書評に載っていた書き出しが興味を引いたので、図書館で借りて読んでみた。面白かったとは思うけど、全体的に一貫性がないような印象。最後のどんでん返しもどきやタイトルの持つ意味などは凝っていたと思うし、終わらせ方も無理がない。
内容紹介
<"30歳"という岐路の年齢に立つ、かつて幼馴染だった二人の女性。
都会でフリーライターとして活躍しながら幸せな結婚生活をも手に入れたみずほと、地元企業で契約社員として勤め、両親と暮らす未婚のOLチエミ。
少しずつ隔たってきた互いの人生が、重なることはもうないと思っていた。チエミが母親を殺すという、あの"殺人事件"が起こるまでは……
何かに突き動かされるように、警察の手を逃れ今なお失踪を続けるチエミと、彼女の居所をつきとめようと奔走するみずほ。
行方を追う中、不可解な事件とその真相が明らかに……!!>
男性読者には「だらだらしている」と不評だった前半の女性特有の心理は、私的にはかなりリアリティがあって面白く読めた。女性なら誰しもこの中に登場する幾人かの女性の型に当てはまるのではないか?と感じさせるほどの筆運びは、万人に好まれるモノではないがはまる人ははまる。
ただ私にはどうしても主人公みずほに偽善的なイメージをぬぐい去れなかったのと、チエミ親子に対するスタンスの取り方が分からないため、結局「何が言いたいのか分からない作品」としか捉えられなくなっている。
順境の時は思い出しもしなかった幼なじみを、自らの不幸と彼女が犯した罪を重ね合わせて探し歩くみずほは、ただ『同病相憐れむ』相手を求めたようにしか見えない。
作中でもネット感想でも散々に云われているチエミの元彼について、私はそれ程悪いイメージはない。彼は傲慢な差別主義者ではあったが、それなりに人に対する愛情も友情も持っていた。ただそれがチエミには向けられなかっただけのことだ。彼にとってチエミは異世界の女であったから。
そしてみずほが尋ね歩いた人たちが一様に語る『一卵性家族』の異様さ。それは確かに事件の起こるきっかけでありながら、むしろその絆が土壇場で裏切られたことが本当の理由であったと思う。
にも関わらず、結局チエミの逃亡は『家』という存在の手の上で行われたお伽噺にすぎず、「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」の意味に驚き、やや感動はしたものの、冷静になって考えればむしろその妄執ともいえる情念の薄気味悪さにぞっとした。
チエミの人生は家族によって歪められ、世間とは隔絶したモノになっていた。それを彼女自身うすうす理解はしていたが深刻に受け止めていなかったことのしっぺ返しこそが今回の事件だった。チエミと再会したみずほは満足したかもしれないが、彼女のこれからの人生はただただ暗く何の救いもない。
『告白』同様、後味の悪い話だと思う。