眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

『442日系部隊・アメリカ史上最強の陸軍』

2012-02-07 19:25:40 | 映画・本

長すぎる「ひとこと感想」その1。

442部隊のことを初めて聞いたのは、中学校の社会の授業でだったと思う。

「第2次大戦中、アメリカには日系人だけの陸軍部隊がありました。さすがに日本軍と戦わせるわけにはいかなくて、ヨーロッパ戦線に向けられたんですが、軍隊としてはとても強かったと言われています。」 そう言った先生の口調と表情が今でも思い出せるような気がするのは、その部隊の兵士がどれほど一生懸命だったかを、中学生の私にも気づかせるようなものが感じられたからかもしれない。

それ以来、自分からは何も調べたりしないまま、それでもなんとはなしに、いつかどこかでもう一度出合う時が来ると思っていた。けれど・・・

日本人監督による日米合作・全編英語のこのドキュメンタリーは、私の想像を超える内容だった。大勢の442部隊の元兵士(80代後半~90代)へのインタビューで構成されているのだけれど、あまりに多くのテーマ、私など全く知らなかった「歴史的事実」を含んでいて、文字通り圧倒される思いがした。中学校の先生が言った言葉についてだけでも、その裏にはさまざまな現実があったのだと。

しかも、これほど苛酷な状況、複雑な?葛藤を若くして経験した人たちが、晩年の今はとても明るく自分の日常を語り、PTSDに苦しみながら、或いは「勲章はそのとき死んで行った仲間のためにもらっただけ。自分がしたのは英雄的行為なんかじゃなくて、ただ大勢を殺しただけだ。」と苦々しげに言いながら、それでもたとえばある人は、「戦争に反対して従軍しなかった人も、志願して従軍した自分たちも、どちらも自分の考えに忠実に従って、その結果を引き受けたのだ。アメリカは自分の考え通りに行動する自由が保障されている国なのだから、それでいいのだ。」などと語る。それはその人の、日系人社会の実力者としての「公式見解」なのだとしても、語る表情には真摯なものがあり、アメリカという祖国についての自負と誇りを感じさせる。

自分で作る朝食は、当然ながらベーコン・エッグにコーヒー。東洋人の姿をしていても、アメリカの人だとはっきりわかるある種磊落な雰囲気。それでも親から教えられたのは「我慢」「辛抱」「礼儀」といった、かつての日本の道徳だと答える人々・・・。

異文化が出会う場所で、差別・偏見と闘いながら生きることは、それだけでも並大抵のコトじゃないだろう。そこに突然「戦争」が勃発。父母の故国と敵味方になり、自分の祖国からは「敵側」と見なされるという屈辱の中を、それでも星条旗を背負って、命がけで自分たち日系人の未来を切り開こうとした人々・・・。

日系人に限らず、こういう歴史を生きてきた人たちを見ると、私は自分の想像力など全く及ばないような人生がいくらもあるのだということを思い知らされる。そして、つくづく頭が下がる思いがする。

知らなかった知識もいろいろと教えてくれた映画だったけれど、それ以上に私にとっては、人間って凄いなあ・・・とか、自分は本当に薄っぺらな人生しか知らないんだなあ・・・とか、とにかく「謙虚」「厳粛」な気持ちにさせられた作品だった。

 

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4 コメント

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観てないのでどんな映画が知りたかった (お茶屋)
2012-02-13 19:52:01
なるほど、そういう映画でしたか。って、よくわかってないかもしれませんが;;;。
アメリカって移民の国と言われるけれど、日系人に限らずWASP以外は差別を経験しているのかも。『ディア・ハンター』の彼らもそうだったかもと思いながら読ませてもらいました。

>自分は本当に薄っぺらな人生しか知らないんだなあ・・・

ものすごく共感。観てないのに(^_^;。
自分は空っぽだなぁと思うことがよくあります。
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そういえば・・・ (ムーマ)
2012-02-14 00:30:19
『ディア・ハンター』では、ロシア正教の教会とかロシア民謡とかが出てきましたね(忘れてた~)。
今検索したら、そもそもロシア系移民の町が舞台だったとか。
(で、ロシアン・ルーレット・・・って、今頃気づいたりして。)
そうですね・・・彼らもそうだったかも。
露骨な差別以外にも、いろいろ微妙なモノもあったかもしれませんね。

>自分はからっぽだなぁと思うことが

お茶屋さんもそうですか。

私は今回の映画で、元兵士の方たちが話す時の表情見てて
なんというか、これまでの人生の厚みが全然違うんだな・・・って感じたんです。
単に「戦争」だけの問題じゃなくて(それだけでも大変なことなんですが)
もっと大きなモノ、長く続くモノに揉まれたというか鍛えられたというか。
「経験」の質も量も違うんだな・・・って
当たり前と言えばほんとに当たり前のことに圧倒される思いでした。

ダッハウ強制収容所を解放した米軍の主力が日系人部隊だったとか
知らないこともいろいろありました。
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報告とお礼に参上しました。 (ヤマ)
2012-03-03 00:19:59
ムーマさん、こんにちは。
 一昨日付の拙サイトの更新で、こちらの頁を例の直リンクに拝借しております。

 「人間って凄いなあ・・・とか、自分は本当に薄っぺらな人生しか知らないんだなあ・・・とか、とにかく「謙虚」「厳粛」な気持ちにさせられた」とお書きの部分、大いに共感を覚えました。知ることよりも感じることのほうが、より強いインパクトがあるものですが、知っているつもりのことでも、「自分の想像力など全く及ばない」と思い知らされるような一言や表情というものに溢れていたような気がします。

 ドキュメンタリーの力って、ホントこういうところにありますよね。

 どうもありがとうございました。
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ありがとうございます。 (ムーマ)
2012-03-04 22:53:37
ヤマさ~ん、

直リンクありがとうございます。
(いつもちょっぴり晴れがましい気分になります(^o^))

パンフレット見るまで全然知らなかったんですが、この映画の監督さん(すずきじゅんいち)は、にっかつでロマンポルノを作ったりとか、本人曰く「商業映画の世界に生きてきた」方なんですね。

その事と関係あるのか無いのかわかりませんが、観ている間、深刻な内容、切羽詰まった状況が語られているのに、全体としてはどこか肩の力の抜けた?空気が感じられて、私にはそれも新鮮でした。

「身を挺して手榴弾から仲間を守ったことで、勲章を授与された・・・」といった、自己犠牲を賞賛するような当時の雰囲気?が紹介されても、「あの頃は当然、そういうものもあっただろうな・・・」と私が思うだけだったのは、そういうある種ニュートラル?で柔らかな感じが、どこかで終始感じられたからなのかなあ・・・などと思ったりもしました。

私にとっては、ちょっと不思議な監督さんでした。
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