経済社会問題 #29

2006年06月04日 | 経済問題
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、その週に起こったことを中心にコラムを書いています。一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。

同じことをしているのに
 金融庁が4月15日に消費者金融のアイフルに対して5月8日から3日間、全支店の業務停止命令を出した。大手の消費者金融業者が全支店への業務停止命令を受けたのは初めてのケースだ。法律で定められた時間以外の取立てや勤務先への強引な取立てなどが、処分の理由だった。
 また、5月10日には、カネボウの粉飾決算事件で、監査内容の審査体制に重大な不備があったとして、金融庁が中央青山監査法人に業務停止命令を出した。7月~8月の2か月間、上場企業などに対する法定監査業務をすべて停止するという厳しい処分だった。上場会社の法定監査だけで2300社も請け負う四大監査法人の一角が、こうした大規模な処分を受けるのは、もちろん初めての事態だ。
 過去に例のない厳しい処分に金融庁が踏み切ったことは、今後金融庁が断固たる姿勢で金融行政に臨む姿勢を表しているのだと思われる。もちろん、暴力的な取り立てもいけないし、粉飾決算もいけない。しかし、私が腑に落ちないのは、同じようなことを、金融庁自身もしてきたではないかということだ。
 典型は2003年秋から行ったUFJ銀行への特別検査だ。以前にも書いたが、もう一度振り返っておこう。
 銀行の不良債権のうち、完全に焦げ付いたのでもないし、正常でもないグレーゾーンの債権を要管理債権と言う。(正確には、要注意先に対する債権のうち3ヶ月以上延滞している債権及び貸出条件を緩和した債権)。この要管理債権に対する引当率(担保・保証等を加えた保全率)をみると、興味深い事実が明らかになる。
 UFJ銀行の03年9月期の引当率は、29.2%だった。他のメガバンクは、東京三菱が30.6%、三井住友が30.5%、みずほが35.2%と、メガバンクは共通して3割前後の引当金を積んでいた。要管理債権は3割程度が焦げ付くので、その分を引当金で手当てしておくというのが「常識」だったのだ。
ところが、03年秋、UFJ銀行に金融庁が特別検査に入った。その際、UFJ銀行が融資先の資料を隠して金融庁の検査を妨害するという検査忌避事件が発生した。その特別検査後の04年3月期には、UFJの」引当率は51.4%となり、04年9月期には54.9%まで高まった。それは、要管理債権の55%が返ってこないと見込んだ決算をしたということだ。もちろん形式的には、その引当金はUFJ銀行が自主的に積んだことになっている。しかし、そうした膨大な引当金を積ませたのは、明らかに金融庁からの圧力だった。そのやり方は、アイフルの強引な「取立て」と本質は同じだ。
 常識的で考えれば、グレーゾーンの融資の過半が返ってこないという事態が、銀行融資で起こることはあり得ないだろう。その証拠に、前期までと同じベースの資料が公表されていないのであくまでも推定だが、金融庁の圧力がなくなった05年9月期の中間決算では、UFJ銀行の要管理債権に対する引当率は36%前後にまで下がっている。要管理債権に対する引当率が普通の状態に戻ったのだ。このことは、金融庁がUFJ銀行に過大な引当金を積ませてきた可能性を強く示唆していると考えてよいだろう。
 05年9月期の中間決算で、三菱UFJの最終利益は7118億円と、トヨタを抜いて日本一になった。好決算の原動力になったのは、UFJホールディングスが4110億円もの最終利益をあげたことだ。しかもUFJは、不良債権処理費用が3164億円ものマイナスになっている。積み過ぎていた引当金が繰り戻されたのだ。これは、金融庁による「粉飾決算」なのではないか。
 UFJ銀行が厳しい決算に追い込まれたことによって、UFJホールディングスの株式を持っていた個人投資家は、安値で狼狽売りをした。それを拾っていったのは、外資や日本の金持ちだった。多くの個人投資家は、決算を信じてUFJ株を売り、そして頬損をした。それなのに、当時の金融庁の検査の誤りを指摘する人は誰もいない。お上は何をやっても、責任を問われることはないのだ。
 ちなみに、個人が人殺しをすると殺人罪で逮捕され、場合によっては死刑になる。ところが、国家が戦争という形で人殺しをすると、罪に問われないし、場合によっては、実行犯が英雄になることもある。
 厳しい不良債権処理を断行した金融庁も、一般の評価では、英雄扱いになっているのだ。



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2006年06月04日 | モリタク日記
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