眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

『きみはいい子』

2017-01-05 16:28:56 | 映画・本

個人的な「ひとこと感想」その5。

原作小説(中脇初枝著)がそもそもそうなのだけれど、この映画もある種の群像劇で、オムニバス?のような作りにも見える。でも・・・

「若い小学校教師(男性)と生徒たちの日々」には「いじめ」や「子どもの貧困」が。「マンションに住むママ友たちの交友風景」には「虐待の連鎖」やそもそもの「ママ友関係の難しさ」が。「認知症の兆しに怯える高齢者(女性)」には「老い」、「一人暮らし」、何よりも「認知症」への恐怖そのものが。「発達障がい?のある息子とシングル・マザーの日常」には、集団に足並みを揃えることの出来ない人間に対する周囲の冷たさ、一人親家庭の大変さ・・・などなど。

ごく普通の人々を描きながら、みんながそれぞれ、何かを抱えて苦しんでいる。(というか、苦しんでいない人はほとんど出てこない)

一見、「よくある」苦労のように見えても、それらは一つ一つ個別のもので、名前をつけて束ねてしまうことなど出来ない。そんな浅い、上っ面だけでは、理解も軽減も出来ないような種類の「苦しさ」なのだと思う。当事者が子どもの場合は特に。

それでも私はこの映画で、「人は一対一の関係を通じて、行き止まりかと思った道が開けたり、見えてなかった扉が見えてきたり、凍えていた身体が少し温まってほぐれてきたりするものなんだろうな・・・」と思った。そういう「希望」が描かれていると思ったし、ラスト・シーンに続く情景も、最悪の事態を予想する気にはならなかった。

個人的なことだけれど、自分自身人づき合いが苦手で、一対一の関係しか作れないのを、 若い頃からずっと感じてきた。でも、もしかしたらそのお蔭で、辛い経験を随分せずに済んだのかもしれない・・・などと、この映画を観てからは思ったりもする。

「人間を信じても構わない」「人は人を支えられる」・・・そういうメッセージは、(苦しんでいる子どもには特に)絵空事に聞こえることが多いと思う。(自分も昔そう感じた) 

でも・・・

「人生は案外長い。取り返しがきくこともある」

命だけは失わないでほしい。そこだけは動かせないけれど、せめて、少しずつでも「温かさ」を周囲と分け合って暮らしていけたら・・・と、こういう映画を観るたび思う。


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4 コメント

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明けましておめでとうございます (更年期)
2017-01-06 10:38:16
ムーマさん
ご無沙汰しておりますf^_^;
ムーマさんの映画感想文を読ませて頂いて知る映画がたっくさんあります。
この映画も恥ずかしながら、初見でした。
この国の抱える問題が凝縮されてるような映画なのでしょうか?

自分の精神状態が安定している時に
是非観たいです。

ムーマさん、
今年も時間ある時にしか
読みに来れませんが、寄らせて頂きます。
どうぞよろしくお願い致しますm(_ _)m
返信する
いつも本当にありがとうございます (ムーマ)
2017-01-06 22:46:20
>更年期さ~ん(^^)

原作者が高知ゆかりの方だったこともあって
県下のあちこちで自主上映された映画でした。

そういうことがなければ、私も
観ることがなかったかも・・・と思います。

更年期さんが仰ったように
「この国の抱える問題が凝縮されてる」映画だと
私も思いました。

生きてることは、いつの時代も
決して楽なことではないとしても
今、この時代を生きる苦しさは
あまりに冷たく、「孤独」過ぎるんじゃないかと。

映画では高良健吾、尾野真千子、池脇千鶴・・・といった
若い、いい俳優さんたちが好演してます。
いつか機会があったら、どうぞご覧になってください。

いつも来て下さって、書き込んで下さって
本当に感謝しています。

どうぞ今年もよろしくお願いいたします(^^)
返信する
報告とお礼に参上しました。 (ヤマ)
2017-08-27 23:17:17
ムーマさん、こんにちは。

 参りますのがすっかり遅くなってしまいましたが、先の拙サイトの更新で、こちらの頁をいつもの直リンクに拝借しております。

 「「希望」が描かれていると思ったし、ラスト・シーンに続く情景も、最悪の事態を予想する気にはならなかった」とのこと。実に真っ当だと思いました。どうもありがとうございました。
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いつもありがとうございます(^^) (ムーマ)
2017-08-30 04:35:18
ヤマさ~ん、
レスが遅くなってスミマセン(^^;。

今、ヤマさんの日誌を読み直して、やっぱり
読み応えあるなあ・・・と改めて感じています。

私、最初に読んだとき、ヤマさんと一番違ってるのは
キーワードが、ヤマさんは「謝罪」で
私は(記事には書きませんでしたが)「サバイバル」だったことでした。
私は、あの男の子は「サバイバル」(である日常を)ある程度続けてきている子なので
心動かされるところのある教師に会って
「ハグ」を(宿題として)言われたからといって
「ヤバイ」と感じるようなときには、絶対家で言い出さなかっただろうし
危ない!と思ったときには当然逃げようとした筈・・・と思ったのです。(これまで同様に)

だからあのラストシーンの後に待っているのは
たとえば子どもが怪我して入院した(というレベル)とか
全然別の理由(教師が考えていなかったような)で夜逃げをして(させられて)しまったとか
そういう、どちらかというと映画的には繋がりのないような、意外なアクシデント
なんじゃないかなあ・・・といった感じで映画を見終えました。

でも、マスコミその他が煽り立ててきたコトについては
私もヤマさんの言われるのと同じことを
ずっと感じてきています。
どうしてこんなに生き辛い世の中に(わざわざ)してしまうのか
私には全く理解できないところがあります。
(時として、人間であることがイヤになってしまうことがあるくらい)
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