ミズカタヒデヤの「外部脳」

Hideya Mizukata's "OUTBRAIN"

陰日向に咲く/劇団ひとり/6点

2008年10月22日 | 小説
ダメ人間ばかりを主人公に浅田次郎ばりの泣かせる話ばかりを集めた短編集。話は凡庸なのに、ちょっとした謎を忍ばせるうまさ、一人称のメール文体のきびきびした印象で、中々の作品に仕上がっています。

ダメ人間を主人公にしたことが成功の要因でしょう。
ホームレスに憧れる会社員、
売れないアイドルの追っかけ、
男に遊ばれる女子大生、
オレオレ詐欺を働く中年ギャンブラー。

不器用だけど正直で、ちゃんと自分のダメさ加減を認識している。
そんな、誰もが多かれ少なかれ覚えのある境遇を大幅に増幅したような主人公達。そんな彼らに一瞬の希望が垣間見えたとき、
ああ、頑張れよ、と心の底から思えてしまうんですね。

考えてみれば吉本新喜劇のような筋書きです。
お笑いの方には定番なのかも知れません。

&(アンド)/阿倍野/6点

2008年10月20日 | 複合施設
アベキン(近鉄百貨店阿部野橋本店)の裏のフープの裏にできたこじんまりした専門店ビルです。半分はロフトビルなのですが、それをひた隠しにするかのように前面にお店を固めたような建物です。マリメッコやシップスが思い切り自分の入口を構える横からさり気無く入ると、とてもいい感じの吹き抜けに出くわします。決して大きくないのですが、肌理の込まないデザインが施され、路面の街並みがそのまま上昇するかのような雰囲気は思わず引き込まれます。実際、上っても回遊しずらくないのは、4階までずっと楽しく歩き回れました。

同じように吹き抜けで上昇感を演出したブリーゼタワーに比べて圧倒的に楽しいのは、
・店舗の絶対面積が大きい
・ロフトが奥で睨みを利かせる構成
・随所に飲食や雑貨等が混じって飽きさせない
・狭い割に見渡せないようにして期待感を高めている
・両側に必ず店舗を並べて退屈させない
といった商業の基本をわきまえているから。ブリーゼのようなオフィスの足元としての品格とか考えなくていい有利があるはいえ、差は歴然。阿倍野の将来は意外と明るいかな、と思いました。

ブリーゼタワー/西梅田/3点

2008年10月19日 | 複合施設
サンケイビルが3年の歳月を経て建て替わりました。その名もブリーゼタワー、そよかぜの塔。どうやら環境配慮をアピールしているようなのですが、パッと観はよくわかりません。濃淡のあるガラスで統一された建物は中々心地良いとは思いますが。サンケイホールが小さくなったものの復活したのは喜ばしいのですが、一緒に何だかお洒落な専門店街がわらわらと。

気持ちはわかります。複合開発の足元に一般来街者を巻き込んでいかないと都市間競争に勝てない。。。そんなトレンドをサンケイビルはきちんと追い駆けたのでしょう。けど、それにしてはあまりに中途半端。小さすぎます。しかも6階まで店あるし。この立地であそこまで人が行くかなあ?吹き抜けをたくさん設けて上に行きたくさせる作戦はわかりますが、ワンフロアの店舗数があまりに少な過ぎて、却って上に行く気が失せてしまいそう。いっそ飲食店に絞ったらよかったのに。。。何とも心配な開発です。

ともあれ、マリメッコのお店は好き。

クラッシュ/ポール・ハギス/8点

2008年10月18日 | 映画
現代米国社会の病理、すなわち、人種差別、人身売買、貧富の差、治安不安、保険不備。こういう政治キーワードって、紋切り型で現実感のない空虚な言葉に聞こえますが、実際に、まさにこの言葉通りの背景に沿って、かの国の日常はどんどんギスギスしたものになってきている、って言う事実をとても分かりやすく表現している映画です。

黒人の刑事、白人の巡査、黒人のプロデューサ、黒人の修理工、ペルシャ人の商店主、黒人のこそ泥、白人の検事、謎の中国人。。。ロサンゼルスのある日、多くの人たちの多くの日常で、多くの衝突が起こります。目を剥く大事件はないけれど、小さな日常のクラッシュが連鎖していきます。臨界点に達する寸前に留まって、ラストは多少穏やかなのはちょっと救われますす。ただ、それすらも、この程度のことはこの国では日常茶飯事なんだぞ、っていう事実を強調しているみたいで、何とまあ、生き難い国なのだろう、と。

魍魎の匣/原田眞人 /5点

2008年10月13日 | 映画
千頁を超える巨大な小説を一本の映画に納めることがいかに無謀なことか、半ば諦めの境地で斜め観してみると、これが意外に良く出来ているな、と感心。一緒に観ていた原作を知らない嫁さんが、中々楽しめた、と言っているくらいだから、前作よりは成功したのでしょう。

成功の第一はエピソードを大胆に削ぎ落としたストーリー。一方で原作ファンを喜ばせる設定やシーンは要所で押さえる肌理の細かさ。脚本家の読み込みの苦労が伺えました。小説の肝は「科学」の胡散臭さにあったと思うのですが、映画ではハコの偏愛の方に的を絞っていましたね。

第二は個性的な役者陣。関口だけが永瀬から椎名に交代した以外は阿部榎木津、堤中善寺、宮迫木場変わらず。そこに黒木瞳と柄本明が絡んで、キャラ総立ちな観はまさに原作さながら。彼らの動きを見ているだけでファンとしたは楽しめたのかも知れません。

第三は中国ロケとCGを駆使した背景の表現。運河や土蔵はどうみても蘇州界隈のそれなのですが、これが帝都東京のパラレルワールドだと断言されると、不思議とそういうこともありえたかな、などと心地良いトリップ感が味わえます。よく中国がOKしたな、と。

神々自身/アシモフ/ハヤカワ文庫SF/7点

2008年10月08日 | 小説
アシモフのファンです。SFの奇妙な舞台を借りて、普遍的な人間性をより浮かび上がらせようというスタンスが好きなのです。しかし、この作品は。。。いつもと違って、別の目的で書かれたようです。何しろ、別の秩序を持った世界に生きる変な生物達の日常を正面から延々と描いているのですから。普通は人間の観察眼なんかが入るのですが、それすらもナシ。純粋に新たな世界で新たな物語をつむぐ感じ。別のルールの社会がどんな展開を見せるのか、っていうことに正面から取り組んでいるんです。確かに面白いのはアシモフの凄いところなのでしょうが、さすがにちょっと疲れました。

一応、3部構成になっていて、最初と最後は人間社会のドラマなのですが、第二部の3つの性を持った無機質な生物達のドラマに比べれば、何とも凡庸なばかり。一応並行世界同士の通信が謎解きになっているのですが、そんな全体のストーリーなどどうでも良い、っていうくらい、第二部のドラマ自体が不思議かつ際立っていました。ファンにはお勧めですが、一般的ではないだろうなあ。。。