という声があったのも事実だ。夕方に数時間かけて各国のメディアの論調を見たが、今のところは肯定的な論調が若干多いような気がした。

火曜日は1995年に発生したオクラホマ連邦政府ビル爆破事件から10周年という事もあり、事件が発生したオクラホマ・シティでは1600人が参加して追悼式典が開かれた。連邦政府爆破事件では、167人が死亡し、数百名が負傷する大惨事となり、事件の主犯であるティモシー・マクベイは2001年6月に処刑されている。91年の湾岸戦争に陸軍兵として参加したマクベイは、戦争中にアメリカ政府に対する不信感を抱き始め、93年にテキサス州ウェィコで発生したカルト団体をめぐる政府の対応を見て、連邦政府への憎しみを確固たるものにしたようだ。マクベイや共犯者のテリー・ニコルズが反政府主義を唱える民兵組織の集会に出席していた事から(正式なメンバーではなかった)、オクラホマの事件後に幾つもの民兵組織がしばらくメディアの取材対象になっていた。

オクラホマ連邦政府ビル爆破事件から10年が経過し、専門家や警察関係者がBBCニュースに語ったところでは、アメリカ国内の民兵組織は90年代半ばをピークに衰退の傾向にあるとの事だ。民兵組織の活動は縮小傾向にあるものの、白人至上主義は10年前とほとんど変化が無い模様。1996年にはアメリカ国内で2万5000人程度存在したとされる民兵だが、現在では数千人規模にまで減少しているようだ。ブッシュ大統領(パパの方です)の時代から、国内の右派や白人至上主義者の中にはアメリカのエスタブリッシュメントが彼らの自由を奪うのではとう「陰謀論」を信じる者が出現し始めた。クリントン政権がNAFTAの批准や攻撃的な銃器の販売禁止法案を打ち出した事で、白人至上主義者の怒りが頂点に達したという声もある。

専門家の間では民兵組織への加入は一時的なトレンドにしか過ぎないという意見が存在し、民営組織の衰退が国内の白人至上主義勢力の衰退を直接的に意味しないというのが一般的なセオリーになっている。国内最大の白人至上主義団体の1つ「ナショナル・アライアンス」のウィリアム・ピアースはすでにこの世を去り、一部からカリスマ的な人気を集めたマット・へールは現在獄中で生活する。911テロ事件以降にアメリカ全土で語られるようになった「国土安全保障」に白人至上主義者らが興味を示す傾向がある模様で、「ミニットマン・プロジェクト」という団体がアリゾナ州で行っている不法移民監視作業では、監視現場で「ナショナル・アライアンス」のビラなどが多数発見され問題となっている(ミニットマン・プロジェクト側は一切の関与を否定)。

そういえば、数週間後に一時帰国するということもあり、ワシントンから2週間離れる事を友人や知人にメールで伝えた。日本語版と英語版を作り、それぞれのメールを発信したのだが、英語版には僕が前から気になっていた質問をみんなにしてみることにした。以下の駄文は先日送信したメールからの抜粋だが、あまりにも長いフライト(しかも、アメリカ-日本間のフライトは日本ーアメリカ間のそれよりも1時間半くらい長い)をどう過ごそうかと質問してみたのだ。

It takes 14 hours to fly from here to Osaka - what the hell can I do? If you see words like FLIGHT in your dictionary, it probably tells you SEE BOREDOM. If you know how to spend 14 hours delightfully in a plane, please send me a mail before my departure.

何通かメールが返ってくればいいくらいにしか思っていなかったが、返信メールが予想以上に届き、僕も正直なところはビックリしている。ボストン、ニューヨーク、ワシントン、ロンドン、ミュンヘン…。何気に聞いてみた質問だったんだけど、みんなフライトでは同じような悩みに直面しているようで、いろいろとアドバイスをしてもらった。ミステリー小説やクロスワードパズルを推薦してくれた人もいれば、携帯型DVDプレーヤーで「24」を1シーズン見るのはどうかと言ってくれた人もおり、ロンドンからのメールにはマイル・ハイ・クラブ(あえて意味は書かない事にします)にチャレンジしてみたらどうかとの内容が長ったらしく書かれていた。今までで思い出深いのは、6年位前に日本に戻る機内にてGREの問題集をやり遂げた事。これって、意外に面白かったんだよなぁ。