ミズカタヒデヤの「外部脳」

Hideya Mizukata's "OUTBRAIN"

アキラ/大友克弘/9点

2010年10月25日 | 漫画
この人の絵の上手さは尋常ではない、と思います。特に、建築の描写、それも廃墟となった建築の描写がずば抜けて美しい。巨大な樹海を思わせる超高層建築群、枝の折り重なりを思わせる鉄骨の絡み合い。そして、宝石のようなエッジの輝きを見せるコンクリートの罅割れ。本来一見したところで美しくはないものがこれだけ美しいと感じるのは、そこにある本質だけを抜き出して描いているからでしょう。もちろん人びとの描写も超一流です。骨や陰影の描き方は、その後の全ての劇画に影響を与えたといってもいいでしょう。この人が描くと、例えば吐瀉物ですら美しい。それは奇跡のように思えます。更に、格闘シーンを中心とした、躍動感あふれるアングルの撮り方も素晴らしい。漫画という静止画が、これほど動きを感じさせることができるものかと思います。それは、漫画というメディア全体の可能性を高めたのではないかと。

筋書きもシンプルでとても面白いです。アキラという謎の大量破壊能力を持った少年が主人公なのですが、前半はアキラを奪い合うフットボールのようなお話、後半は覚醒したアキラをちょっと特殊な方法で退治する桃太郎みたいなお話なんです。どちらも物語のフォーマットとしてはとても古典的で安心して身を任せられましす。その上で、特殊能力、大量破壊、不良少年、といった少年をワクワクさせるエッセンスを取り入れて、かつ、スピードと暴力と人間同士のバトル要素が随所に見せ場を作ることで、終始クライマックスと言っていい見事なテンションで物語が展開するんです。そこに、アキラが何者で、どうやって街を破壊するのか、アキラから逃れる方法は、といった謎解きの要素が加わり、更に、終盤には、結構純粋なラブロマンスや生命の起源といった哲学的な主題まで提示され、あらゆるジャンルを網羅した、何とも贅沢なエンターテインメント作品に仕上がっているのです。

学生時代から何度か読み返していますが、いつ読んでも新たな感動と発見があります。

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