思い出したくないことなど

成人向き。二十歳未満の閲覧禁止。家庭の事情でクラスメイトの女子の家に居候することになった僕の性的いじめ体験。

待っていた首輪

2008-01-22 21:05:40 | 6.女子はたくらむ
 道らしい道ではなく、ただ草の密度が薄いところを選んで進んだ。斜面を登るにつれて草の丈が短くなり、ついには膝くらいまでの高さになった。一糸もまとっていない裸の僕は川から上がったばかりで、まだ全身が濡れていたので、足の裏はもちろん、手や膝、お腹まで土に汚れていた。
 喉元にたっぷり飲まされた川の水の生臭さが漂ってくる。気持ち悪さを堪えながら、早足で進むと、砂利道に出た。そのすぐ先にコンクリートの壁があり、鉄の楔による梯子が付いていた。これを上がれば、家の前を通っている道に当たる。
 砂利道は、サイクリングコースとして地域の住民に親しまれているのだった。ジョギングする人も少なくない。人が来ないうちに素早く梯子を上がって舗装された道を顔半分だけ出して覗く。ちょうど中学の下校時間帯らしく、中学生たちがぞろぞろ歩いていた。
これではとても横切ることなどできない。仕方なくいったん梯子を下りた僕は、幸ちゃんと彼女の友だちである二人の女の子の前で、素っ裸の身を縮めながら両手で前を隠し、別のルートはないかと訊ねた。しかし、三人の女の子は首を横に振るばかりだった。
「私たち、これから学習塾に行かなくちゃいけないの」
 冷たくそう言うと、幸ちゃんは、二人の友だちとコンクリートに打ち付けられた楔の梯子をさっさと上り始めた。取り残された僕は、このまま一人で、人が来たら草に隠れるなどして、このサイクリングコースを通って帰ろうか迷ったが、やはり砂利道は裸足では歩きにくいし、やや遠回りになるかと思われたので、彼女たちについて舗装された道路へ出ることにした。
 ガードレールを跨いで幸ちゃんたちは道路の反対側、歩道のある方へさっさと渡ってしまった。僕は梯子の階段の最上段からそっと道路へ顔を出し、様子をうかがう。僕と同じ中学生の列が過ぎていく。幸ちゃんたちが歩道から手招きをしていた。ためらっている僕に「早く早く」と苛立たしそうに叫んでいる。
 ここに留まっていても得策ではない。下のサイクリングコースを人が通れば、たちまち見つかってしまう。僕の目的は、目の前の道路を横切って歩道の後ろの畑に入ることだった。幸いにも畑と畑の間がへこんでいて、その中に体を忍び込ませたら、よほど注意深くこちらに目を向けない限り、人に気づかれることはないだろう。問題は、道路を横切るタイミングだった。この時間帯では路上から完全に人影がなくなることは、まずあり得ない。次の歩行者まで30から40mほど間があいたら、すかさずダッシュして渡ることだ。
 学習塾の時間が迫ったらしく、幸ちゃんたちは、道路へ顔半分だけを出して迷っている僕に「帰るからね」と一言残して、下校の中学生たちと同じ右方向へ歩み去った。と、背中に握りこぶしで殴られたような痛みが走った。下のサイクリングコースに小学生の男の子たちがいて、僕に向かって石を投げつけてくる。
「わあい、裸だ裸だ」
 面白半分に次々と石を投げる。腰と腿にも命中した。これ以上ここにいては危険だった。ぶつけられたところの痣になるほどの痛みを我慢して、僕は思い切ってガードレールを跨ぐと、全速力で向かいの畑へ突っ込んだ。慌てて飛び出したものだから、左から来る中学生との間隔は20mもなかった。その中学生たちは、いきなり目の前を横切った全裸の人に呆然としたことだろう。四人か五人の男女半々のグループで、彼らが上げた驚きの声が一瞬鋭く僕の耳朶を打った。
 畑に飛び込んだ僕は、全身を土まみれにして匍匐し、中学生たちが追ってきても、あれは目の錯覚だったと思わせるように姿を隠した。ほどなく、明るい笑い声が通り過ぎた。僕の渾身の行為も、普通に服を着ている彼らには小さな笑い話を提供しただけだった。そう思うと、やり切れなさを覚える。僕も、Y美の家に居候させられなかったら、今までみたいに母親と一緒に暮らしていたら、彼らと同じように制服を着て、彼らと一緒に笑い声を立てていただろうに。
 畑に沿って進み、直角に左折する。両側に畑と平地があった。平地はほんとに何もなく、草だけがまばらに生えていた。縁ところが土でやや盛り上がっているだけなので、身を沈めても完全に隠れるわけではない。平地側の生活道路から見えにくくなっているだけだと思う。あまり激しく動くとかえって目についてしまう。
 左の畑側と右の平地側と、どちらの道路も今の時間帯は、下校の中学生が一定の間隔を置いて必ず通る。左右の道路を見張りながら、僕のクラスメイトも混じっているかもしれない中学生とは反対の方向に向かって進む。匍匐前進は体力を消耗した。はるか前方にみなみ川教信者専用の老人の家が見える。僕が目指す家はすぐその先にある。
 平地に鉄筋資材が積まれていた。畑には潅木が茂っていて、左右のどちらの道路からも隠れる。鉄骨に寄りかかって、匍匐前進で疲れた腕や足を揉んでいると、鉄筋資材の隙間から下校する中学生たちが見えた。ショートカットの小柄な女子を目に留めて、僕は思わず息を呑んだ。
 メライちゃんだ。メライちゃんは一人で、誰とも話をしないで、俯き加減に歩いていた。真一文字に引き締めた口元がどこか痛々しい。
 異様に遅い歩き方だった。家に帰りたくないという気持ちに抗って体が動いている。前後の数人が重い足取りのメライちゃんに構わず歩を進めて、鉄骨の向こうの道路には、とぼとぼ歩いているメライちゃん一人だけの姿があった。いっそ思い切って声をかけてみようか、僕は一糸まとわぬ裸で、しかも泥だらけだけど、正直に事情を話せば、メライちゃんは分かってくれるのでは、という考えが頭をよぎった。心臓がどきどきする。と、冷たい水滴が僕のお尻と背中を打った。
 空が暗くなっていた。ぽつりぽつりと落ちてきた水滴は、すぐに一定のリズムを伴う夕立になった。メライちゃんは鞄で頭を覆い、少しだけ歩を速めた。空を見つめる横顔が悲しげだった。大粒の水滴が鉄筋や土を激しく叩き始め、メライちゃんと僕の間を夕立の音響が包んだ。地面に膝をつけて鉄筋の隙間から覗いている僕の体、頭や耳たぶ、肩から足の裏までを水滴は一滴ずつ殴打する。メライちゃんと僕を包み込んでくれるはずの夕立の音響は、逆に二人の間の埋め難い距離を明確に浮き上がらせるのだった。
 突然の夕立にもメライちゃんはうろたえなかった。精神的に大きな人がちょっとした問題が起こった時に両腕を組んで、「さてどうしようか」と考え込むのに似た風格があった。彼女は立ち止まり、眩しそうに夕立の空を見上げた。鞄を持っているほうの腕をゆっくり上げて頭にかざすと、細く長く息を吐いた。口をすぼめて息をゆっくり吐き出すのは、何かを決断する時のメライちゃんの癖だ。頭にかざしていた鞄をおろすのとその場で足を小刻みに動かしたのは、ほぼ同時だった。メライちゃんが行ってしまうという予感に胸がうずいた。その疼きは彼女が全力で走って、雨にけむる農道の奥に消えてしまってからも続いた。メライちゃんは、ついにほんのすぐ先の鉄骨資材の裏にいる僕についに気づかなかったのだと思うと、少し残念な気がした。せめてパンツの一枚でも穿いていれば、恥ずかしさに堪えながらもメライちゃんの前に出ることができたのに。

 激しい夕立の中、泥まみれになりながら、ところどころ腰を落として走った。人通りの多い道のそばを過ぎる時だけ、腹ばいになって進んだ。通行人はみんな傘をさしたり、傘のない人は顔を伏せて走っているので、あまり見つかる心配がないのは幸いだった。
 それでも、みなみ川教信者の老人の家だけは別だった。二階の窓から老人たちが雨の景色を眺めていた。ごま塩頭の老人も混じっていた。このまま、まっすぐ横を通り抜けると、間違いなく呼び止められ、なぜ素っ裸で歩いているのかしつこく問われ、おちんちんやお尻をまさぐられてしまう。僕はいったん道路を横切り、果樹園に入った。
 果樹園の草地を踏んで小走りに通過している時、雨はいよいよ強くなり、顔を伏せなければまともに呼吸できないほどだった。果樹園の鉄柵をよじ登って農道に出る。激しい夕立で視界が悪くなっているので、思い切ってアスファルトの農道を走った。人が来るたびに脇の畑に飛び込んで隠れた。
 何度も道行く人に全裸を見られそうになった。何人かには確実に見られた。そういう人たちは立ち止まって、今見たものが錯覚かどうか確認するかのように畑に一歩踏み込んで見回すのだった。僕は、ある時は畑の溝、草の中に身を潜め、腰を落としたり、腹ばいになったりして逃げるように走った。誰もそれ以上、追って来なかった。
 畑からフェンスを跨いで、ようやく家の敷地に戻ったものの、Y美もおば様もまだ帰って来ていないらしく、家に入ることができなかった。僕専用のトイレ小屋にも相変わらず南京錠が掛かっている。表玄関の前で両膝を抱えて小さくなって雨宿りしていたが、家の前をちょくちょく人が通るので、縁の下に場所を移した。
 縁の下まで雨が流れ込んでいた。濡れた体に雨まじりの土が泥になって、べったりと付着する。長いこと雨を浴びて体が冷えていた。川の水をたっぷり飲まされて、喉元が気持ち悪かった。縁の下の暗くて狭い空間にうつ伏せになって、庭の草や土を打つ激しい雨をぼんやり見ていると、泳いだり走ったりした疲れがどっと来た。寒くて、眠い。お腹がぐうぐう鳴った。朝食以外、何も口にしていなかった。

 何度か意識が遠のいた。家を出入りする音に気づいて、縁の下の低い天井に頭をぶつけた。雨はあがったらしい。木や草のよい匂いがする。頬に付着した土を払ってそっと首を伸ばして外を覗くと、庭を歩き回っている赤いサンダルが見えた。何かを探しているようだ。やがて赤いサンダルは、ぐんぐん縁の下の僕に近づいてきた。
 縁の下に差し込む夕日の細い光線が隠れた。影になってよく見えないが誰かがしゃがんで覗き込んでいる。僕は、いきなり伸びてきた手に髪の毛を掴まれた。
 痛烈な痛みに思わず両手で頭皮を庇う僕は、そのまま縁の下から引きずり出された。Y美が仁王立ちして僕を見下ろしていた。Y美は学校の制服姿で、白いソックスが眩しい。僕は自分がみじめな真っ裸であることを意識しないではいられなかった。地面に横たわったまま、体をくの字に曲げておちんちんに手を当てる。と、いきなり脇腹にY美の鋭い蹴りが入った。
 苦痛に呻き声をあげる僕に、Y美は容赦なく蹴りを浴びせた。背中やお尻、太もも、脇腹などを続けざまに蹴られ、泥だらけの全裸のまま、水溜りや芝生の上を転げ回る。Y美は僕が今日学校に行かなかったことに憤激しているのだった。
 靴の踵でおちんちんを踏まれた痛みに涙を流しながら僕は、少しの間だけでもいいから蹴るのを止めるよう、怒りの感情を抑えられないY美にお願いした。学校に行けなかったのには理由がある。それを説明させてほしいと訴えた。
 Y美は芝生ではなく、水溜りを指さした。そこで僕は、芝生と土の間にできた水溜りの上に正座する。膝小僧が泥濘の中に沈んだ。両腕を胸の前で組んだY美が眉を上げて僕を見下ろしていた。水溜りの中に正座させられている僕の膝にぽたぽたと水滴が落ちている。Y美に蹴られて転げ回っている時に、この水溜りの中にも頭を何度か突っ込んでしまったのだった。僕は肌寒さと怒っているY美に対する恐ろしさに全裸の身を竦めながら、今朝からの出来事を話し始めた。
 おば様の同僚が来たこと、おば様が縁の下に隠した盥の中に制服があると言ったこと、それを信じて縁の下に潜り込んで盥を引っ張り出したら、中は空っぽで制服はおろか、パンツ一枚入っていなかったこと、服がなく、裸のままだったので、学校へは行きたくても行けなかったこと、などを順を追って話したが、なにしろY美がひどく苛苛しているので、緊張してしどろもどろになったり、話が飛んだりしてしまった。そのたびにY美は僕に話を中断させ、責めるような口調で質問を浴びせるのだった。
 話の中であえて触れなかった部分がある。幸ちゃんたちにみなみ川へ連れ出された一件は、恥ずかしすぎるから、というよりも、気持ちの整理がまだ出来ていなかったので話せなかったというのが正しい。早く忘れてしまいたい出来事をY美に話してしまうと、Y美を通じて一生消えない思い出にされてしまいそうだった。
「それにしても、やっぱチャコが悪いんだよ。あんたの服は私の部屋のクローゼットに隠してあるって、前に言ったよね。盥に入れて縁の下なんて初めて聞いたよ。お母さんがほんとにそんなこと言ったの? 嘘だったら、あんた、一生オールヌードだよ」
「ほんとです。まちがいないです」
 頭を上げて答える僕の目にY美の威圧的な視線が射してくる。Y美は腑に落ちないらしく、「変なの」と独り言のように小声で呟いていた。
「じゃあ、あんた、ずっと裸のまま、縁の下に隠れてしたの?」
「ええ、まあ。でも、少し外にも出ましたけど…」
 びくびくしながら申し上げる僕の返答をY美は軽く受け流した。鉄扉の開く音がして誰かが入って来たのに気を取られていたのだった。
「遅かったじゃん。待ってたよ」
 手を上げてY美が明るい声を投げかける。夕日の中から現れたのは、F田さんちの姉妹、雪ちゃんと幸ちゃんだった。相変わらず一糸まとわぬ格好のまま正座させられている僕を見て、幸ちゃんが笑った。今この場からすぐにでも消えてなくなりたい気持ち、僕の存在がまったくこの世に存在しないものとして扱われたいような気持ちで、体がぶるぶる震える。幸ちゃんの何もかも知ってるような笑いを姉の雪ちゃんが不審に思って訊ねると、幸ちゃんは「だってえ」と言ったきり、なかなか言葉を続けず、照れたように前よりもさらに大きく笑い続けるのだった。
 水溜りの中で正座したままうなだれている僕を無視して、Y美と雪ちゃんは、小学四年生の妹、幸ちゃんになぜそんなに笑っているのか、問いを発している。二人の年上の女性の真剣さに圧されて、ついに幸ちゃんは、昼間に全裸の僕を連れ回して遊んだことを詳しく話し始めた。雪ちゃんは納得して大笑いしたが、Y美は少し笑っただけで、すぐに真剣な眼差しになった。そして僕の方へ向き直り、
「なんで黙ってたの?」
 と、詰るのだった。
 なんとも答えようがなくてもじもじしていると、Y美が僕の両脇に腕を差し込んで、僕を起立させた。そのままY美は僕を羽交い絞めにして、幸ちゃんと雪ちゃんの前に向けるのだった。おちんちんを見られる恥ずかしさに腰を捻ると、Y美に股間を膝蹴りされた。その一撃がおちんちんの袋に当たった痛みで、呻き声を上げながら拘束された不自由な体を左右に揺する。幸ちゃんがぽかんとした表情で僕を見ていた。
「ねえ、幸ちゃんは昼間さんざん見たから、もう厭きたかな。でもね、せっかくだからお勉強しとこう。この子は中学生になのにまだ生えてないけど、普通は大人になると、ここの回りに毛が生えてくるんだよ」
 羽交い絞めは解かれたが、両腕を頭の後ろで組まされた僕のおちんちんの回りを、しゃがんだY美が指でなぞりながら、幸ちゃんに説明する。
「それと、この子はまだ皮かむってるけど、成長すると剥けてくるの。こんな風にね」
 おちんちんをつまんだY美の指が、ゆっくりと皮を剥いてゆく。幸ちゃんの目が大きく輝いた。その傍らで雪ちゃんは、妹の好奇心をあたたかく見守る姉そのものの落ち着いた態度を示していた。僕は泥まみれの足をがくがく震わせ、三人の女の人の前に剥き出しにされた亀頭を晒していた。
「ね、これが亀頭。普段皮を被っているから、過敏状態になってるの。触るといやがるんだよ。幸ちゃん、触ってごらん。よかったら雪ちゃんも」
 Y美に唆されて、幸ちゃんが手を伸ばしてきた。幸ちゃんには昼間、皮を引っ張られたけども、剥いたところは触られていなかった。思わず腰を引いて小声で「やめて」を連発する僕を微笑して流し目に見て、幸ちゃんが指を近づける。そっと触れるのかと思ったら、いきなりむんずと掴み、おしっこの出る穴を両手で広げて中を覗くのだった。
 後ろ手に組まされた腕を反射的に下ろすと、待っていましたとばかりY美に手首をつかまれ、再び羽交い絞めにされた。僕は全身を揺さぶって、幸ちゃんの乱暴な仕打ちに抗う。雪ちゃんが「もっと優しくしてあげなさい」と、妹を注意した。Y美がおしっこの出る穴を懸命に覗き込む幸ちゃんを見て、「そんなの覗いたって何も見えないってば」と、笑う。幸ちゃんがおちんちんから手を離した時、僕は肩で呼吸するほど息が乱れていた。
 夕闇が辺りをひたひたと夜の世界へ浸し始めていた。Y美はさらに僕のおちんちんの皮を剥いたり戻したりして、仮性包茎や真性包茎の説明をするのだった。
「幸ちゃんに彼氏ができて、彼氏のおちんちんがこんなだったら注意するのよ」
 おちんちんの皮をうんと引っ張ってから、Y美が幸ちゃんに教えると、幸ちゃんは「いやだあ」と、はにかむように大きく口を開いて笑った。
「それとね、幸ちゃん。もう一つ大切なポイントがあるよ。サイズのことなんだけど」
 手の中で優しく包むようにおちんちんを支えて、Y美が講義を続ける。
「これはおちんちんとしては相当に小さいほう。俗に言う短小ね。まるっきりお子様サイズなの。普通はもう少し大きいからね。これぐらいかな」おもむろに皮を剥き、亀頭をつまんで下へ引っ張る。
 言葉にならない声を上げて、足をばたばたさせて暴れる僕のお尻を、Y美がすかさず平手打ちする。
「ごめん。やっぱ引っ張って大きくなるもんじゃないね。こすらないと無理」
 大袈裟にため息をついてY美は姉妹を笑わそうとしたが、幸ちゃんも雪ちゃんもそれに気づかないほどの真剣な眼差しで、僕の無防備なおちんちんを注視している。
「Y美さん、チャコって、包茎で毛も生えてないけど、精液はもう出るんだっけ」
 講義をずっと黙って見守ってきた雪ちゃんが口を開いた。この子は判断はすべて客観的にしなくてはいけないと考えているらしく、観察が得意なのだった。みなみ川の川岸で、僕よりも一つ年下のこの子におちんちんからお尻の穴まで、たっぷり見られた苦々しい記憶が気持ちの悪い食べ物のように喉元までせり上がってきた。
「そうだよ。精液は出る。私の前で実演させたこともあるんだよ」
「それじゃ、せっかくの勉強ついでに妹にも見せてやってくれないかしら。私も見てみたいし。ねえ、いいでしょ」
「それもいいんだけどね…」
 妹思いの気持ちが強く表れた雪ちゃんの提案を、Y美はそのまま受け入れたくないと考えているようだった。Y美は一人っ子だから、兄弟の仲の良さを見せ付けられると、羨ましさと嫉妬で、感情が昂ぶってしまう。
「でも勃起させて射精させるって、結局チャコが気持ちよくなるだけじゃん。気持ちよくなるのは、いいんだけどさ。せっかくだったら、もっと惨めな状況で気持ちよくなってもらおうよ。そのほうが、別に性的に気持ちが良くなるわけではない私たちにとっては、嬉しいと思うんだけど」
 そう言うとY美は、雪ちゃんに「あれ、持ってきてくれた?」と訊ねた。雪ちゃんは頷いて肩から下げた大きめのポシェットから紙袋を取り出すと、Y美に渡した。
「そうそう、これなのよ」
 Y美が紙袋を引き裂いて取り出したのは、リード付きの首輪だった。ベルトが外れないので雪ちゃんに代わると、「ちょっと硬いのよね」と言いながら指に力を込めて外した。背後でY美に手首を掴まれていた僕は、年下でも僕より背が高い雪ちゃんに向かって顎を上げるような形で首輪を付けられていた。
「大型犬を飼うつもりで手に入れたんだけど、お母さんの再婚相手が犬嫌いで、首輪だけうちに残ってたの。役に立ってよかった。高級皮製なんだよ」
 ぎゅっとベルトを締めて、僕の首とベルトの間に指一本分の隙間を確認すると、雪ちゃんはY美にOKのサインを出した。

「チャコったら、一日中服を着ないで外をほっつき歩いていたんだから、もともと犬だったんだよ。これでようやく犬らしくなったね」
 雪ちゃんから手渡されたリードをY美が引っ張る。強い力が首にかかって、引っ張られた方向に足を踏み出した僕は、振り返ったY美にこっぴどく怒鳴られた。
「なんで二本足で歩いてんだよ。お前は犬だろ。四つんばいになりなよ、四つんばいに」
 おちんちんを両手で隠して呆然と立っている僕の肩を叩いて、雪ちゃんが四つんばいになるように促す。
「四つんばいね。一度お尻の穴から尻尾を垂らしていた時、うちに来て、犬のように歩いてくれたじゃない。だから、もう恥ずかしくないよ」
「いやです。勘弁してください」
 首に感じる首輪の感触が僕をいっそう惨めな気分にする。ずっと裸のまま生活させられて、久しぶりに身に着けたものが犬の首輪とは、あまりにも悲しい。
「駄目よ。犬なら人間の言うことは聞かなくちゃ」
 まるで年上の人が聞き分けのない子どもをあやすように、幸ちゃんが僕の耳元に息を吹きかけた。それから僕の乳首をつねった。身をくねらす僕は、この痛みから解放してもらう引き換えに、四つんばいにならなければならない。
 Y美に引かれて、庭を二周三周した。前に雪ちゃんたちの前で歩かされた時は、膝をついていたが、今度は、膝を上げ、お尻も高く上げて歩かされた。その方が膝を擦りむかなくて済むが、後ろから雪ちゃんと幸ちゃんが付いて来るのだった。
「うわあ、お尻の穴も、おちんちんの袋の裏側も、何かも丸見えだよ」幸ちゃんが無邪気な声を上げて喜ぶ。
「そうね。男の子って、お尻の穴とおちんちんの袋の間って、何もないんだね。こうやって改めて見ると、面白いもんだよね」妹の興味が正しい性の知識と結びつくように、雪ちゃんが姉らしい気配りを見せる。
 夕暮れのオレンジは、そのまま止まってしまったかのように、しつこく明るい光線を周囲に投げかけていた。暗くなりつつあるけども、やっぱりまだまだ光の中に、僕は恥ずかしい格好を晒しているのだった。早く暗くなってと念じつつ、僕は犬の歩行を続けた。リードを引くY美のすらりとした後ろ姿が恨めしい。校則に適った制服の清潔な匂いがほのかに漂って来た。
 いきなり鉄扉の方へ方向転換したので、僕は止まった。Y美が動けとばかりリードを強く引く。
「どうしたの。庭だけじゃつまらないでしょ。お外へ散歩に行こうよ。雪ちゃん、よかったらリードを引かない?」
 犬の散歩をさせるのが夢だったと言って、雪ちゃんがY美からリードを受け取ると、ためらわず鉄扉を開けて、外の通りへ踏み出した。女の子の強い力で、僕は前へずるずる引きずられる。
 夕暮れの、人通りの少なくない時間帯だった。農作業のトラックが通り過ぎた。
「もう暗くなってくるから心配するな。行くよ」
 僕のお尻を叩いて元の位置まで上げさせると、Y美は、僕の不安などお構いなしに雪ちゃんに先へ進むよう合図するのだった。

人気blogランキングへ
FC2 Blog Ranking
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説へ
(お気に召された方、よろしければクリックをお願いします。)

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 流されて | トップ | 寸止めいじめ »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Gio)
2008-01-23 19:01:58
更新ずっと楽しみにしてました。
メライちゃんとどうなるかとても気になります。頑張って下さい。
Gio様 (naosu)
2008-01-27 13:02:09
ありがとうございます。
メライちゃんまでずいぶん引っ張ってますけど、もう少しです。

コメントを投稿

6.女子はたくらむ」カテゴリの最新記事