柳通り便り

アメリカでの勉強と仕事に関するよしなし事

起業をに間近みて - その2

2008-01-28 14:20:30 | Weblog
***今回も妻が書いてくれました***

夫がここ2日間ほど、仕事をお休みにしています。そうです、完全休業です。彼が起業するまで気づかなかったのですが、起業家と私のような勤め人は、根本的に時間のとらえ方が違います。私はオフィスから出ると、大抵の場合は頭の中にある仕事のスイッチがスパッと切れ、一日の残りは自分のプライベートな時間、と考えるのがあたりまえです。

しかし自分のビジネスを持つ夫は違います。週末であろうと、大晦日であろうと、会社の命運は自分の肩にかかっているわけで、常にどの方向へ進んでいくべきなのか、果たして今やっていることが成功するのであろうか、などと頭の中で問答が繰り返し行われているのだと思います。休日に家族でファーマーズマーケットに出かけたり、Peets' Coffee でお茶をしていても、常に頭のどこかに仕事があるのでしょう。それだけ、自分の会社を持つというのは大変なことのようです。勇気を持って起業しても、そこから本当のチャレンジが始まるのだと切実に思います。自分が現在取り組んでいる仕事やビジネスアイデイアを強く信じていかないと、すぐに迷子になってしまう、そんな印象です。

常に仕事のことが頭から離れないので、体も休まりません。起業してから、風邪を引きやすくなったと夫自身も気づいているようです。今回、思い切って2日間完全休業宣言をし、仕事から離れるということは、重要なステップなのではないかと思います。この2日間の休業も、「今日は仕事のことを考えない」という強い意思をもって過ごしているようで、少し痛まくも思えます。夫が「プライベートの時間」をもっと楽に持てるようになる日が早く来ることを願っています。


自閉症児支援デバイス

2008-01-17 03:32:35 | Weblog
明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしく。

今回は、先月書いたセキュリティ関係の仕事と並んで、私が力を入れている自閉症関係の仕事について書きます。

自閉症の子供は最近増えていて、アメリカでは150人の子供のうち1人が自閉症と診断されるとのこと。その症状の一つが、人とのコミュニケーションがうまく取れないということで、それが社会生活の障害になります。その解決のために、コミュニケーション支援デバイスがいくつも開発されています。例えば、子供が英単語を入力したり、絵を選択したりすると、何が食べたい、どこに行きたい、と子供に代わって声を出してくれるデバイスです。

しかし今市場に出ているデバイスは、大きくて重く、値段も高いものばかりです。重いデバイスを持ち歩くのは子供には負担ですし、落として壊す恐れがあり、そのたびに親の出費がかさみます。これをなんとか解決できないだろうかと相談を受けたのがこの仕事の始まりでした。

最初に開発したのは、携帯電話上で使える支援アプリケーションです。現在使われている携帯はどれも、Javaアプリケーションを走らせることができます。誰でも持っている携帯電話を使うので、ユーザーが新しいハードウェアを買う必要がないのが利点でした。このアプリケーション開発には数ヶ月かかりましたが、ユーザー数が増えず、プロジェクトは失敗に終わりました。日本の携帯電話はプロバイダ(ドコモ、KDDI、ソフトバンク)によって開発環境が違うので、プロバイダごとに異なるアプリケーションを開発する必要があります。また、機種によっても動作が違うので、この機種で動いているのにあの機種では動かない、という問題がよく起きました。私一人ではとても全ての機種をサポートできません。アプリケーションをインストールしてから、立ち上げる方法も複雑で、しかも機種によって違います。自閉症の子供を持つ忙しいご両親達に、マニュアルを読んで立ち上げ方を勉強して、というのは無理なお願いでした。

次に試みたのは、専用の小型デバイス上での支援アプリケーションの開発です。一台2万円ほどのハードウェア代がかかりますが、テストはこのデバイスだけですればいいので、開発コストは安くすみます。今、市場に出ている製品より小さく、軽く、安く作れるはずです。また、電源を入れるだけでアプリケーションが立ち上がるので、携帯電話上のアプリケーションの使いにくさの問題も解決されます。

自閉症児教育の専門家であるスピーチセラピストの一人がこのデバイスに興味を持ってくれました。モニターとして、テストし、助言してくれています。知り合いのお子さんや、セラピストに、自分の開発したデバイスを使って喜んでもらえるのには大変感動しました。

モニター試用をしていただいた結果、デバイスの仕様(絵、音声、操作法)はセラピストと子供にあわせて変える必要があるのがわかりました。セラピストの教育方針、子供のセラピーの進み具合によって仕様が変わります。子供の好きな食べ物やおもちゃの絵を、デバイスに載せてセラピーで使うのですが、これらは当然、子供ひとりひとりに合わせて違うものを載せなければいけません。そこで、一つのプロダクトを大量生産するのではなく、セラピストと相談しながら、それそれの子供に合うよう、デバイスの中身を作り変えていく、というサービスを中心としたビジネスを考えています。

人の役に立つ物が作れて、自分の家族が食べるのに困らないぐらい稼げたら、エンジニアとしてそれに勝る喜びはないなあ、と思う今日このごろです。