ずぼらでもOK 残高家計簿で貯蓄体質に
第18回 残高家計簿

2014/10/30 7:00
マネー達人の公認会計士・税理士の山田真哉さんに
マネートピックについて聞くコラム。
今回のテーマは「ずぼらな人でも続けられる家計簿」です。
いまは便利なスマホ用家計簿アプリも普及していますが、
それでさえ、継続して使うのはおっくうという人もいるのでは。
そんな人は、ぜひ、山田さんが推奨する
「残高家計簿」を試してみてください。
■従来型家計簿を継続するのは大変
――家計簿は日記と同じ、よしっ!と意気込んで始めてみるのですが、
三日坊主どころか2回ぐらいしか開かなかった家計簿があります。
「日々のこまごました支出を記録していく従来型の家計簿は
かなりハードルが高いツールなんですよ。
まず、毎日つけなければいけないし、
収入も支出も記入漏れがあると金額が合わなくなっていきます。
紙の家計簿だと集計が大変なうえ、
毎日、支出ばかり書いていると気分が暗くなりませんか?
記入すること自体が目的になってしまって、
大局がわかりづらくなってしまうんですよね」
――大局とはどういう意味ですか。
「家計簿をつける目的はなんでしょう。
支出の詳細を把握したいというのもあるかもしれませんが、
さらにその先の目的は、毎月の家計の収支がプラスになるようにし、
貯蓄体質をつくることです。それさえできるなら、
極端な話、細かい支出の内訳は知る必要がないともいえるわけです」
■家計簿アプリもちょっとおっくう?
――なるほど。私は使ったことがないのですが、
スマホ用の家計簿アプリなら銀行や
クレジットカードの取引は自動的に記録されるそうなので、
簡単に家計管理できそうですが。
「僕も家計簿アプリをスマホに入れています。
ただ、無料版を使っているので、
過去1カ月分の入出金や残高しか見られません。
それと、アプリが自動で判別できない入金や出金は
『未分類』に仕分けられるので、
自分で費目を入力し直さないといけません。
このような便利なツールでさえ、
手間だと思ってしまう人はいます。
割とマメな僕ですら、あまりちゃんと入力していませんから」
――そこで山田さんが提唱するのが「残高家計簿」なんですね。

写真:残高家計簿のイメージ
「残高家計簿とは、とりあえず、
銀行口座などの残高だけを記録して、
その推移をチェックするというものです。
決算書でいうと、損益計算書ではなく
貸借対照表を重視する管理方法です。
例えば、9月2日の銀行や証券の残高が181万4,000円、
10月4日の残高が183万8,000円、
11月2日の残高が171万1,000円だったとします。
9月2日から10月4日の間は収入が支出を上回ったということなので、
これはOK。ところが、
11月2日の残高は10月4日を下回っているので、
支出が収入よりも多かったことを意味します。これはNGです」
――かなりざっくりとした方法ですね。
「ずぼらな人はそもそも何もしていないわけですから、
まず、さっくりと把握することが大事なんです。
それに残高家計簿なら毎月の支出額もわかるんですよ。
サラリーマンだと収入枠は基本的に給与のみです。
給与の手取り額が30万円だとすると10月4日から11月2日の間には、
『30万円+(183万8,000円-171万1,000円)』、
つまり42万7000円使ったということになります」
――毎日、レシートを積み上げて電卓をたたかなくても、
月1回の手間で1カ月の支出額が把握できるんですね。
「そうです。これを続ければ年間の支出額もわかります。
年間の支出額がわかると、例えば、
転職を考えている人なら、転職で
収入が減ったときに自分は対応できるのかどうか、
老後が心配な人なら、年金収入だけで暮らせるのかどうか、
イメージできるようになります。
もし無理だとなれば、じゃあ転職するのをやめようとか、
もっと生活レベルを下げないと老後が厳しくなる
という判断もできるようになります」
■レシートで原因究明を
――支出が収入を上回ってしまった月があった場合は……反省するんですね。
「ただ反省するだけでなく、
なぜそうなってしまったのか原因を突き止めなくてはいけません。
そうしないと家計の改善につながりませんから。
もし原因が、たまたま冠婚葬祭が重なって
出費がかさんだからとか、今月は引っ越しで
敷金・礼金を払ったからなどの理由なら、
しょうがないでしょう。でもそうでないなら、
そこで保管しておいたレシートや明細書をひっくり返して、
何が悪かったのかをチェックするんです」
――ということは、1カ月分ぐらいはレシートや明細書を保管しておくべきなんですね。
「レシートはせめて1カ月分は保管しておきましょう。
クレジットカードの明細書はできれば
5年間ぐらいは保管してほしいですね。
レシートを見返して、ああ、
この高い服を買ったのが原因なのだなとわかれば、
次の月はちょっと飲み会をセーブしようとか、
高額の買い物は控えようとなります。
原因がわからないままだと、
ずるずるとマイナス収支を続けてしまうかもしれません。
前の月の収支のマイナス分を手帳に書いておくと、強制力になりますよ」
――手帳に書くと心理的な効果もありそうですね。
「そうです。高い服を買ってしまって反省しても、
思うだけなら人って1週間ぐらいで忘れてしまいますから」
■記帳・保存で長期トレンドを知る

画像の拡大:長く続けるための基本ルール
――身につまされます。複数の銀行口座をもっている場合、どうやって残高を効率的に把握すればいいでしょうか。
「以前、『ためたいなら、ATMのそばに住め(4月17日付)』
でいいましたが、月1回ぐらい、通帳に記帳して
回る習慣をつけたらどうでしょうか。
先ほど話したような家計管理アプリや
ソフトを使ってもいいと思います。
複数の銀行口座などを登録できますので、
気が向いたときに手軽に残高をチェックできます。
ただ、無料版や簡易版は過去の履歴を長期間は保存できないものが多いので、
自分でエクセル表に記入するなどして手元に保存しておきましょう」
――長期間、保存しておくことが大事なんですね。
「自分の家計の状態を大局で把握するわけですから、
長期間、続けるべきだと思います。
僕は残高家計簿をつけ始めて11年になりますが、
11年間の動きがエクセル表で一目でわかるようになっています」
――クレジットカードで買い物した場合、
支払いはちょっと先になりますが、そういう場合はどう管理したらいいのでしょうか。
「まず、クレジットカードのキャッシングやリボ払い、
カードローンを利用している人は、必ず、
借金の金額を手帳に記録して、常に金額を意識しましょう。
買い物でクレジットカードを使った場合は、
引き落とし日だけ見ていれば問題ありません。
緻密な管理ではなく、現金ベースで考えて大丈夫です。
あくまで、最小の労力でそこそこの効果を挙げるのが、
残高家計簿の目的です。
残高家計簿の基本ルール3つを覚えておいてください」
――ずぼらな私でも、これなら続けられるかもしれません。
せめて通帳の記帳はもっとこまめにやろうと心に誓いました。
(聞き手は電子整理部 手塚愛実)

画像の拡大:公認会計士・税理士の山田真哉さん
山田真哉(やまだ・しんや) 1976年生まれ。
公認会計士・税理士。大学卒業後、予備校勤務を経て、
会計・法律・経営などの勉強を始め、
1年後に公認会計士試験に合格。
中央青山監査法人(当時)/プライスウォーターハウスクーパースに勤務後、独立。
2011年、芸能界専門に会計・税務支援を行う一般財団法人芸能文化会計財団の理事長に就任。
著書の『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社新書)は160万部突破。
最新刊は『社長のための世界の朝礼ネタ集』(ヒカルランド)。
http://www.nikkei.com/money/features/38.aspx?g=DGXMZO7902894029102014000000&n_cid=DSTPCS008
第18回 残高家計簿

2014/10/30 7:00
マネー達人の公認会計士・税理士の山田真哉さんに
マネートピックについて聞くコラム。
今回のテーマは「ずぼらな人でも続けられる家計簿」です。
いまは便利なスマホ用家計簿アプリも普及していますが、
それでさえ、継続して使うのはおっくうという人もいるのでは。
そんな人は、ぜひ、山田さんが推奨する
「残高家計簿」を試してみてください。
■従来型家計簿を継続するのは大変
――家計簿は日記と同じ、よしっ!と意気込んで始めてみるのですが、
三日坊主どころか2回ぐらいしか開かなかった家計簿があります。
「日々のこまごました支出を記録していく従来型の家計簿は
かなりハードルが高いツールなんですよ。
まず、毎日つけなければいけないし、
収入も支出も記入漏れがあると金額が合わなくなっていきます。
紙の家計簿だと集計が大変なうえ、
毎日、支出ばかり書いていると気分が暗くなりませんか?
記入すること自体が目的になってしまって、
大局がわかりづらくなってしまうんですよね」
――大局とはどういう意味ですか。
「家計簿をつける目的はなんでしょう。
支出の詳細を把握したいというのもあるかもしれませんが、
さらにその先の目的は、毎月の家計の収支がプラスになるようにし、
貯蓄体質をつくることです。それさえできるなら、
極端な話、細かい支出の内訳は知る必要がないともいえるわけです」
■家計簿アプリもちょっとおっくう?
――なるほど。私は使ったことがないのですが、
スマホ用の家計簿アプリなら銀行や
クレジットカードの取引は自動的に記録されるそうなので、
簡単に家計管理できそうですが。
「僕も家計簿アプリをスマホに入れています。
ただ、無料版を使っているので、
過去1カ月分の入出金や残高しか見られません。
それと、アプリが自動で判別できない入金や出金は
『未分類』に仕分けられるので、
自分で費目を入力し直さないといけません。
このような便利なツールでさえ、
手間だと思ってしまう人はいます。
割とマメな僕ですら、あまりちゃんと入力していませんから」
――そこで山田さんが提唱するのが「残高家計簿」なんですね。

写真:残高家計簿のイメージ
「残高家計簿とは、とりあえず、
銀行口座などの残高だけを記録して、
その推移をチェックするというものです。
決算書でいうと、損益計算書ではなく
貸借対照表を重視する管理方法です。
例えば、9月2日の銀行や証券の残高が181万4,000円、
10月4日の残高が183万8,000円、
11月2日の残高が171万1,000円だったとします。
9月2日から10月4日の間は収入が支出を上回ったということなので、
これはOK。ところが、
11月2日の残高は10月4日を下回っているので、
支出が収入よりも多かったことを意味します。これはNGです」
――かなりざっくりとした方法ですね。
「ずぼらな人はそもそも何もしていないわけですから、
まず、さっくりと把握することが大事なんです。
それに残高家計簿なら毎月の支出額もわかるんですよ。
サラリーマンだと収入枠は基本的に給与のみです。
給与の手取り額が30万円だとすると10月4日から11月2日の間には、
『30万円+(183万8,000円-171万1,000円)』、
つまり42万7000円使ったということになります」
――毎日、レシートを積み上げて電卓をたたかなくても、
月1回の手間で1カ月の支出額が把握できるんですね。
「そうです。これを続ければ年間の支出額もわかります。
年間の支出額がわかると、例えば、
転職を考えている人なら、転職で
収入が減ったときに自分は対応できるのかどうか、
老後が心配な人なら、年金収入だけで暮らせるのかどうか、
イメージできるようになります。
もし無理だとなれば、じゃあ転職するのをやめようとか、
もっと生活レベルを下げないと老後が厳しくなる
という判断もできるようになります」
■レシートで原因究明を
――支出が収入を上回ってしまった月があった場合は……反省するんですね。
「ただ反省するだけでなく、
なぜそうなってしまったのか原因を突き止めなくてはいけません。
そうしないと家計の改善につながりませんから。
もし原因が、たまたま冠婚葬祭が重なって
出費がかさんだからとか、今月は引っ越しで
敷金・礼金を払ったからなどの理由なら、
しょうがないでしょう。でもそうでないなら、
そこで保管しておいたレシートや明細書をひっくり返して、
何が悪かったのかをチェックするんです」
――ということは、1カ月分ぐらいはレシートや明細書を保管しておくべきなんですね。
「レシートはせめて1カ月分は保管しておきましょう。
クレジットカードの明細書はできれば
5年間ぐらいは保管してほしいですね。
レシートを見返して、ああ、
この高い服を買ったのが原因なのだなとわかれば、
次の月はちょっと飲み会をセーブしようとか、
高額の買い物は控えようとなります。
原因がわからないままだと、
ずるずるとマイナス収支を続けてしまうかもしれません。
前の月の収支のマイナス分を手帳に書いておくと、強制力になりますよ」
――手帳に書くと心理的な効果もありそうですね。
「そうです。高い服を買ってしまって反省しても、
思うだけなら人って1週間ぐらいで忘れてしまいますから」
■記帳・保存で長期トレンドを知る

画像の拡大:長く続けるための基本ルール
――身につまされます。複数の銀行口座をもっている場合、どうやって残高を効率的に把握すればいいでしょうか。
「以前、『ためたいなら、ATMのそばに住め(4月17日付)』
でいいましたが、月1回ぐらい、通帳に記帳して
回る習慣をつけたらどうでしょうか。
先ほど話したような家計管理アプリや
ソフトを使ってもいいと思います。
複数の銀行口座などを登録できますので、
気が向いたときに手軽に残高をチェックできます。
ただ、無料版や簡易版は過去の履歴を長期間は保存できないものが多いので、
自分でエクセル表に記入するなどして手元に保存しておきましょう」
――長期間、保存しておくことが大事なんですね。
「自分の家計の状態を大局で把握するわけですから、
長期間、続けるべきだと思います。
僕は残高家計簿をつけ始めて11年になりますが、
11年間の動きがエクセル表で一目でわかるようになっています」
――クレジットカードで買い物した場合、
支払いはちょっと先になりますが、そういう場合はどう管理したらいいのでしょうか。
「まず、クレジットカードのキャッシングやリボ払い、
カードローンを利用している人は、必ず、
借金の金額を手帳に記録して、常に金額を意識しましょう。
買い物でクレジットカードを使った場合は、
引き落とし日だけ見ていれば問題ありません。
緻密な管理ではなく、現金ベースで考えて大丈夫です。
あくまで、最小の労力でそこそこの効果を挙げるのが、
残高家計簿の目的です。
残高家計簿の基本ルール3つを覚えておいてください」
――ずぼらな私でも、これなら続けられるかもしれません。
せめて通帳の記帳はもっとこまめにやろうと心に誓いました。
(聞き手は電子整理部 手塚愛実)

画像の拡大:公認会計士・税理士の山田真哉さん
山田真哉(やまだ・しんや) 1976年生まれ。
公認会計士・税理士。大学卒業後、予備校勤務を経て、
会計・法律・経営などの勉強を始め、
1年後に公認会計士試験に合格。
中央青山監査法人(当時)/プライスウォーターハウスクーパースに勤務後、独立。
2011年、芸能界専門に会計・税務支援を行う一般財団法人芸能文化会計財団の理事長に就任。
著書の『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社新書)は160万部突破。
最新刊は『社長のための世界の朝礼ネタ集』(ヒカルランド)。
http://www.nikkei.com/money/features/38.aspx?g=DGXMZO7902894029102014000000&n_cid=DSTPCS008