たこ焼きの銀だこが、上場を果たしたワケ
東洋経済オンライン
10月17日(金)6時0分配信
写真:「築地銀だこ」でおなじみのホットランド。
参入障壁が一見低すぎるように見える、たこ焼きで、
なぜ今の地位を築けたのか
たこ焼きの「築地銀だこ」を運営する、ホットランドが9月末、
東証マザーズに上場を果たした。
「ときどき利用しているよ」という読者の方々も多いはずだ。
だが、参入が極めて容易な「たこ焼き」で、しかも近年までは、
たこ焼き1本の事業だったといってよい同社が
上場を果たしたのは、きわめて異例のことだ。
実は、上場の背景には、経営論のセオリーを覆す信念があったのだ。
今回は創業者・佐瀬守男社長の話をもとに、
常識にとらわれない、ブレない決断について考えていこう。
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売り上げは「1日350円」の日も
もともと佐瀬社長が、愛車を売った40万円を元手に、
今の銀だこの前身となる店舗を群馬で立ち上げたのは1988年。
当時は、スーパーの敷地内で、たこ焼き、焼きそば、
大判焼きなどを佐瀬社長自らが焼いていた。
しかし、当時はどこにでもある「粉もの屋」で客入りは悪かった。
待たせたくないので、作り置きをする。
すると、味が落ちてしまい、客入りが悪くなる、
という悪循環。売り上げは、なんと1日わずか「350円」の日もあったという。
そこで、佐瀬社長は思い切って、反対を押し切り、
商品をたこ焼きのみに絞り込んだ。
たこ焼きは、実演販売がしやすく訴求力がある。
また、時間帯に関係なく売れる。
作り置きをせず、焼きたてを提供できるというメリットがある。
そして何より、家族みんなでつつきあえる「共食」の食べ物である。
たこ焼き専業にして、味にも改善を重ねたことで、
徐々に売り上げが拡大していった。
これが、銀だこ登場のきっかけだった。
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顕在化した「タコリスク」と、スケールデメリット
たこ焼きに絞り込んだ後は、全国のたこ焼きをこれでもかと食べ歩き、
半年以上、毎日たこ焼きを食べていたという佐瀬社長。
その後、現在のたこ焼きの味を確立した後は、
順調に成長を続けていった。
ちなみに、たこ焼きの表面を揚げる独自のスタイルは、
持ち帰っても冷めず、いつまでも
おいしく食べられるように考え出したものだ。
しかし、そこで顕在化したのが「タコリスク」だった。
店舗が100店を超えた頃から、原材料の中でも特にタコの調達に苦労し始める。
300店を超える頃には、銀だこが輸入していたタコは
年間2000トン以上にのぼった。実に、
日本のタコ輸入量の1割以上を占めていたのだ。
そうなると、銀だこの買い付け一つで市場が左右されるため、
安定調達が非常に難しい。天かす、青のり、
紅ショウガという他の料理ではニッチな食材でも、
同様の現象が発生した。しかも店舗数が増加するにつれて、
スタッフのレベルの差が激しくなり、味や、
サービスもばらつきが目立つようになった。
通常規模が拡大すれば「スケールメリット」が働くが、
銀だこに関しては「スケールデメリット」の方が
大きくなってしまっていたのだった。
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タコリスクは、タコで回避する!
こうした場合、経営論のセオリーで言えば、
リスクの高いたこ焼き業態はほどほどに、
他の飲食業態にも進出して、拡大していくのが
飲食チェーンの経営戦略の王道だ。
しかし、たこ焼きにこだわる銀だこは違った。
「タコのリスクは、自らのタコで回避する」べく、
商社任せの調達から、タコの自社調達にかじを切ったのだ。
世界中の海から契約漁業でタコを調達。
なんと、タコをとらない、食べない国に対しても、
タコのとり方をゼロから指導して、世界中でタコ漁を展開した。
たこ焼き屋がアフリカの僻地まで行ってタコ漁業を指導したわけだ。
加工用には、国内工場で体制を整えた。
さらには、本格的には世界で初めて
宮城県・石巻市でタコの養殖体制まで整えた。
たこ焼き業態に徹底してこだわるからこそ、
たこ焼きの機械も「完全自社特注」のオーダーメード品で統一。
従業員のレベルを底上げするため、
銀座の研修センターで教育体制も整えた。
こうしてたこ焼き専業業態にふさわしい体制を本気で整えた。
佐瀬社長は、「もし、たこ焼き以外の事業にも当初から注力していたら、
現在はなかった」と断言する。
最大の成功要因は、逃げずに「タコ焼き1本に絞り込んだこと」だと言うのだ。
つまり、銀だこは、たこ焼きに絞り込んで自ら退路を断ったので、
逃げ道がなかった。逃げ道がないからこそ、
タコの調達など、常識にとらわれず創意工夫ができ、
逃げなかった中で、社員みんなの気持ちが一つになっていった。
佐瀬社長は言う。「お金で動く人は、すぐに去っていきます。
お金ではなく、逃げずに、リスクを取ってでも、
みんなが「ワクワク」することを
共通目標=夢にしていくことが人がついてくる秘訣だと思います」。
自分たちの携わる「世界的な和のファストフード」であるたこ焼きと、
共食という日本の文化を世界に発展させていく。
安易にリスクを分散せず、熱い想いを貫いたからこそ、
人がついてきたわけだ。
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8本足でなく、1本足で信念を貫く
もちろん直近では、銀だこが大きく成長した後、
他業態にも展開を進めているが、
あくまでそれも銀だこを起点としている。
例えば、たい焼き業態「銀のあん」はたこ焼きと近い原材料で、
同じ工場ラインで生産が可能だ。また、
近年買収した、アイスクリーム業態「コールドストーン」は、
夏につよいアイスクリームと冬に強いたい焼きとの補完関係をうまく実現している
(例えば、最近はたい焼きの銀のあんと隣同士で出店、
同じ人員が夏はアイスクリーム、
冬はたこ焼きを売っているのだ! )
こうして、銀だこをメインとしながら、周辺業態や、
さらには海外展開を進めつつある銀だこ。
最近は、現地向けで焼くのが簡単な機械を導入の上、
アジアを中心に展開を加速させている。
もちろん何でもリスクをとって1本足でいけば必ず成功するというわけではない。
銀だこの影には、1本足打法で去っていった、
数多くのライバル企業がいるだ。
しかし、銀だこの例が示しているように、
「リスクを嫌うあまり、すぐに分散」のようなスタンスでは、
人がついてこないのもまた事実なのである。
1つの目標を実現するためには、途中で大きな困難が付きまとう。
そんな時、タコ足のように8本ではなく、
あえて1本足に絞りその他を捨てる意志と覚悟があれば、
道は開けるということを、銀だこは教えてくれている。
「和のファストフードであるたこ焼きと、
共食という日本の文化を世界で発展させていく」。
創業当初は、数名で語っていたのと同じ夢を、
これから世界で展開させていくことができるだろうか。
これからの銀だこの飛躍に期待したい。
徳谷 智史
東洋経済オン・ラインより
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141017-00050709-toyo-soci&p=1