上海に住んでいれば否応なく目にする、花売りの子どもたち。
セロハンで巻いた一輪の花を手に「買って」と近寄ってくる。
それにしても、一輪10元はいくらなんでも高い。
だが彼らもなかなか狡猾。
こちらが複数人でいるときはその中で「一番お金を持っていそうな人」の所に擦り寄っていく。だから、誰かと一緒のときの私は声を掛けられることがない。
昨夜、私はひとりで夜道を歩いていた。
通りの向こう側にいた、5歳くらいの花売りの男の子が近寄ってくる。
目を合わせないでやり過ごそうとしたが、なかなかしつこい。
「ごめん、要らない」
「じゃあ、一元ちょうだい」
一元が惜しいわけではないがなんとなく「お金持ってないんだよ、ごめんね」と言ってしまう。
がばっ!!
通り過ぎようとした私に、彼がいきなり抱きついてきた。
服のすそを掴まれることはこれまで何度かあったが、いきなり抱きつかれたのは初めての経験。
これが大人なら少々無理に振り払ってもいいのだろうが、子どもだけにそうもできない。
キレイなお姉さんでもないので、嬉しいわけでもない。
身動きがとれない。
「・・・。」
子どもが何か言った。
「何?」
「…パパ」
パパ!?私が??
そんなわけないじゃん。
よく見ると、目元がなんとなく似ている気がする。
いやいやいや、それは絶対気のせいだ。
コウノトリが運んでくるのではないことぐらい私だって知っている。
断じて身に覚えはない。
とりあえず、1元を手渡してお引取りいただく。
よかった、母親まで出てこなくて。
抱き合う父子。父親が顔を上げると、母親が静かにお辞儀をしていた、なんてテレビドラマみたいなシーンでもされようものなら、あと5元は払ってしまうところだった。
子どもが顔をうずめた私の上着は、鼻水がテカテカと街灯の光を反射していた。