坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

奥田小由女氏の底力

2014年11月16日 | 展覧会
現在、国立新美術館で日展が開催中ですが、日展は昨年第45回日展の開催を前に、書、てん刻審査における事前配分の報道がなされ、文化庁の方からも審査の透明性を求める改革への指導がありました。
今回は、その改革から改組新第1回日展と改め、第三者委員会を設け、審査の透明性などを含む改革への精神を表わしました。
日展の新理事長となったのが、奥田小由女氏です。この掲載作品は、70年代の初期のシリーズの「風」です。現在のエジプトの女王の雰囲気をまとう「守護神」などの彩色の像のどちらかと言えば静的なイメージとは異なり動のイメージが鮮烈な印象を生みます。桐の木を彫刻したり、つなぎ合わせたりしたあと、一気に胡粉で仕上げていきます。緊張感と集中力が必要となってきます。
日本画家の故奥田元宋氏とご結婚されたあとは、お忙しくなり、白の作品は時間的にも精神的にもできなくなり、一時、作家をあきらめようかとも思われたそうです。
いろんな色を試してみてはという、元宋氏の助言もあり、制作的に時間をつぎはぎしてもできる彩色の作品へと移行しました。その世界においては、清らかな色合いで、平和への祈りや生命の尊厳が込められています。
創作への情熱、生きるとはどういうことかという点においても、小由女氏にインタビューをして考えさせられました。 

盛況です。ロイヤル・アカデミー展

2014年11月05日 | 展覧会
東京富士美術館(八王子)で開催されているロイヤル・アカデミー展に行ってきました。平日でしたが、都心の美術館かとおもわれるほど、盛況で、あちこちで、「すごいテクニックね」という声が聞こえてきました。
印象派展がすこし食傷気味の方は、写実力の高い名作をじっくりと鑑賞できます。神話や宗教画ではなく、自然と人との結びつきや、農婦たち、そして何よりも小さい女王様のエヴァレット・ミレイの〈ベラスケスの想い出〉から始まる気品高い女性像の数々で魅了します。

◆ロイヤル・アカデミー展/開催中~11月24日/東京富士美術館
 愛知県美術館/2015年2月3日~4月5日

日展 -具象画の登竜門として

2014年11月01日 | 展覧会
公募展の最大規模、歴史を刻む日展が今年も開幕し、新理事長、奥田小由女氏へのインタビューの仕事で行ってきました。
改組 新 第1回展ということですが、日展は1936年に新文展として発足し、日本の美術界をリードする作家を育ててきました。
その問題の提起となったのは、昨年第45回日展の開催を前に書審査における事前配分の報道がなされたことが浮かび上がります。
さらに公益性を高め、第三者委員会を設置して日展全体を調査し、さらに有識者の方にも改革検討委員会に参加して頂き、そこで検討された案を基本として大改革がすすめられるようです。
私は、洋画、日本画を主に観て回りましたが、テーマも豊富で、堅実な技術を土台に大作がめにつきました。やはり100号以上の作品には時間をかけた充実した内容が盛り込まれていました。

◆改組 新第一回日展/開催中~12月7日/国立新美術館 

フェルディナント・ホドラー展  線の画家

2014年10月31日 | 展覧会
身体的リズムのある刻むような線の律動が画面に走っています。生のリアリズムを画面から発散せている。19世紀末のスイスを代表する画家、フェルディナント・ホドラー。気迫のこもったスケール感が魅力です。
待望のホドラー展が実現しました。近年ではフランスやアメリカでも相次いで個展が行われるなど、その存在にはあらためて国際的な注目が集まっています。
ホドラーは、世紀末の象徴主義に特有のテーマに惹かれる一方、身近なアルプスの景観を繰り返し描きました。また、類似する形態の反復によって絵画を構成し、人々の身体の動きや自然のさまざまな事物が織りなす、生きた「リズム」を描きだすことへと向かいました。
ベルン美術館をはじめ、スイスの主要な美術館と個人が所蔵する油彩、素描など約100点によりホドラー芸術に迫ります。
掲載作品は、〈悦ばしき女〉1910年 ベルン美術館

◆フェルディナント・ホドラー展/開催中~2015年1月12日/国立西洋美術館
 ・2015年1月24日~4月5日・兵庫県立美術館
 

ロイヤル・アカデミー展

2014年10月30日 | 展覧会
八王子の東京富士美術館で、華麗なる英国美術の殿堂「ロイヤル・アカデミー展が開催されています。ロイヤル・アカデミーというと少し保守的なイメージが伴うのですが、印象派以後の作品とは、また趣の異なる豊かな写実派をじっくりと堪能できます。
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツは、ロンドンの観光名所として名高いピカデリー・サーカス近くに居を構える英国の芸術機関です。1768年に画家や彫刻家、建築家を会員として国王ジョージ3世の庇護のもとに創設されました。
本展は、ロイヤル・アカデミーのコレクションをかってない規模で紹介する展覧会で、アカデミー初代会長のレノルズをはじめ、ゲインズバラ、ターナー、カンスタブル、ミレイといった英国美術界を華やかに飾った歴代会員の優れた作品を中心に約90点の作品で、創立当初から20世紀初頭までのアカデミーにおける150年の歴史をたどります。
掲載作品 ジョン・エヴァレット・ミレイ〈ベラスケスの想い出〉
東京富士美術館は初めてという方は、ミレー作品で知られる村内美術館も近くにありますので、連休などで、車でドライブしてみてはいかがでしょうか。


◆ロイヤル・アカデミー展/開催中~11月24日/東京富士美術館(八王子)

野田弘志展

2014年10月29日 | 展覧会
日本の写実絵画界をリードする野田弘志氏(1936~)。写実絵画専門のホキ美術館に収蔵されている今ブームとなっている礒江毅氏、大矢英雄氏、諏訪敦氏ら広島市立大学で教鞭をとる人気画家たちも、野田氏の薫陶を受けた方々です。
本展では、30代のデビュー作品から最新作までホキ美術館所蔵の24点と他館所蔵の3点を一堂に展覧する野田氏の創作ワールドが堪能できます。
長い時間をかけて年に1,2点のみ仕上げる貴重な野田作品は、等身大の人物像、風景画、静物画からなります。「生きるために描くのではない、描くために生きるのだ」と語る野田氏にとって最も貴重なのは、作品制作にかける時間であり、全身全霊で作品制作に取り組んでいます。
また、本展では、縦2メートル横1.5メートルの〈崇高なるもの〉のシリーズの新作を発表されます。

◆野田弘志展/11月21日~2015年5月17日/ホキ美術館(千葉市)

袴田京太朗 人と煙、その他 

2014年05月11日 | 展覧会
袴田京太朗さん(1963年~)は、もっとも注目を集めている彫刻家の一人です。彫刻という概念も今日では、多様な広がりがあり、概念的な規定が難しくなっています。
袴田さんも、また彫刻とは何かという問いかけを基盤として、概念の拡大に挑戦している作家です。
私は、数年前に、資生堂ギャラリーで開催された椿会のグループ展で、、掲載の「扮する人」のシリーズだと思うのですが、家族像が可愛いフィギュア的な人物が、壁にイスタレーションされていて、面白い視覚と手法が気になっていた作家です。
この近年の作品では何色もの色鮮やかなアクリル板を積み重ねてつくられ、明るいポップなイメージもありながら、彫刻の枠組みも考えさせられました。
その袴田さんの大規模な個展が、現在平塚美術館で開催されています。
声高に表現するのではなく、手仕事と機械的な要素が混合して、不思議な世界観へと誘います。

◆袴田京太朗 人と煙、その他/開催中~6月22日/平塚市美術館

オランダ・ハーグ派展

2014年04月18日 | 展覧会
ハーグ派は、オランダの古都ハーグにあって、1870年頃から1900年に至る約30年間にわたり、オランダ絵画に新風だ数世代の芸術家を総称して呼ばれています。
近代のオランダと言えば、ゴッホ。ゴッホは彼らのことを〈大物〉と呼んで尊敬していました。そしてオランダは、17世紀レンブラントやフェルメールを生んだ地でもあります。自然主義とリアリズムの宝庫でもあります。
ハーグ派の画家たちは、近代化する社会風潮の中で、ルソーの「自然に帰れ」という提唱が示すように、農民の生活や、オランダの原風景でもある風車のある運河沿いの風景など、華やかさではなく質実な生活や風景を描いていきます。
初期の画家たちは、フランスのバルビゾン派にも影響を受けています。
じっくりと一作一作を鑑賞したい展覧会です。

◆オランダ・ハーグ派展/4月19日~6月29日/損保ジャパン東郷青児美術館(西新宿)

美しき貴婦人の肖像

2014年04月09日 | 展覧会
現在開催中のミラノの邸宅こコレクションによるポルディ・ペッツォーリ美術館展の内覧会に行ってきました。
ミラノの大聖堂やオペラハウスにほど近い邸宅のコレクションを公開している美術館は、ぜひ行ってみたい美術館の一つでもあり、今年楽しみな展覧会の一つでした。
この日は、館長のアンナリーザ・ザン二女史も出席し、「これほどの数々の作品が国外に出たのは初めてです。日本の方々と美意識を共有できれば嬉しい」と話されました。
甲冑などの武具や品格のあるヴェネツィアングラスなどの調度品も惹きつけられました。
やはり、その中でも初期ルネサンスを代表するポッライウォーロの傑作である〈貴婦人の肖像〉に見入ってしまいました。この時代流行した横顔の女性の肖像は、細い面相筆で描いたような線で輪郭線が描かれ、くっきりと浮かび上がっています。衣装や装飾品でかなり身分の高い婦人と言われるだけで、名前は判明していません。
真珠のペンダントから結婚のお祝いで描かれたようです。薄いベールで髪の毛が束ねられ、凛とした美しさをひきたてています。

◆ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館 華麗なる貴族コレクション
 開催中~5月25日/Bunkamuraザ・ミュージアム (渋谷・東急本店横)

中村一美の挑戦

2014年04月08日 | 展覧会
現在、国立新美術館で開催されている中村一美展に行ってきました。中村一美さん(1956年~)の都内で初の大規模な個展となります。学生時代の作品から新作「聖」まで約150点の展覧です。
集大成と言うべきなのか、この先もより進化していく気配を感じました。
彼は、辰野登恵子さんらとともに、80年代のニューペインティングのリーダーとして、絵画の可能性を追求してきた一人です。
ご存じのように、戦後の前衛美術は、ニューヨークを舞台とした、ジャクソン・ポロック、マーク・ロスコ、バーネット・ニューマン、フランク・ステラへと抽象表現主義の
流れのなかで、絵画とはどのような形式で成り立つのか、絵画と物質性など、絵画の形式の領域が問われてきました。
中村さんは、アメリカの抽象表現主義の流れを検証しつつ、日本の土壌、自らの出自に、中国の古典絵画などによる絵画性の成り立ちを研究していきます。
掲載の作品は「存在の鳥」のシリーズの1作です。鳥にいて鳥にあらず。彼は、どのような鳥を追っかけているのでしょうか。
画面全体に筆のタッチがうねり、のたうつような力強い色彩の発色で、見る者を圧倒していきます。

◆中村一美展/開催中~5月19日/国立新美術館 企画展示室1E


もう一つのシャポ二スム展

2014年03月14日 | 展覧会
今年の夏を彩るのは、モネの「ラ・ジャポネ―ズ」でしょうか。
あでやかな赤地に武者絵の刺繍の豪奢な着物を着て、扇子をもつまだ若い夫人のカミーユ。金髪のかつらをつけ、色彩の対比を強く打ち出しました。
印象派時代以後、モネはこのような人物画を描いていませんので、そういう意味でもモネの写実力の技量をみることができます。
ゴッホの鮮やかな色彩の対比など、浮世絵の影響が感じられる作品など印象派の画家たちは、日本趣味に関心を寄せました。中でも、温かい日常の母子像で知られるメアリー・カサットも歌麿に強く惹かれました。
そして、少し視点を変えて、フランスとイギリスで活躍した、画家で版画家のホイッスラーも浮世絵の奇想天外な構図にひかれ、広重の橋の構成に影響を受けた橋の光景をのこしています。
また、ムンクの木々の表現にもシャポ二スムの構図を意識して、自然の神秘を表わしました。
本展は、実際に日本の工芸や浮世絵を描いた画家と空間構成や色彩に影響を受けた画家など広い視野でジャポニスムをとらえています。

◆ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展/6月28日~9月15日・世田谷美術館
 9月30日~11月30日・京都市美術館他

中村一美展

2014年03月02日 | 展覧会
中村一美(1956年~)は、1980年代に台頭してきた日本のニューぺインティングを代表する作家の一人です。
戦後、アートの前線はニューヨークに移り、ポロックやジャスパー・ジョーンズ、そしてバーネット・ニューマンら抽象表現主義のアーティストに引き継がれていきます。
そこには、絵画とは何なのか、絵画の形式を問う問題の提起がありました。
フランク・ステラもまた三次元的絵画、サーキットのシリーズで、この作品は絵画の領域に入るかの問いを、私たちに投げかけました。
中村は、抽象表現主義の方向だけでなく、絵画理論は東洋的、日本的解釈へと導きます。東洋思想、仏教観を軸に、現代絵画の新たな可能性を探るべき、巨大なキャンバスに向かい、筆触の力強さ、色相の差異による視覚の変化など、可能性を追求しています。
本展は、初期作品から最新作が並び、中村の表現の深化を探ります。
80年代から今日までの歩みを概観する貴重な展覧会となります。

◆中村一美展/3月19日~5月19日/国立新美術館1階 企画展示室

菱田春草展

2014年03月01日 | 展覧会
お化けの次は、可愛い猫登場。近代美術の草創期に清新な息吹を与えた菱田春草。今年は春草生誕140年ということで、東京国立近代美術館に100点を超える作品を集めて大回顧展が開催されます。
代表作、空間表現が独特の「落ち葉」や「黒き猫」など近代美術史上の名作の数々が並びます。
黒い猫が、幹の上に乗っかり、こちらを見つめています。穏やかな日差しが感じられます。猫は辺りに注意を払い、こちらの動勢を伺っているようにも見えます。
切手などにもなりましたので、春草は知らなくても、この作品をご存じの方が多いと思います。春草は、この作品をわずか数日で描き上げたそうです。
その1年後、36歳という若さで早世した春草は、まさに早熟の天才と言えるでしょう。

◆菱田春草展/9月23日~11月3日/東京国立近代美術館


北斎 ボストン美術館

2014年02月28日 | 展覧会
葛飾北斎は、江戸後期に活躍した浮世絵師で、世界で最も知られた日本の絵師と言ってもいいでしょう。
90歳で没するまでに、これほど幅広いテーマに果敢に挑戦し、新しい表現を開拓した絵師も少ないでしょう。
よく知られた「冨獄三十六景」は、人生の後半で制作され、本展では、21図が出展されます。
ご存じのように、ボストン美術館は日本以外で日本美術の質、量ともに世界一のコレクションを所有し、120年前に世界初の北斎の本格的な回顧展を開いたのも当美術館でした。
本展では、役者絵にはじまり「諸国瀧廻り」など著名な浮世絵版画など機知に富んだ構図と色鮮やかな北斎ワールドが紹介されます。
私は、江戸時代に流行した、怪談話を語る遊びを表題にした百物語のお岩さんに注目。現代の画家もびっくりの奇想とマンガ的な魅力に北斎の表現の力を感じます。

◆北斎 ボストン美術館 浮世絵名品展/4月26日~6月22日・神戸市立博物館
 7月12日~8月31日・北九州市立美術館分館 9月13日~11月9日・上野の森美術館

キトラ古墳壁画

2014年02月25日 | 展覧会
古墳壁画は、古代、中世のロマンを育みます。
奈良県明日香村のキトラ古墳(特別史跡、7世紀末から8世紀初め)の極彩色壁画が東京で特別開催されます。
「四神」のうち、朱雀、百虎、玄武、獣の顔と人の体を持つ「十二神像」のうち、子・丑が展示されます。
壁画の発見以来、明日香村以外で公開されるのは今回が初めての機会となります。
キトラ古墳における壁画の発見は1983年で、本古墳は、高松塚古墳に次ぐ我が国2基目の大陸風壁画古墳であることが明らかとなりました。
キトラ古墳石室の内面には、厚さ数ミリの漆喰が塗られ、壁に四神および獣頭人身の十二支、天井に天文図及び日月像が描かれています。これはいずれも中国の陰陽五行思想に基づいて石室を一つの宇宙に見立て、被葬者の魂を鎮めるものとされています。
掲載の朱雀は、南壁に描かれ、長い尾羽をなびかせた堂々とした姿と大きく見開いた眼の描写が特徴となっています。

◆キトラ古墳壁画/4月22日~5月18日/東京国立博物館 本館特別5室