萬蔵庵―“知的アスリート”を目指すも挫折多き日々―

野球、自転車の旅、山、酒、健康法などを徒然に記載

インドを走る!part2 第25話「マザファプールへ ~バテる!~」

2008年06月20日 | 自転車の旅「インドを走る!」

<路上で量り売りをする人。カレーの元、香辛料の類か。>

1980年4月16日(水)晴れ

五時にはホテルを出る。さすがに朝は涼しい。ずっとこれならどんなに楽か。しかし、朝早く出ると朝食の確保ができないのがつらい。
今朝も何も食わずに出たのでどうもバテ気味である。蓄積された疲労に加え、不十分な食事で体力が衰えているところに、この暑さである。おかしくならない方がどうかしている。体調面で唯一、良好なのは腹の調子だ。現地の生水をそのまま飲もうが、屋台のバナナを食おうが腹を壊さなくなった。

ラクノーで食中毒にかかった以降は腹の調子は安定している。あの馬に打つような注射が効いて、すっかりインドの水に慣れたのかも知れない。

出発して15キロ地点でまず休憩。チャイとビスケットの栄養補給をしてから出発する。あいかわらず、ドまっすぐな道。両サイドに広がる畑、畑、畑。昨日はモティハリの街から郊外へ抜ける途中、一面に薄紫色の、あれはヒヤシンスであったろうか。湿地に咲いた見事な花畑を目にした。

カメラが直っても、こうバテていてはファインダーを覗く力も無い。考えて見ればダマン峠で撮ったきりではなかったか。なんとも情け無い。

気温が上がるとともにバテ方が尋常ではなくなる。10時半ごろ着いた名も知らぬ街、マザファプールまであと30キロという地点の茶店で昼寝と決め込む。自転車を降りると暑さが体の芯までしみこむようだ。まことに、凄まじい限りである。チャイ屋でチャイを二杯呑んだ後、余程、ダルそうにしていたのだろう。この土地の人がきて、ウチで寝ろ、と彼の家へ連れていってくれる。

しばらくベッドに寝かせてもらったが、どうもバテ方が激しい。熱こそないが、かなり疲れている。(筆者注:今から思うと“熱中症”にかかっていたようだ。)彼、私が起きだすと水を一杯持ってきてくれる。壷に直接口をつけて飲んでいると、今度は茶色の粉を持ってくる。何の粉だろう。少しつまんで嘗めてみると、黄な粉である。これには一瞬感動した。

これを水にとかして飲むとガッツが出るらしい。しきりにガッツポーズをとっていた。黄な粉は「サートー」と言う名らしい。水に溶かしている時に子供が、チニ(砂糖)だかナマック(塩)だか、とにかく白い粉状のものを入れる。サートーという名や「黄な粉=あべかわ餅」というイメージから、おそらくチニ(砂糖)であろうと思っていたが、出来上がって飲んでみると、意に反してこれがショッパイ。

壷に大量に入れた黄な粉ドリンクはゆうに三杯もあった。腹がガボガボとなる。仏陀は難行苦行の末、スジャータという女人に米のとぎ汁をもらって、悟りを開いたというが、凡人の我が心に覚醒するもの何もなし。ただ、胃の中で黄な粉汁がカポカポいうのみ。まだまだ、修行が足りないようである。

その後、その黄な粉ドリンクが効いたのか気分が幾分楽になり、腹も減ったのでカトマンドゥで買った、とっておきの即席ラーメンを作ることにした。コッフェルに水を入れ、ラジウス(携帯用ガソリンコンロ)で湯を沸かす。この作業が余程珍しいらしく、村人が集まってきて一部始終眺めだす。

中に入れる具はないが、ま、いいか、と思っていると、家の人、生卵をひとつ持ってきて、またガッツポーズをする。ありがたきことなり。麺を沸騰してきた湯に入れて、箸でほぐしたところに生卵を割って入れると、眺めていた村人達がアーデモナイ、コーデモナイと俄かに騒ぎ出す。現地語なので、何を言ってるかは不明。

何が面白いのかみな、ニヤニヤしている。出来上がって、ふーふー冷ましながら、箸でラーメンをすする段になると、最前列の子供、ついに声を立てて笑い出す。(バーロー、手掴みで喰うよりはましだい。)

又、ベッドにころがる。どうも、ラーメン食っても胃がもたれる。しかしながら、ここにいつまでもお世話になっているわけにも行かないので、少し涼しくなった3時過ぎ、マザファプールへ向けて旅立つ。

ベッドを貸してくれた人に黄な粉汁とラーメンに入れた卵の代金を払おうとすると、そんなものはいらないと手をヒラヒラさせながら「ネヒーン(=NO)」と言う。本当に世話になった。お陰で助かった。日本から持ってきていたお土産用の三色ボールペンも、既になく、何もあげられず去ることになった。心残りであったが、お辞儀をして立ち去る。

フラフラとマザファプールへ向かう。途中、一度休む。どうも力が入らん。疲れていて体がだるい。しかし、若干追い風にて走りやすし。しばしの休憩の後、又、懲りもせずペダルをこぎ始める。

元気な時は私もウェルナーのように一年も二年も世界をまたに走ってやろうなどと思ったりするのだが、こういう時はあいつはキチガイとしか思えない。相変わらず、わずかの木々と畑の中の一本道が続く。疲れるが開き直って唄を歌う。

♪陽はまた昇る~ どんな人の心にも~♪


つづく

※「インドを走る!」について
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする