柳通り便り

アメリカでの勉強と仕事に関するよしなし事

プチ・クロージング

2008-09-19 04:42:48 | Weblog
自閉症関係のビジネスを売り払いました。買い手はシリコンバレー在住の起業家。彼はもう何度も起業して十分な財を成したので、半ば引退し、今は障害のある子供の学校のボードメンバー(日本でいう理事?)をしています。この学校に私がMyVoiceを売ったので、その縁で興味を持ってもらいました。私の作ったMyVoiceソフトウェアを買い取って、それをマーケットして売るビジネスをしたいとのこと。

ビジネスを売る、と言っても、もちろん色々なレベルがありまして、Google が YouTube を $1.65 billion (1815億円)で買った、などと比べると、桁がいくつも違います。これでもうかったお金でしばらく仕事をしなくていい、ということも全くありません。しかし、一年間、一生懸命やった仕事が無駄にならず、興味を持った人が引き継いでくれる、というのは、嬉しいことです。私にないセールス・マーケティング技術を持った会社が、この製品を世に広めてくれれば、技術者冥利に尽きます。

ビジネスを売る過程で重要と思ったことは:

・サードパーティーのリソース(ソフトウェアや画像、音声など)を使う場合、使ったもののリストを作っておく
・バレないからといって、ライセンスに問題のあるサードパーティーのリソースを使わない
・ソフトウェアのビルド、インストール等を、他の人が引き継げるように、文書化しておく

どれも当然のことですが、スタートアップの激流の中にいると、つい怠ってしまいます。時間と労力を使い過ぎてはいけませんが、いつ人に買われるかわからない、ということを念頭において、必要となればすぐに対策が取れるように、メモを残したりしておくことが大切です。


パートナーを見付けた!

2008-07-18 07:19:55 | Weblog
5月以来、パートナーが必要、パートナーが必要、と思って生活していたら、突然、素晴しいパートナーがみつかりました。しかも、日本食品店で。

そのパートナー、中川ひろさんには、一年前にもお会いして、相談に乗ってもらったことがあります。今回、虹屋という日本食料品店で偶然会い、次のステップどうしようか迷っている、と話をしてみると、丁度、中川さんもプロジェクトの移りかわりの時期で、一緒に働く人を探しているとのこと。丁度いいタイミングですね、と、とんとん拍子で話が進み、協力して次のプロジェクトをすることになりました。

前回も書いたとおり、一年間、一人でビジネスをして分かったのは、会社経営、セールス、マーケティング、エンジニアリングを一人で全部やるのは無理。私はエンジニアリングが好きなので、できればそれに集中したい。社長になるのに必要で、私には無い以下のようなスキルを、中川さんは持っています。

・これを作るんだ、作れば絶対売れる、という信念
・上手くいかなくてもへこたれないタフさ
・お金を集める能力

私は、技術的に面白いものならば、作る物にはあまりこだわらないので、方向性を決める社長の下で、こつこつとを物作りする、というのは、性にあってます。

来月からの柳通りは、今までの、一人での起業から、二人での起業に変わりますが、引きつづきどうぞよろしく。

一年やって、良かったこと、悪かったこと

2008-05-13 09:46:07 | Weblog
起業して一年とちょっと経ちました。上手くいったこと、いかなかったことを、次のステップに進むために反省してみます。

良かったこと:一年持った

辛い時期もありましたが、とにかく一年間、諦めずにやりました。仕事の内容は二転三転しつつも、家族を路頭に迷わせず、私も精神的におかしくもならず、無事に生活しているのが一番の収穫です。

課題:方向性が定まらなかった

仕事の中心になってほしいと思っていたプロジェクトは、最初は PhoneID、次にKeePassJ2ME、それからMyVoiceでしたが、先のふたつは既に撤退。MyVoiceもまだ柱になるほどの収益は上げていません。マーケティングのクラスで先生が、「起業後の数年間は、自分探しの旅みたいなもの」、と言っていましたが、本当にその通りでした。まだまだ何をしていけばいいのか、考え続けないといけません。

良かったこと:自分について分かってきた

自分で何でもしないといけませんし、仕事の内容を選んでいられませんので、会社にいたときはしなかったような仕事を色々しました。その結果、自分の仕事上の好みについて、分かってきたことがあります。

・やはりコーディングが好き。

・プロジェクトマネージメント、つまり仕事をする人と人との間を調整する役目は苦手だと思っていたのですが、やっていると、そうでもないということが分かりました。特に、日米間の言語・文化のギャップを埋めたり、技術的な知識を使ったり、自分の特性を生かせる場合ならやり甲斐を感じられます。

・セールス・マーケティングは苦手。この二つの重要性は、身を持って知ったのですが、自分には向いていないということも分かりました。やっていて楽しくありませんし、非常に疲れます。

課題:パートナーが欲しい

始めたときは、エンジニアリング、セールス、マーケティングと、全部自分でできる、と思っていたのですが、若気の至りでした。セールスとマーケティングは私にとっては非常に難しい。また、何を作るかというアイデアも、残念ながらあまり良いとは言えませんでした。この部分を補ってくれるパートナーが必要だと痛感しています。日本では素晴しいパートナーに恵まれているのですが、アメリカでもそのような人を探さないといけません。セミナーやネットワーキングイベントなどに参加するほうがいいのだろうなあ、と思っています。先の一年間は、2、3回くらいしか行かなかったのですが、毎月一度くらい行くほうがいいかもしれません。

良かったこと:勉強になった

新しい経験を色々し、勉強させてもらいました。

・お金を動かす仕事をする。お金を払った方が、お客は真剣になるので、無料でお客に物やサービスをあげないほうがいいです。別の言い方をすると、お金を払うくらい真剣でないお客とは働かないほうが良い。逆に、仕事をしてもらう時は、給料を払ったほうが、責任を持ってしてくれます。

・ニッチというのは良いものである。「ニッチマーケット」というと、会社で働いていたときは、マーケットが小さいと言われているようで、あまり良い印象の言葉ではありませんでした。しかし、小さい会社は、大企業と正面切って戦うことはできませんから、大企業が入って来ない(来れない)、自分にあったニッチを見付けるのは非常に大切です。業種が特殊ならば特殊なほど、安定したビジネスに繋がります。

・ハードワークしてはいけない。社長業というのは、休み中でも仕事のことをついつい考えてしまいますし、責任もあるので、気疲れします。会社で働いているときのように一生懸命働くと、身体を壊してしまうので、上手く休まないといけません。

今年もがんばりますので、どうぞよろしく。


MyVoiceの初売り上げ

2008-04-24 08:51:15 | Weblog
AchieveKids という、近所にある障害児向けの学校が、MyVoiceを6台購入してくれました。ここ以前のお客さんはテスト用に一台、ハードウェア代を出してくれるだけだったので、ソフトウェアのライセンスを買ってくれたところは初めてです。

二ヶ月ほど前に、はじめて学校を訪ねたときに、先生方が大変な興味を示してくれました。そこで副校長と、契約の細部を話し合い、今回の購入に至ったわけです。副校長は非常に優秀な、簡単には引き下がらない女性で、交渉相手としては手強かった。この学校のために MyVoice Author を開発し、サポート内容も細かく決めました。しかし、最初のお客にこのような、真剣で有能な人を得たというのは、これからのビジネスにはプラスになるのではないかと思います。

最大のお客なので、ここをしっかりサポートし、満足してもらうことが重要です。一年分のサポート代も払ってもらったので、ここまで来たらもう後戻りはできないなあ、と気を引き締めています。

MyVoiceウェブサイト計画

2008-03-25 04:09:17 | Weblog
MyVoice のウェブサイト作りを手伝ってくれる人を募集したところ、興味を持ってくれる人がいましたので、詳細を書きます。前に書いたとおり、MyVoiceは、自閉症の子供を支援するデバイスです。デバイスの中に絵や音声がたくさん入っており、これを使って子供が自分の言いたい事を表現したり、子供のための教材として使います。例えば、バナナの画像を選ぶと「バナナが食べたい」とデバイスが発音。トイレを選ぶと「トイレに行きたい」と言ってくれます。

デバイスを売り込みに行くと、子供の親や先生に真っ先に訊かれることは、「中身を変えられるか」ということです。自閉症の子供は千差万別で、写真を使うほうがいい子供もいるし、絵のほうがいい子もいる。絵の下に字で「バナナ」等と書いてあったほうがいい子も、そうでない子もいます。また、同じ子供でも、数ヶ月するとコミュニケーション能力が進歩するので、新しい絵と音声を使わないといけません。

そこで、デバイスの内容を変更するための、オーサリングツールを作りました。これはPC上で走るソフトウェアです。デバイスの内容の画像と音声は、下に行くほど枝分かれしていく、木構造で作られています。例えば「食べ物」というカテゴリの中に「果物」というサブカテゴリがあり、その下に「りんご」「ぶどう」などが入る。オーサリングツールを使うと、この木構造を変更したり、新しい画像や音声を挿入したりできます。これがそのスクリーンショットです。



次のステップは、作ったり、変更したりした内容を、ユーザー同志で共有すること。これをウェブサイトでやりたい。例えば一人の親が、日本食好きの子供向けの画像、音声のセットを作り、ウェブサイトにアップロードすると、他のユーザー達もこれをダウンロードして使ったり、更に変更を加えて貢献したりできます。色々なセットを充実させて、様々なニーズを持つ自閉症の子供の要求に応えたいのです。

そのために、ユーザー参加型(Web2.0)のウェブサイトを立ち上げるのが目標です。しかし私はウェブサイトの構築、デザインの経験がありませんので、誰かが手伝ってくれると非常に助かります。

・ステップ1は、画像、音声セットの含まれるフォルダを .zip に圧縮して、アップロードし、紹介文と共に表示してダウンロードできる、簡単なウェブサイトでいいと思います。

・ステップ2は、オーサリングツールと連動させて、ツールから直接アップロード、ダウンロードできるといいと思います。

・ステップ3は、これは上手く行くか分かりませんが、ブラウザ上でセットを変更できるようにする、というのが理想のように思います。Windows以外の OS でも使えるようになりますし、ウェブサイトとのインテグレーションも良くなるでしょう。

興味のある方はコメントするか、nao@itoillc.com までメール下さい。

MyVoiceのセールスを始める

2008-03-23 07:41:07 | Weblog
1月に書いた自閉症の子供用の支援デバイスの開発が進み、デバイスを実際に使用できる段階まできたので、売り込みをはじめました。商品名は MyVoice。パンフレットもあります。

最初のセールス活動は、一緒に働いているスピーチセラピストが紹介してくれた、自閉症の子供のいる親二組に会うことでした。しかし、全く買う気になってもらえず失敗。自閉症の子供には色々なレベルがあり、MyVoiceは初級レベルの子供向けなのですが、彼等の子供は既に、中級レベルに逹していたのが敗因でした。また、この時は売り値を5万円程度に設定していたのですが、親が簡単に出せる金額ではありません。

親に売り込むのはなかなか難しいのではないか、と思って方向転換し、今度は、自閉症の子供の教育をする私立の学校に片っぱしからメールを送ってみました。二、三日かけて送ったのですが、一週間ほど、全く返事がありません。親に話しても、学校にメールしても、全く興味を持ってもらえないと思うと、しょせん売れないのではないか、と落ち込みました。やめてしまおうか、という気持になります。

しかし、これは早とちりでした。私がメールを送ったのは二月の最終週。妻に言われて知ったのですが、この週はほとんどの学校は休み。次の週からちらほらと、興味があるから商品を見せに来てくれ、という連絡が入りだしました。現在のところ、一台買ってくれた学校が一つ。一台買うと言ってくれた障害者の支援団体が一つ。もう一つの学校は、MyVoiceの中身(画像・音声)を変更するツールを開発してくれれば六台買いたい、と言ってくれました。

興味を持ってくれる人がだんだん出て来て、ビジネスとしてはまずまずの滑り出しなのですが、セールスで人に会うと、私はものすごく疲れてしまいます。人によるんでしょうが、私の場合は開発に専念できたらそれに越したことはないなあ、と実感しました。ビジネスを起こして最初の数年というのは、自分が何に向いていて、何が好きなのかを見付ける、自分探しの旅みたいなものだ、という話を聞いたことがありますが、その通りかもしれません。

しかし、楽しい事もあります。ドアが一枚一枚開いていく、という感触です。一人の親が興味を持ってくれれば、その友達を紹介してくれます。子供が通っている学校に商品を持って行ってくれることもあります。一つの学校が興味を持ってくれれば、その分校や関係校にも繋がりが出来ます。こうやってじわじわと、自分の作った製品が広がっていくのを見るのは楽しい。また、エンジニアとして働いていたころは会う機会のなかったタイプの人達に会うのも楽しみです。例えばスピーチセラピストや、障害児の先生で、その道何十年ものベテランとなると、やはりその仕事ぶり、プロ意識、献身的な態度には感銘を受けます。

そして、もう一つ発見があったのは、セールスに行くと、毎回最後に「こういうデバイスを作る努力をしてくれてありがとう」と言われることです。私はこの仕事を、ボランティアではなくて、ビジネスとしてやっているので、「ありがとう」と言われると少しびっくりするのですが、なるほど、こういう製品を必要としている人が、本当にいるんだなあ、苦しくてもがんばらないと、と励みになります。

*誰かセールスとマーケティングを手伝って下さる方がいれば、ご一報下さい。経験が無くても構いません。我々も手探りで進んでいる状況なので、一緒に勉強しながらやっていきましょう。また、親や先生が使う読者参加型(Web2.0)のウェブサイトも立ち上げたいので、これを手伝ってくれる方も大歓迎です。*

企業理念:人の役に立つ、しっかりした技術

2008-02-26 03:23:57 | Weblog
会社を始めて間もないころ、企業理念 - 会社が存在する理由 -を決めて、どこか見やすいところに貼っておけ、と父に言われました。迷ったとき、困難に突きあたったときに、進む方向を定める指針になるように。それで決めたのがこれです。

「人の役に立つ、しっかりした技術」

簡単な文句ですが、私なりに考えがあります。

シリコンバレーの会社で5年ほど働いて思ったのですが、会社というのは、儲けることが一番大事で、必ずしも人の役に立たなくても構いません。例えばソフトウェアは、機能がたくさんあった方売れるのです。機能が多すぎると使いにくくなることがありますが、これを改善してもセールスには結び付かないので、改善されない。

開発の方向を定める人が、お客さんのニーズをしっかり把握せず、「こういう物を作ればいいんじゃないかな」と適当に決めて作ったものが使い物にならない、ということもあります。ユーザー数が少なく、売り上げがあまり期待できない商品は、そもそも開発されません。先月書いたような、自閉症の子供用のデバイスはその一例です。

大企業が利益を最優先にし、小口のお客を無視するのはしかたありません。しかし私は、小さい会社ならば、これとは違う哲学で活動することが可能なのではないかと思います。顧客の数は多くなくても、要求をよく聞いて、しっかりしたソフトウェアを作っていけば、ビジネスとして利益を上げられるのではないか。

シリコンバレーに、サンノゼ豆腐という豆腐屋があります。小さなお店で、二、三人で豆腐を作っていますが、これが非常においしいのです。パック売りのものとは比べものになりません。アメリカに住んでいるのにおいしい豆腐が食べられるというのは、何と嬉しいことでしょうか。小さくても、高い技術力で、お客さんに喜んでもらえるものを作る。私がお手本にする会社の一つです。

このように考えて、企業理念を決めました。

起業をに間近みて - その2

2008-01-28 14:20:30 | Weblog
***今回も妻が書いてくれました***

夫がここ2日間ほど、仕事をお休みにしています。そうです、完全休業です。彼が起業するまで気づかなかったのですが、起業家と私のような勤め人は、根本的に時間のとらえ方が違います。私はオフィスから出ると、大抵の場合は頭の中にある仕事のスイッチがスパッと切れ、一日の残りは自分のプライベートな時間、と考えるのがあたりまえです。

しかし自分のビジネスを持つ夫は違います。週末であろうと、大晦日であろうと、会社の命運は自分の肩にかかっているわけで、常にどの方向へ進んでいくべきなのか、果たして今やっていることが成功するのであろうか、などと頭の中で問答が繰り返し行われているのだと思います。休日に家族でファーマーズマーケットに出かけたり、Peets' Coffee でお茶をしていても、常に頭のどこかに仕事があるのでしょう。それだけ、自分の会社を持つというのは大変なことのようです。勇気を持って起業しても、そこから本当のチャレンジが始まるのだと切実に思います。自分が現在取り組んでいる仕事やビジネスアイデイアを強く信じていかないと、すぐに迷子になってしまう、そんな印象です。

常に仕事のことが頭から離れないので、体も休まりません。起業してから、風邪を引きやすくなったと夫自身も気づいているようです。今回、思い切って2日間完全休業宣言をし、仕事から離れるということは、重要なステップなのではないかと思います。この2日間の休業も、「今日は仕事のことを考えない」という強い意思をもって過ごしているようで、少し痛まくも思えます。夫が「プライベートの時間」をもっと楽に持てるようになる日が早く来ることを願っています。


自閉症児支援デバイス

2008-01-17 03:32:35 | Weblog
明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしく。

今回は、先月書いたセキュリティ関係の仕事と並んで、私が力を入れている自閉症関係の仕事について書きます。

自閉症の子供は最近増えていて、アメリカでは150人の子供のうち1人が自閉症と診断されるとのこと。その症状の一つが、人とのコミュニケーションがうまく取れないということで、それが社会生活の障害になります。その解決のために、コミュニケーション支援デバイスがいくつも開発されています。例えば、子供が英単語を入力したり、絵を選択したりすると、何が食べたい、どこに行きたい、と子供に代わって声を出してくれるデバイスです。

しかし今市場に出ているデバイスは、大きくて重く、値段も高いものばかりです。重いデバイスを持ち歩くのは子供には負担ですし、落として壊す恐れがあり、そのたびに親の出費がかさみます。これをなんとか解決できないだろうかと相談を受けたのがこの仕事の始まりでした。

最初に開発したのは、携帯電話上で使える支援アプリケーションです。現在使われている携帯はどれも、Javaアプリケーションを走らせることができます。誰でも持っている携帯電話を使うので、ユーザーが新しいハードウェアを買う必要がないのが利点でした。このアプリケーション開発には数ヶ月かかりましたが、ユーザー数が増えず、プロジェクトは失敗に終わりました。日本の携帯電話はプロバイダ(ドコモ、KDDI、ソフトバンク)によって開発環境が違うので、プロバイダごとに異なるアプリケーションを開発する必要があります。また、機種によっても動作が違うので、この機種で動いているのにあの機種では動かない、という問題がよく起きました。私一人ではとても全ての機種をサポートできません。アプリケーションをインストールしてから、立ち上げる方法も複雑で、しかも機種によって違います。自閉症の子供を持つ忙しいご両親達に、マニュアルを読んで立ち上げ方を勉強して、というのは無理なお願いでした。

次に試みたのは、専用の小型デバイス上での支援アプリケーションの開発です。一台2万円ほどのハードウェア代がかかりますが、テストはこのデバイスだけですればいいので、開発コストは安くすみます。今、市場に出ている製品より小さく、軽く、安く作れるはずです。また、電源を入れるだけでアプリケーションが立ち上がるので、携帯電話上のアプリケーションの使いにくさの問題も解決されます。

自閉症児教育の専門家であるスピーチセラピストの一人がこのデバイスに興味を持ってくれました。モニターとして、テストし、助言してくれています。知り合いのお子さんや、セラピストに、自分の開発したデバイスを使って喜んでもらえるのには大変感動しました。

モニター試用をしていただいた結果、デバイスの仕様(絵、音声、操作法)はセラピストと子供にあわせて変える必要があるのがわかりました。セラピストの教育方針、子供のセラピーの進み具合によって仕様が変わります。子供の好きな食べ物やおもちゃの絵を、デバイスに載せてセラピーで使うのですが、これらは当然、子供ひとりひとりに合わせて違うものを載せなければいけません。そこで、一つのプロダクトを大量生産するのではなく、セラピストと相談しながら、それそれの子供に合うよう、デバイスの中身を作り変えていく、というサービスを中心としたビジネスを考えています。

人の役に立つ物が作れて、自分の家族が食べるのに困らないぐらい稼げたら、エンジニアとしてそれに勝る喜びはないなあ、と思う今日このごろです。

Getting A Break

2007-12-13 02:20:33 | Weblog
11月のある日、大きな仕事が舞い込んで来ました。うまくいけば、これからの数年間はこれで十分生活していけるくらいの収入になりそうな仕事です。内容は私の専門のセキュリティ関係で、技術的に面白いし、発展性もあります。

この仕事の依頼のメールを読んだときには、実感が湧かず、ゆっくり考えてみようと、近所のスタンフォード大に散歩に行きました。考えれば考えるほど、これは非常にありがたい話です。それと同時に、"I got a break" という英語のフレーズが頭に浮かびました。

"Break" という単語には二つの意味合いがあると思います。一つは、長い労働から解放されて一休み、という意味。"Coffee break" というふうに使いますね。もう一つは、幸運、という意味で、"Lucky break"などと言います。この言い回しが頭に浮かんだ理由は、私の気持が、この両方の意味にぴったりきたからです。

起業してから8ヶ月間、安定した収入とお客なしで、手探りでやってきました。そのプレッシャーから解放されて一息つける、という気持が、一つめの意味。8ヶ月の間は必死なので自覚がなかったのですが、解放されて振り返ってみると、なかなか辛かったんだなあ、とわかります。前回のブログの妻のエントリを読んでも、随分心配かけてたんだなあ、と思いました。

また、いくら努力していい仕事をしても、お客がついてお金を払ってくれないと、ビジネスとしては成功とは言えません。お客の意思決定プロセス、財政状況等は、自分ではどうにもできませんから、ビジネスの成否には運も大きな影響を及ぼします。今回はいいタイミングで、素晴しいお客に巡り会えたので、幸運だったとも感じます。

私のビジネスが大きく育っていくためには、いくつも break にめぐり会わなければならないでしょう。そして、得た機会を確実にものにしていかないといけません。この仕事は来年初頭から本格的に始まります。まずは、初めての大きな獲物を、がっちり掴まえよう、と気持を引き締めている年の瀬です。