おもむろに右手伸ばして彼岸過ぎ
ヒマワリは太陽のほうへ伸びていく。太陽が低く昇る、あわせて伸びていくヒマワリは健気である。健気であるが、気色が悪かった。くねくねと曲がりながら、ヒマワリは太陽に向かった。それが夏終わり、秋が始まり、台風がいくつか通り過ぎてしまった頃、ヒマワリはむっくと起き上がって胸を張る。
ちょっと嫉妬しました
あなたのつむじが回っていたから
わたしはちょっと嫉妬しました
それはうれしがっている証拠だから
ちょっと嫉妬しました
あなたがミロを飲んでいるから
わたしはちょっと嫉妬しました
それはうれしがっている証拠だから
ちょっと嫉妬しました
あなたの目が点滅しているから
わたしはちょっと嫉妬しました
それはうれしがっている証拠だから
わたしがちょっと嫉妬したのは
あなたが気になる存在だから
わたしがちょっと嫉妬したのは
あなたがとても気になるからよ
あなたのつむじが回っていたから
わたしはちょっと嫉妬しました
それはうれしがっている証拠だから
ちょっと嫉妬しました
あなたがミロを飲んでいるから
わたしはちょっと嫉妬しました
それはうれしがっている証拠だから
ちょっと嫉妬しました
あなたの目が点滅しているから
わたしはちょっと嫉妬しました
それはうれしがっている証拠だから
わたしがちょっと嫉妬したのは
あなたが気になる存在だから
わたしがちょっと嫉妬したのは
あなたがとても気になるからよ
ポケットを探ると糸くずが入っていた
ぼくはそれをさらにもみ込んでちいさくちいさくした
すると前から女がやってきて、
その今もみ込んで丸めているものをさっさとだしなさいと言った
ぼくはとっさにちょっと何言ってるか分かりませんと言った
女は笑って服を脱いだ
下着姿になった女はあんた面白いねと脱いだ服をぼくに渡してくれた
それをどうしていいのかわからなかったけれど
ぼくも服を脱いで女に君もねと渡した
それからぼくらは強く抱きしめて別々の道にわかれた
別れ際に寂しくはなかったポケットの中の糸くずを女が取り出して、こんな汚らしいものをこしらえてまったく、と言った
ぼくもそう思うよ、ぼくは声に出さずに答えた
そのとき伊佐坂先生が息絶えた
最後の言葉は、肉欲、だったという
ぼくはそれをさらにもみ込んでちいさくちいさくした
すると前から女がやってきて、
その今もみ込んで丸めているものをさっさとだしなさいと言った
ぼくはとっさにちょっと何言ってるか分かりませんと言った
女は笑って服を脱いだ
下着姿になった女はあんた面白いねと脱いだ服をぼくに渡してくれた
それをどうしていいのかわからなかったけれど
ぼくも服を脱いで女に君もねと渡した
それからぼくらは強く抱きしめて別々の道にわかれた
別れ際に寂しくはなかったポケットの中の糸くずを女が取り出して、こんな汚らしいものをこしらえてまったく、と言った
ぼくもそう思うよ、ぼくは声に出さずに答えた
そのとき伊佐坂先生が息絶えた
最後の言葉は、肉欲、だったという
ふたりで歩いた31日の午後
あしたはふらふら、月が変わるでしょう
夏はおわる秋がはじまる
サンデーナイトゆううつすぎて
冷めたカフェオレ
ふたりで眠った31日の夜
もうすぐさくさく、月が変わるでしょう
秋が終わる冬がはじまる
サンデーナイト君は髪を切ってかわゆくなった
あしたはふらふら、月が変わるでしょう
夏はおわる秋がはじまる
サンデーナイトゆううつすぎて
冷めたカフェオレ
ふたりで眠った31日の夜
もうすぐさくさく、月が変わるでしょう
秋が終わる冬がはじまる
サンデーナイト君は髪を切ってかわゆくなった
北極圏に入る。いとも簡単に北極圏である。ここではオーロラが見えると言う。嘘を付け、と余は怒鳴る。こんな陽気では、オーロラも引きこもっておるわ。どちらにせよ昼は、オーロラが眠っているわけであるから、することがないわけで、であるからして、余はスーパーマーケットに赴く。そして庶民の文化を堪能するそれすなわち、安価な食料品の宝庫である。これはフィンランドであろうが日本であろうがラオスであろうが同じこと。庶民の味方スーパーマーケット。ヨーグルトを購入すチョコを購入す水を購入す様々購入す、あとで試してみる。味が濃い。ここはロバニエミと言う町である。オーロラが見えるという町である。そこに3日ほど滞在するのである。そしたら見える確率は高いのである。9月から見えるとの情報がある。確かな情報ではない。余は聞くホテルのフロントに、どこに行けばオーロラが見えるでしょうか?は?は?と何度も聞き直されようやくオーロラのことを聞いていると理解したらしい。アホか、オーロラは気温がマイナスにならなでんわ!を丁寧にした言い方で言った気がする。仕方ねえ。ぞんざいな口調でつぶやいてみる。するとなんとなく気が安まる不思議である。ところでこの町はサンタクロースの出身地でもあるという。サンタクロースがいる村があるという。それならばサンタクロースに会いにいこうではないか、となるのが人情。人情。はぐれ刑事純情派。
フォー!という叫び声、階下から聞こえてきた。最初、何か映画かテレビか見ていてそれが発しているのだろうと思っていたが、その後何度も同じ声が聞こえ、気づいたらフォー!フォー!挑発するように連発、もはやフォー!の壁が下にあって、競り上がってくる圧迫感。これはたまらん、フォー!にくるまって眠れるわけがないし、フォーを畳んで押し入れにしまえるわけがないし、黙ってフォー!が消えうせるのを待つしかない、わたしは小心者である。だからひたすら待っていたのだ。なのにフォー!は消えるどころか、その音量を上げて、徐々にしかし確実に壁は厚くなってきている。壁の向こうにあるものがぼんやりかすみだす。空想にすぎないとはいえ、それはわたしにはきつ過ぎた。確実にわたしの精神は蝕まれている、耳がきーんとしてきた。頭が痛む。動悸が激しい。それでもわたしはなんとかここに座って待てる。そんな精神力を評価してほしい。フォー!が部屋中に溢れる。そんなつもりじゃなかったのに、わたしは気を失って、病院に搬送されている。
あかーん、とあなた。
わたしは驚いて蒸かした芋を食べるのを止めて、あなたの方を見る、思わず。
あなたはニュースを見ていて、天気予報のお姉さんが、今年の冬は暖冬になりそうです、とうれしそうに説明。
それを見てあかーん、と。
暖冬はあかんのでしょうか、わたしは腑に落ちない。
冷え性のわたしの見方、暖冬、あなたはそれを否定するの。
あなたの考え聞かせて聞かせて、わたしは身を乗り出して尋ねる、なんで?
ぬ、知りたいか、知りたいのかお前は。
得意げにあなたはわたしの上から物を言う。その得意げな顔が腹立たしい。
だからといって、別になんとも思わないから、知りたい、と媚びる口調。
上目遣いがあなたはとても好きだから、なまつば飲んであたしを見る目。
なぜって暖冬だと、俺の好きなダッフルコートが着れないじゃないか
着ればいいじゃない、どんどん着れば。暖冬であろうがなんであろうが、冬は寒いものでしょう。
冬にダッフルコートを着るのは明治以来当然のことでしょうよ。
そうなの?と不思議顔のあなたはだったらいいや、とあっけらかん。
わたしは驚いて蒸かした芋を食べるのを止めて、あなたの方を見る、思わず。
あなたはニュースを見ていて、天気予報のお姉さんが、今年の冬は暖冬になりそうです、とうれしそうに説明。
それを見てあかーん、と。
暖冬はあかんのでしょうか、わたしは腑に落ちない。
冷え性のわたしの見方、暖冬、あなたはそれを否定するの。
あなたの考え聞かせて聞かせて、わたしは身を乗り出して尋ねる、なんで?
ぬ、知りたいか、知りたいのかお前は。
得意げにあなたはわたしの上から物を言う。その得意げな顔が腹立たしい。
だからといって、別になんとも思わないから、知りたい、と媚びる口調。
上目遣いがあなたはとても好きだから、なまつば飲んであたしを見る目。
なぜって暖冬だと、俺の好きなダッフルコートが着れないじゃないか
着ればいいじゃない、どんどん着れば。暖冬であろうがなんであろうが、冬は寒いものでしょう。
冬にダッフルコートを着るのは明治以来当然のことでしょうよ。
そうなの?と不思議顔のあなたはだったらいいや、とあっけらかん。
ここが鴨場かあ、と父は言った。心底憧れ続けた鴨場にようやく来れたと言う感慨深げな声で、しかし、予想以上に何もない場所だったから、一縷の戸惑い。それから父はしばらくうろうろと歩き回り、ここがあれで、ここがあれで、などと独り言。10分後には気が済んだのか、表情がなくなって、ぼんやり一点を見つめている。酸いも甘いも鴨場にある、との言葉を信じきった60年である。父は今何を思っているのかしら、わたしは少しうしろでその狭い背中を見つめていた。ふいに父の背中が震えているのに気づいた。夏が終わり、秋に入りかけているとはいえ、まだまだ汗ばむような陽気である。憧れ続けていたものが何ら変哲のない場所だったと知り、父はショックを受けているのかもしれない。それか、また発作だ。
目を見開いて睨んでいる、人物は手も広げて、ぱーを前に前に出している。じっと見ていると不思議なことが起こる。さっきまでぱーにしていたその手を今はぐーにしているのだ。生きている。その人物は絵であるにもかかわらず、その絵の中で生活している。当然、物を食い、恋愛して、いつか死ぬ、ぼくたちが見ている彼は、彼の一部分でしか、ない。写楽が吹き込んだ命は、最初こそほとんど自由はなかったのだろうが、それから200年を経て、徐々に自由を獲得し、今では縦横無尽、目を離せば勝手に湯に浸かりにいったり、旅に出たり、しかし、ぼくらが見ているうちには何も起こらない。誰も見ていないときにぐんぐんと動く。絵だと言うことは心得ているわけだ。絵の中はぼくたちの世界の時間の流れとは違っていて、ずいぶん早いから、ほんの10分がむこうでは5日間ぐらいとなる。だから旅も、ほんの少し祭にいくというのも可能であるわけだ。今、ぼくが見ているにもかかわらず動いたということは、ひとつ新たな可能性をつかみ取ったと言うことに他ならない。彼らとぼくら、相互コミュニケーション、それはもう目の前にきている。
熱燗でお願いします。ええ、ええ、かっとなるほど熱くしたのが好みです。仲間には熱くすりゃおめえ味が飛んでしまう出ねえかなんて嫌う奴もいますがね、あっしは熱々が好きなんでさあ、その熱々をふうふうしながらぐぐぐ、ととすする。喉が焼けらい。はは、ひりひりしてくる、その通ったあとがひりひりしてくる。胃に届いて、すぐに下っ腹の方に落ちていく。ひりひりを残してどんどん広がっていく、なんてえ刺激だ。あっしはそいつが好きなんでさあ。何よりもその刺激がやめられないんでさあ。ですから、そんなふうでおねがいしますどうかひとつ。で、あては枝豆があれば。それだけでいいんで、枝豆湯がいてもらいますかいの。枝豆に熱燗、くく、笑ってしまいまさあ。まったく。あっし、それだけあれば他には何にもいらねえ、何にもいらねえから。そいつを用意してください。ええ、ええ、たのみまさあ。核シェルターに響く声。
墓荒らしは荒い鼻息を吐き出す。そして仕事に取りかかる前に、いつもの儀式を始める。彼はジンクスとして、仕事の前に必ずその儀式を行うことにしていた。この儀式については本編に関係がないので省略するわけだが、機会があればぜひ見学することをおすすめする。非常に愉快な儀式で、あの動きを見れば癒されること間違いなしである。さて彼は儀式を終え、墓の下に遺体とともに埋めてある貴重品を掘り出そうとする。月夜である。月は彼の影を作り出す。影は伸び縮みする。荒い鼻息の影。鼻息の影?おかしい、鼻息に影ができるはずない。いや、例えばそのとき冬で、気温がかなり低く、息を吐けば白く昇っていくような状況であれば、その白いものがふんわりとしたやわらかな影として写るのかもしれない。しかし、そのとき秋の初めであり、気温はまだまだ息が白くなるような低さでない。であるとすれば影、あれはなんであろうか。墓荒らしはそんな筆者の混乱を知らずに一心不乱に墓を掘り続ける。しかし、いったん筆者が気になり描写するどころでないとなれば、墓荒らしがどんな風に掘り、何を掘り出そうと、それを伝えるすべを失うのであ
一週間が経った。瞬く間に。妙に仕事が集中し、こんなこと数年に1、2度というぐらい。わたしが見ている最中に消えてしまったグライダーのことは、その波に飲み込まれているうちに忘れてしまった。わたしは、ふたつ以上のことを同時にかんがえることはできない、便利な性質を持っているのだ。だからといってあの消えたグライダーのことを全く考えなかったわけではない。普段、仕事に取り組むときにはそれこそ完全に忘れてしまっているのだが、一段落してふっと落ち着いた時、突然、消える瞬間が蘇ってくる。それは回数を重ねるごとに、夕焼けは鮮やかになっていき、そのとき聞こえていた音や匂い、風の強さなど、強くなっていく。わたしが自分自身でその風景を作り上げていくように、蘇るたび、そちら側にわたしはふらりと入り込んでしまうように。その時間も次第に長くなっている。さらに知らないはずのグライダーの運転手、その後ろ姿がはっきりと私の目の奥に浮かんできた。なんとなく見てはいけないと思いつつ、わたしはどうしてもその頭を見てしまう。そのうち、その運転手は、だんだんこちらのほうを振りむいてきた。あと少しこちらを振り向けばその顔がはっきりとわかる。わたしは怖さと興味深さと半々の気持ちで、やはりその姿をじっと見つめてしまった。