レビュー

音楽や書籍に関するフェイバリットの紹介とそのレビュー。

ダラー・ブランド

2016-07-13 12:52:13 | 日記


ダラー・ブランド・・・って名前だったんだけどね以前は、いつの間にかアブドゥラ・イブラヒムって名前になっててびっくりしたよ。
どこの生まれなんだろ?
・・・と疑問に思っても、あえて調べない。
音楽の質だけに集中したいのだ、よけいな知識に侵されず。
美術館とかにいくと、周囲のバカは「作品:わきの説明書き」に「1:10」くらいの比率で時間を割いてて、ああ、自分の感性が信頼できない人間は哀れだなあ、と感じるんだけど、も少し本質を見つめる力を培いなされ。
さてこのひとのピアノ、「アフリカンなんとか」って作品が何枚かあるところからもわかる通り、そっちの大陸のテイストが色濃く漂う音使い。
力の抜けたソロは、メロディアスでちょっとブルージー。
まさにサバンナあたりの雄大なひろがりと奥行きを醸し出す。
のんびりと気宇壮大なんだけど、あちこちにスリリングな音をにじませ、血や、戦いや、牙や、かつえ、ってものなんかまで連想させる。
オーガニックなのに、常にぴんと張り詰めてるわけ。
アフリカ大陸のあの、そこここにいっときの油断も許さない危機をしのばせた開けっぴろげさ、深くて凶暴な暗黒を秘めたあのノーテンキな明るさ、ね。
その二律背反の音、と言いたい。
それらのバリエーションが、湧き上がってはたゆたい、消え入っては立ち上がり、またたなびいて、延々と連なるわけ。
まさしくそれは印象風景のペイント。
左手でリズムを、右手でメロディラインを、ってのはピアノの鉄則。
もちろんこのひともその作法を守ってんだけど、左手のリズムは空気感と色彩を、右手のラインは現象の揺らぎを、ってドラマを演じてるんで、聴いてるとそのまま情景に引き込まれてく。
その場にちょこんとたたずむこっちの心が、背景の入れ替わりで不安定にコントロールされるような、そんな不思議な音のつながり。
そして長い長い一曲が終わると、ほーっ・・・とやっと一息つきたくなる、そんな緊張に満ちた時間を過ごさせられる。
それがまた、破綻のないうっとりと心地よい時間なのだ。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園