ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

北の底力に 奮えた

2017-02-03 22:24:42 | 北の大地
 道北・留萌市に関する話題である。

 留萌は、若い頃に1度だけ車で素通りしたことがある。
特段の印象は記憶にない。
 ただ、冬の北海道版天気予報では、『暴風雪警報』と一緒に、
よくこの地名を聞く。
 かつては、石炭の搬出で賑わった街だと言う。
日本海に面し、雪が多く、寒さも厳しいらしい。

 ▼ 最初は、昨年12月4日のことである。
この日、JR北海道留萌本線の、
留萌駅と増毛駅間が廃線になった。

 その夜、増毛駅を発つ最終列車に、
集まった住民たちが、寒さと真っ暗闇の中で、
色とりどりのペンライトを振り、別れを惜しんだ。
 その映像を、テレビで見た。

 当初、廃線は11月30日(水)であった。
それを、「みんなでお別れしたい。」と願い出て、
12月4日の日曜日まで延期になった。
 ペンライトは、増毛駅前通り商店会が、
用意したのだと聞いた。

 人々の別れの声と共に、揺れる色とりどりの灯りが、
胸を締め付けた。

 増毛駅に限らず、駅や鉄道には、
その人その人のドラマが刻まれている。
 その地が、また1つ消えていく。

 それだけでも切ないのに、
揺れるペンライトの灯りが悲しげで、心を濡らした。

 その日、増毛町長はこう語った。
「鉄道ファンの私が、
廃線に同意の判を押さねばならず、
最後の日に立ち会わねばならないことは、
非情につらい。」
 一首長としての無念さが、真っ直ぐに伝わった。

 年齢と共に、メッキリ涙もろくなった私だが、
その日の住民と町長に、目頭を押さえた道民は、
少なくなかったと思う。
 きっと、同時に唇も噛んだに違いない。

 ▼ その留萌本線には、引き続き
全線をバスによる運行と言う、
事実上の廃線が提案されている。

 「北海道の鉄路の将来をどうするという、
総論の議論を経ないで、
個別の路線の協議に入ることはできない。」

 留萌本線の起点駅がある深川市長は、
そう言って協議を拒否している。

 目先の施策に苦慮するばかりの行政マンが目立つ。
その中で、先々を見据えた気骨ある市長の態度に、
私だって、エールを送りたくなる。

 ▼ JR北海道の鉄道事業の衰退だけではない。
各地方の人口減少は、急激に進んでいるように思う。

 大都会での暮らしが長かったからだろうか。
「いたるところで町が消えてしまう。」
そんな危機的カウントダウンが聞こえるようで、
つい暗い気持ちになる。

 くり返しになるが、
「地方は、もう見捨てられている。」
そんな思いを強くする光景を、いたるところで見てきた。

 ▼ ところが、留萌の町に一条の光があった。

 先週、NHK北海道で、『北海道クローズアップ・
私たちの本屋を守りたい ~留萌の挑戦』が放映された。

 2011年7月24日、
『留萌ブックセンターby三省堂書店』がオープンした。

 それから5年、人口2万2千人の小さな町のこの本屋は、
在庫10万冊を数え、毎月1千万円を売り上げ、
黒字経営を続けている。

 実は、それまで留萌にあった本屋は、
2010年10月を最後になくなってしまった。
 留萌は、本屋のない町になった。

 そのことに危機を感じた数人の市民が、立ち上がった。
その動機は、新学期を控え
「自分にあった参考書を、手にとって選ばせたい。」
そんな子どもへの思いからだった。

 目指すは、人口30万人以上を出店の条件にしている、
東京に本店がある大手書店・三省堂の誘致だった。

 『三省堂書店を留萌に呼び隊』を立ち上げた。
そして、数人のグループで取り組んだのが、
単なる誘致署名ではなかった。

 それは、その書店のポイントカード会員になることだ。
「こんなに多くの人が、あなたの書店の本を買います。」
その意思表示だった。

 集まった会員数は、
人口の10分の1を越え、2500人に及んだ。

 三省堂の社長は言う。
「寒い冬の留萌の中で、情熱的な熱さにほだされた。」

 この誘致活動を進めた『呼び隊』の代表・武良千春さんは、
出店の報を聞いた時、思わず口をついた。
「本当に来るの! 三省堂!」

 ある市民は言う。
「誘う方も、誘われる方も、思い切った!」

 「ダメ元」で始めたと言うが、
ポイントカード会員を集めるという知恵が、
大手書店を揺り動かした。
 その熱い願いをキチンと受け止め、
踏み出した大手書店の経営陣も凄い。
 両者に関わった人々の底力に、私は奮えた。

 しかし、書店ゼロの危機を救った奇跡の取り組みは、
それで終わらず、開店後も続いている。

 『三省堂書店を留萌に呼び隊』は、
『三省堂書店を応援し隊』となった。

 メンバーは、ボランティアとして、
人手が必要な本の陳列を手助けする。
 病院などへ、出張販売に出かける。
店内では、読み聞かせや朗読会を行っているのだ。

 インタビューに応じた地元の女子高生は、胸を張る。
「自分の好きな本がいっぱいある。」
 そして「留萌の宝石」と微笑む。

 町の本屋をなくさないようにと、
住民の小さな努力も続く。
 コンビニで買っていた雑誌を、ここで買う。
ネットで注文していた本を、ここに注文する。
 そして、市内のお寺の住職は、
全国発送する宗派の教材本270冊40万円を依頼し、
本屋を支える。

 店長の今拓巳さんは言う。
「毎日、奇跡がおきている。」
そして、力を込めて、こう続けた。
「無くしちゃいけない。
楽しんでもらって、買ってもらって、
長く続けて行きたい。
そういう本屋でありたい。」

 この番組の結び、こんなアナウンスが流れた。
「大切なものは、必ず守り抜く。
小さな街の1軒の本屋が私たちに教えてくれています。」
 
 今日も、留萌でくり広げられている、
『大切なものを守り抜く』小さな力と力、
そして少しの知恵と心意気。

 私は、その事実に人の真の強さを学んだ。
つい下を向いてしまう自分の気持ちを見つめ直す、
大切な切っ掛けを頂いた。




  だて歴史の杜公園の 雪景色

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