けせらせら、な日々

ふぃくしょん、ときどき真実

靴を履き替える

2003-01-22 17:07:05 | Weblog
今日クルマを運転していて、どうも履いている靴が気になった。
かかとが高いわけでもないし、特に新しいわけでもない。
それなのにアクセルやブレーキを踏む時に、ほんのわずか滑るような感じがする。
頭のどこかで「危ない」という声が聞こえる。

こういう時には逆らわずに、どこかでドライブ用のシューズに替えた方がいい。
そう思って私はスーパーの駐車場にクルマを停めて靴を履き替えた。

その時にふっと思い出したことがある。はるか昔のこと。

クルマの中で大喧嘩をして、男は荒々しくドアを叩きつけて降りてしまった。
私は男を追いかけようと、泣きじゃくりながら運転席に移動した。
そしてその時になって、ピンヒールの高い踵の靴を履いているのに気がついた。
履き替える靴など持っていない。
私は大慌てでハイヒールを脱ぎ捨てると、はだしになった。

その頃のクルマはマニュアル車で、はだしで踏み込むクラッチの板は
重くてごつごつと痛かった。
足の裏に直に伝わる振動と、胸の深いところから来る動揺が体全体を揺らして
私はガタガタと震えていた。

ああ、そんなこともあったなあ。
今はちゃんとトランクに低い踵のシューズが入れてある。
用意のいいことだ。

なんの準備もしていなかったあの頃、心も体も無防備だった。
でもそれが時々わけもなく懐かしくなる。
そんな馬鹿だった自分を、ふと取り戻したくなる。

履き替えるものがなかったあの頃と、今の自分・・
幸せなのはどちらか、などと考えるのは無意味だと知っているけれど。

悲しいほどに

2003-01-10 17:06:07 | Weblog


襟元をかき合わせても首をすくめても
吹きつける強い北風は
ほんの少しだけゆらぎそうになった私の決心を凍り付かせて
また頑なな殻を捜してくる手助けをする。

息を吐いているのか冷たい空気を吸い込んでいるのか
自分でもわからないほどの風の中では
どんなに点けようとしても灯らないものがある。

昔読んだ童話のように、ただ下を向いてコートに身をすくめて
暖かな陽のひかりなど、美化された想い出のようで
今の自分にはなんのぬくもりにもならない。

コンクリートのビルの間から空を仰いで見れば
目に痛いほどの青空。
風に吹き飛ばされたのか、雲の欠片さえ見えない。

何もかもを覆い尽くすほど雪が降ればいい。
地面など見えないほど雪が降り積もればいい。

胸の中に山積みになった様々な想いが
誰の目にも触れぬよう、自分にさえも見えぬよう
深い根雪に埋もれてしまえばいい。

「悲しいくらいお天気」という歌を、昔聴いたような気がする。

今日の東京は、まさにそんなお天気。