「フェルマーの最終定理」と「ポアンカレ予想」というスター級の数学問題をやっつけたんで、いよいよ数学界最大の未解決問題である「リーマン予想」を理解してみるかと企てたのだ。
これは、素数の配列に関して、リーマンって昔の数学者が予想したもので、リーマンブラザーズの破綻とはなんの関係もない。
さて、素数とはご存じの通りに「その数以外では割りきれない、数の元素」のことで、小さなものから順に、2、3、5、7、11、13、17・・・と無限にある。
と同時に、その配列の間隔はバラバラで、次に出現するパターンがまったくでたらめなように思える。
上では七つの素数を数え上げただけなんだが、これが進むにつれていよいよバラけていき、例えば数百も間隔が空いた直後、わずか二つ隣に現れたりする(素数がひとつ置かずに隣り合わせることは、偶数が2で割りきれることからして、あり得ない)。
その配列に規則性を見つけましょ、という試みがリーマン予想なんだった。
さて、その前に「ゼータ関数」を理解しなきゃならない。
ギターの弦一本をぽろ~ん、と弾くと、たとえば「ド」という周波数の音が発生する。
ところがこのドの音には、1オクターブ上のドの音(倍音)も含まれてるのだ。
ギターの弦で言えば、開放弦で弾いた音には、全開の音の中に、その倍の周波数の音(波形二分の一=弦のまん中を押さえた音)が含まれ、つまりこれが高い方のドの音だ。
弦の振動が複雑な波形を描くため、こういう現象が起きる。
さらにその振動の中には、解放の三分の一の波形も混じり合う。
三分の一の音とはつまり「ソ」の音階のことで、このために「ド」と「ソ」の音は完全に調和する。
さらにさらに、四分の一の音、五分の一の音、六分の一の音・・・が延々と連なって混じり合う。
ちなみに、この周波数の細切れの中に、レ、ミ、ファ、ラ、シ(と、♭♯同)は含まれない。
完全に割りきれる「ソ」以外の音は、周波数比で小数点以下が無限につづく無限少数になってしまうので、ドの音と正確にユニゾンすることはなく、それぞれの近似値を取って耳当たりがなるべくよろしい音に調整してあるのだ。
道がそれたが、とにかく、ギターのドの音の中には、1+1/2+1/3+1/4+1/5・・・という周波数比が渾然と交わり合ってるんであった。
この調和級数と呼ばれる無限和にはなにか秘密があるぞ、と直感でひらめいたひとがいて、この式を引っくり返していじくりたおした末に、すべての分母を2乗してみた。
するとこれが、なんとπの二乗の六分の一になるではないの。
なんでここに円周率が現れたのかは深淵なる謎なんだけど、やはりここにはなにかある、ってことになる。
こうして、調和級数のすべての分母をx乗して足し合わせたもの=ゼータxとして、こいつをゼータ関数としましょう、となったわけだ。
さて、この式がなにを意味するのかはわからないけど、とりあえず解を、等高線のような三次元の数直線上に並べてみる。
すると、数値のないいくつかの「ゼロ点」が現れた、というんだな。
これが、驚いたことに、素数の配置を示唆してるようなんだった。
パターンの取っ掛かりがまったくなく、ただただ神様が気まぐれテキトーにバラまいただけと見えた素数の配列が、実はゼータ関数の風景の中のゼロ点という規則に従ってた!・・・のかも知れないというのが、ざっくりとしたリーマン予想の中身のようだ。
こう書いてるオレにも、その内容がちゃんと理解できてるわけじゃないが。
数学では、どれだけ膨大なデータを集めて仮説を裏打ちしても、「なので、真実です」とはならない。
物理学あたりなら、「99,9999%程度の実験結果が合致したら認めます」となるところだが、数学においては、完全無欠の100%でないとだめなのだ。
どこにも漏れのない数式こそが真実であり、定理となるんである。
アインシュタインさんの相対性理論は、自然界の現象に照らしてほとんどすべてのケースを説明できるアイデアなんだけど、残念ながら、原子よりも小さな世界では矛盾が生じ得る。
数学にそんな曖昧さは許されない。
ところで、オレの好きな数学ネタがあって、下に書くんで、よく噛みしめて味わってみて。
x=0,9999・・・とする。
両辺を十倍。
10x=9,999・・・
10x−x=9,999・・・−0,9999・・・
9x=9
x=1
ゆえに
1=0,9999・・・である。
つわけで、99,9999・・・%とは100%のことではないのか?というロジックが成り立つんだけど、どこに矛盾があるか見つけられる?
それはまあ置いといて、とにかく数学においては、絶対的な正確さを証明しないかぎり、真実とは認めてもらえないんだった。
リーマン予想によれば、ゼータ関数の風景のゼロ点は一直線に並んでいなければならず、それを少しでも外れた場所にゼロ点が見つかれば、理論は破綻し、定理とは認められない。
この直線上に、ゼロ点が数十億個も(今ではおそらくそれ以上の数が)一直線に並んでおり、しかもひとつの例外もないことは確認されてるわけなんだが、そんなわずかな証拠ではまったく心もとない。
なにしろ、素数は無限にあるんで、10の一千億乗の一千億乗個の証拠を示したところで、その先に素数が永遠につづくかぎり、まるで意味がない。
また道がそれるけど、この「素数は無限にある」と証明したのはギリシャ時代の数学者・ユークリッドで、この背理法のロジックもなかなか面白いんで、一読してみて。
素数は有限個と仮定し、最大の素数をpとする。
pに至るまでのすべての素数を掛け合わせる。
2×3×5×7×11×13×17・・・×p
その数に1を足したものをxとする。
x=(2×3×5×7×11×13×17・・・×p)+1
xは、いかなる素数(カッコ内のすべての数)でも割りきれない。
2の倍数でもなく、3の倍数でもなく、5でも7でも11で割っても・・・のぼりつめて、最大素数のpで割っても、必ず1が余る。
よって、xはpよりも大きな素数である。
したがって、最大の素数は存在しない(素数は無限にある)。
今から二千年以上も前のひとがこんな考え方をしてたなんて、驚きだよね。
で、なんだっけ?ああ、リーマン予想なんだった。
そんなわけで、素数の配列を探るために、ゼータ関数の風景の一直線上にすべてのゼロ点が(無限に!)並んでることを証明したいんだけど、これが十九世紀以来、数学界最大の未解決問題となってるんだった。
巨大な素数の因数分解は、スーパーコンピューターでも解を得ることが困難(事実上不可能)なんで、素数はネット上の暗号としても重宝されてて、逆に言えば、素数の配列が確定されてしまうと社会が大混乱に落ち入る可能性があるため、この問題は「国際間の安全保障上において」と言ってもいいほどにとてつもなく重要なのだ。
どうしても解決したい一方で、解決されては困る、とも言えようか。
ところが、ここで劇的な展開が待ってたのだ。
ゼータ関数をいじくりまわしてゼロ点の散らかり具合いを研究してたある数学者が、ふとその配列を量子物理学者・・・つまり原子の構造を研究してる博士・・・に見せたのだ。
すると、見せられた物理博士はギョッとする。
「これって、素粒子のエネルギー準位の配列と瓜ふたつじゃね?」
この驚くべきペアリングの意味が理解できる?
学術史で最大の幸運と言われるこの出会いによって、「素粒子」と「素数」というまったくの別世界の、偶然では説明できない必然の関連性が明らかとなったのだあ。
「音の素」であるドレミからはじまった冒険の旅は、「数の素」である素数と「物質の素」である素粒子の配置がシンクロしてるという、信じがたい物語に至ろうとしてる。
というわけで、この未解決問題は、今や物質世界の構造にまで迫るものとなった。
しかし、ゼロ点の洗い出しとその方程式の構築は困難を極め、数学者の手に負えない。
が、なんとなんと、物理学者は知ってたのだ!
ゼロ点の探し方を。
ゼータ関数の風景を数学的なドラムの振動数と置き換えれば、その中でゼロ点をほじくり出すのは、ある種の流体の振る舞いを説明する問題の解き方と同じなんであって、つまりその古典的な作法は、すでに物理学者の間で知られてたものなんだと。
そしてそして、その流体力学において、ゼロ点を一直線上に並べて見せた人物こそが、十九世紀の数学者、ベルンハルト・リーマン、そのひとであったんだと。
うあー、一回転して戻ってきたーっ!
研究者はあわてて、リーマンが残した遺稿を調べようと、データを当たったんだそうな。
手に入れたい資料は二種類で、すなわち「ゼータ関数のゼロ点」に関するものと「流体力学」に関するもの。
ところが、出てきた遺稿は一山のみで、すなわち、ふたつは同じ原稿だった。
要するにリーマンは、素数探しにゼータ関数とその風景の中のゼロ点を利用したわけじゃなく、物理学上の問題を解くためにゼロ点の風景をさまよい歩く中で、不意に素数に出会ったらしいのだ。
逆経路だったのね。
というわけで、がぜん盛り上がってまいりました、リーマン予想。
いかなるエンディングが待ち構えてるのかは、乞うご期待。
早く解決してくれ、各方面の学者たちー。
東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園