瀧澤美奈子の言の葉・パレット

政を為すに徳を以てす。たとえば北辰の其所に居りて、衆星の之に共(むか)うがごときなり。

コロナを経て急速に変化した、社会における科学者たちの意識

2022年11月30日 | 最近の出来事
パンデミックによって、いろいろなことが急激に変化しました。今日ここに書き留めておきたいのは「科学者の研究に対する意識」に関する調査結果についてです。

2022年11月、医学・科学技術研究に関する世界最大の学術出版社であるエルゼビア社が世界6ヵ国(日・米・英・蘭・独・中)の約3,000名の研究者を対象に行った意識調査結果を発表しました。
『科学研究への信頼:スポットライトを浴びる研究者たち』(英語)

グローバルの回答結果について:
それによると、半数以上がコロナ禍で研究に対する社会の注目度が高まっていると感じている一方(63%)、偽情報・誤情報と質の高い研究を分ける必要性が高まったと感じ(69%)、オンライン上の誹謗中傷に遭った、または親しい同僚が誹謗中傷に遭った(32%)と答えています。また、偽情報・誤情報を公の場で対処することは自分たちが社会で果たすべき主要な責任の一つと認識する研究者が23%に増加(パンデミック前は16%)しました(ちなみにソーシャルメディアで研究成果を伝えることについて「非常に自信がある」と答えた人は18%未満でした)。

日本の回答結果について:
日本の研究者392人の回答も上記グローバル結果とだいたい同じ傾向ですが、日本で目立つ傾向としては、パンデミックにより研究費が増加したが、53%の人が「研究テーマの選定に対する資金提供者の影響力も増大した」と答えています。
また、オンライン環境が比較的穏やかな日本では、オンライン上の研究議論は諸外国に比べれば苦にする割合が低く、自分の評価を高める上でも重要だと考える傾向がありました。
さらに、日本では半数近くの研究者が「自分の最大の役割としてイノベーションの実現」を上げており、その結果、約半数が企業関係者に自分の研究をアピールしたいと考えている一方、コミュニケーションの訓練が不足していると感じていることもわかりました。
調査結果の概要は以上です。

まとめると、パンデミックによって、研究者に注がれる一般の関心がかつてないほど高まり、研究者の社会的役割がこれまで以上に増大したとの認識変化があったと同時に、日本では経済に対して研究でコミットしたいと考えている研究者が半数近く存在することがわかりました。

また世界ではパンデミックを機に、「開かれた科学」「国境を超えたデータ共有」「政策決定への影響力」への機運が高まりましたが、日本の実際の動向がどうだったのかは気になるところです。
「テーマ選定に関する資金提供者の影響力の増大」といった認識が、今後研究者の間でどう変化するかということにも注目したいと思います。

なお、日本でのアンケート調査に関しては研究者・学生・民間人からなるJAAS(日本科学振興協会)が今回エルゼビア社に協力しました。JAASは「日本の科学を、もっと元気に!」を旗印に、日本版AAASを目指して今年4月に設立されたばかりの科学普及団体です(希望すればだれでも入会できます)。JAASでは、将来的に20万人以上の研究者が登録するresearchmapを活用して「集合知の可視化」を行うことを検討しており、今後も研究者の意識調査を継続する予定。今後のJAASの活動にも期待したいと思います。

パンデミックに限らず、気候変動対応やエネルギー、食糧、イノベーションなどなど、内外の課題が山積する中で、日本の将来にとって科学技術の重要性はかつてないほど高まっています。このような定量的な意識調査は、研究者コミュニティ外にいる人たちが研究者を偏見なく理解するためにも意義の大きいものと考えます。