四国遍路テクテク日記

「四国を歩いて遍路する。」にこだわって平成14年のGWから2年間、5回に分けて歩いた記録を中心に遍路に関するあれこれ。

平成16年4月30日(結願から高野山・第37日目)

2005-09-01 11:34:15 | 第5回(結願・高野山)
4月30日(金曜日)
(第2日・通算第37日目・歩行距離32.6km・歩行歩数46,779歩)

 5:45分、起床する。
1階にはもう一人のお遍路さんが寝ているので、物音を立てないように
出立つ準備する。
洗濯物を取り込んで、布団を畳み、ザックに荷物を積める。
ちょうど準備が終わったところへ、「朝食の用意ができました。」と、
女将さんから電話が来る。

 食堂へ行き朝食を取っているともう一人の遍路がやってくる。
「今日は、女体山を越えるのか?」と聞かれたので、「女体山を越えると、
いきなり大窪寺の境内に出てしまうので、今回は多和の集落を回って
山門に出るように歩く。」と話す。
「私はどうしょうかな?」などと、ぶつぶつ言っている。

 朝食を食べ、宿代を払い出発する。
6:55分、宿の前で女将さんの見送りを受けたので、記念に写真を1枚撮らせてもらう。
女将さんも私の写真を1枚撮ってくれる。
宿代も思ったほど高くはなかったので、夕食の内容と部屋の雰囲気を考えると
上等の部類だ。
気持ちよく泊まれた宿だ。

 朝日の当たる志度の町をゆっくりと歩く。
遍路道は、志度寺の前から右に曲がり真っ直ぐに山を目指す。
今日は、海から遙か前方に見える山を越えなければ行けない。
交通量の多い車道を歩いていく。

 高速道路の下にある大きな交差点にくるとたくさんの小学生が横断歩道を
渡ろうとしている。
父兄の人達も出ている。
挨拶すると元気な声が帰ってくる。

四国を歩いていると、どこでも小学生は元気に挨拶してくる。
これが中学生になると半分くらいになる。
中学生でも男子より女子の方が挨拶してくれる。
しかし、高校生となるとほとんど無視される。
こちらから挨拶してもほとんど返事は帰ってこない。
まあ、これも仕方がないかと思う。
北海道の小学生が通りすがりの知らない人に挨拶するかというと、
ほとんどないのが現状だ。
それに比べると、よく挨拶してくれると感心させられる。

 30分ほど歩いていると、右手にお堂があり、ここから遍路道が歩ける。
お堂の前にある東屋で長袖シャツを1枚脱いでいると車道を一人のお遍路が歩いてくる。
遍路道には来ないで車道をそのまま歩いていく。
私は遍路道を歩いていく。
遍路道は車道に沿ってウネウネと曲がりながら続いている。
民家の軒先を通り、畑の中を歩いていく。
車道がすぐ横に見えるので、少し先を先ほどのお遍路さんが歩いている。
追いかけるようにして後に続く。

 遍路道が車道を横切るところにくると、前を歩いているお遍路が遍路道に
曲がってきた。
しばらく後ろを歩いていると、立ち止まって地図を出して見ている。
横を通り過ぎるときに挨拶をすると、60歳過ぎの男性だった。
 そのまま先になって歩いていく。

 長尾の町外れに来ると遍路道は川にぶつかる。そこを右に曲がり、
川筋に沿って上流へ向かう。
ほどなく小さな橋を渡り、長尾の町へはいる。
ここから10分ほど歩くと、ようやく長尾寺に着く。


 第87番札所 長尾寺

 8:25分、長尾寺の山門に着く。
長尾寺の門前には、以前お世話になった「民宿ながお路」がある。

 広い境内に人影がほとんど見えない。まずは、正面の本堂にお参りをする。
大師堂のお参りも済ませ納経所へ行く。
先ほど追い越してきたお遍路さんが納経をしている。

 手水の横にあるベンチで少し休むことにした。
今晩の宿も決めなくてはいけない。
この調子で歩けば予定通り黒川温泉へいけるようなので電話するが「満室です。」と
断られてしまう。
次に白鳥温泉に電話するとOKの返事。
宿も決まったところで、いよいよ結願のお寺、大窪寺を目指す。

 大窪寺に向かって歩き出したところで、郵便局に寄ってお金を引き出すことにする。
明日からは5連休になるため、郵便局でお金がおろせなければ
宿代が払えなくなってしまう。
昨年は久百々さんに迷惑をかけた苦い経験がある。
 郵便局はすぐわかった。無事にお金をおろして、さあ、いよいよ大窪寺だ。

 遍路道に戻り、山に向かってゆっくりと登っていく。
しばらく歩くと、右手に酒屋やさんがあり、道の反対側にベンチがある。
そのベンチに一人のお遍路が腰掛けている。
声を掛けようとして、ちょっと、様子が違うことに気がついた。

ベンチに座っているお遍路は白衣に輪袈裟はしているが、荷物が大小のゴミ袋に
入れられ無造作にベンチに置かれている。
そして手に持っているのは500CCの缶ビールだ。
身なりはお遍路だが、ほとんど路上生活者といった感じだ。

まだ朝のうちから缶ビールを飲んでいる姿は、職業遍路とも違う自堕落な感じを与える。
今まで職業遍路と思われる人を見かけたことはあるが、
こんなに自堕落な印象を受けたことはない。
皆さんそれぞれ手押し車に荷物を積みながら一生懸命に歩いていた。
この人はほとんど乞食同様に見える。

最近、路上生活者にとって四国が住み易いという話がある。
目の前にいるお遍路は、まさにそう人ではないかという印象を与える。
 黙って通り過ぎることにした。

 9:30分、東塚原にある一心庵に来たので少し休む。
庵の前にあるベンチに腰掛けて、靴下も全部脱いで足をマッサージする。

 向かいの家からお婆ちゃんとお孫さんらしい子供が出てきて、
これから車に乗ってお出かけらしい。
お婆さんがウーロン茶の缶を持ってこちらに歩いてくる。
「暑いのにご苦労様!」といってウーロン茶を差し出される。
お礼を言ってもらう。
お婆ちゃんは私に缶を渡すと、そくさくと子供達を車に乗せていってしまった。 

 もらったウーロン茶を飲みながら歩いていくと、道は少しずつ登っていく。
右手に自然石に仏像を彫り込んだ「珍石仏」がある。
歩きながら手を合わせて通り過ぎる。

道が急になってくると前方に前山ダムの突堤が見えてくる。
道が車道と合流すると一層傾斜が増してくる。
ダムの下がキャンプ場になっているようだ。東屋などが見える。
先ほど会ったお遍路さんは、昨晩はこの東屋で野宿したのだろうか?

 ダムの突堤のところに来ると道が二手に分かれている。
左に曲がりダムの突堤の上を歩いていくと女体山を回るコースとなる。
真っ直ぐ進むと多和の集落を回るコースとなる。
このコースの方が女体山コースより1時間ほど短い時間で大窪寺へ行くことができる。
今回は、多和を回ることにしているので、真っ直ぐに進む。

 分岐点から緑色に輝くダム湖を眺めながら少し行くと道の駅があり、
その手前に「お遍路交流サロン」がある。
今回はここを見学したかった。

玄関にある杖立に杖を差し中に入る。
館内はガラーンとしてお客さんの姿が見えない。
受付の女性に会釈をして入る。お茶の接待を受ける。
奥にいるお爺さんに「歩いているのか?」と尋ねられたので、「そうです」と答え、
札幌から来たと告げると、「お遍路大使」にならないかといわれる。
「お遍路大使」とはどのようなものか聞くと「四国以外からお遍路に来ている人に
四国のいいところを紹介する役を担っていただくのだ。」といわれる。
「それならばお受けします。」と言うと、「このノートに住所と名前を書いて下さい」と
いわれ、ノートを渡される。
ノートに名前を書くとお遍路大使の認定証を渡される。A4判の立派な認定証だ。
併せてバッチをもらう。
弘法大師の遍路姿を図案化したかわいいバッチだ。このバッチはポーチに付けた。

 館内には正面のフロアーにドーンと四国の立体地図があり、各札所のボタンを押すと
その模型に電球がついてどこにあるかわかるようになっている。
その他、いろいろなものがあるが、一番目を引いたのは古い納経帳だ。
和紙を綴っただけの簡単なものだけど相当古い。
私もこの次に歩くことがあれば、手作りの納経帳に歩いて回った順番に別格も番外も
関係なしに納経帳に記帳してもらいたいと思っている。
その方が記念になる。

 「お遍路交流サロン」から、ちょっと戻って花折峠から額峠を越えることにする。
この道は昔のお遍路道だ。いきなり九十九折りの道を登って行くが、
道路は舗装されており何の心配もない。
 この道は、現在、脇道扱いのようで車はほとんど走ってこない。

 やっと平坦な道となったところで、向こうからお遍路さんが一人歩いてくる。
きちっと正装した中年男性のお遍路だった。「暑いですね!」と声を掛け、
会釈をして別れた。

 峠から下っていくと交通量のある道路にぶつかる。
この道が前山ダムから回ってくる道のようだ。
交差点を右に曲がり、さらに下っていくと多和の集落に着く。
信号のある交差点を左に曲がると小学校がある。
その一角に東屋があり、お遍路の休憩所とかかれている。

 11:35分、ここで休むことにする。
小学校の向こうには保育園があり元気な子供達の声が聞こえてくる。
東屋のベンチに腰掛け靴と靴下まで脱いでくつろぐ。
ここまで来ると、大窪寺まではあと5キロほどしかない。

 10分ほど休んで歩き出す。
ここからは歩道のない交通量のある道を歩かなければならないので、車の騒音で疲れる。

20分ほど歩くと右手に立派な宿が見えてくる。
「温泉旅館竹屋敷」と書かれた看板が掛かっている。
和風のなかなか立派な宿だ。

 ほどなく、分かれ道がありヘンロ標識が左手の道を差している。
右手は車道が続いているが、左手の道は旧道のようだ。
車の騒音から逃れられる旧道を選び歩くことにする。

 ここから先は谷を挟んで右側の斜面に車道があり、左側が旧道で畑の中を
ゆっくりと登っていく。
左手の山がドンドン迫ってきたので大窪寺が近いと思い頑張って坂道を登る。

 右手の車道と合流しそうだと思って前方を見ると坂の向こうに大窪寺の
仁王門が見えてきた。
歩く度にその仁王門が大きくなってくる。
屋根の一部が見えたところからやっと入口が見えるところまで来た。


 第88番札所 大窪寺

 12:45分、大窪寺の新しい仁王門を回りこみ、お土産屋の前から階段を上がり、
古い仁王門に着く。
大窪寺は正面に木造の古い山門があり、裏側にコンクリート製の仁王門がある。

 古い山門の前で手を合わせ、一礼して、門をくぐる。
早速、正面にある本堂にお参りをするが、お経を唱えていても、
それほど感動した気持ちが盛り上がってこない。
大師堂でもお参りをするが、どうも88カ所のお寺を歩いて回ったという感動が
湧いてこない。

 大師堂では正装したご夫婦が見事なお経を唱えている。
二人の息が合いよどみなく唱えている。
私はといえば、その横でいつものように教本を見ながらお経を唱える。
境内にはお遍路や観光できている人達がお参りしている。

 納経所へ行って最後の納経をしてもらう。
これで、88カ所を歩き終えたが、一粒の涙さえ浮かんでこない。
何かあっけらかんとした気持ちだ。
昨日から歩き出してから、わずか60キロ余りでは気持ちの盛り上がりがないのか?
それとも、まだまだ歩きなさいと言うことなのか?
私には、どちらなのかわからない?

 山門をバックに写真を1枚撮ってもらおうと思い人が来るのを待っていると、
なかなか人が上がってこない。ようやく家族連れの人達が階段を上がってきたので
写真を撮ってもらう。

 山門の前にある八十窪で昼食を取ることにする。
座敷に上がり込んで靴下も脱いで「しっぽくうどん」を頼む。
テーブルにある水を飲む。おいしいので3杯も一気に飲んでしまった。
 しっぽくうどんを食べた後、外へ出て休むことにした。
八十窪の横が広場になっているのでそこのベンチで休む。

 13:30分、とりあえず今晩の宿である白鳥温泉へ向かうことにして、
大窪寺を後にする。
白鳥温泉までは約10キロほどの道のりだ。

 大窪寺のある山は香川県と徳島県の県境にある。
この山を徳島県側に向かってドンドン降りていく。
所どころ道路の切り替え工事で新しい道ができている。
こんな山奥の道でも、道路幅を拡幅したりショートカットしたりいろいろな工事が
行われている。

 1時間ほど下っていくと小さな交差点に出る。どうやら長野の交差点らしい。
左に行くと切幡寺。右に行くと白鳥温泉とかかれた標識がある。  
右に曲がるとすぐ向こうに大きなトンネルが見える。地図を見るがトンネルなど
書かれていない。
トンネルの中は涼しく気持ちが良い。
このトンネルは数年前にできたようだ。それで、ヘンロ地図に載っていないのか?
名前は五名トンネル、延長460メートルのトンネルだ。

トンネルを出るとまた交差点がある。
白鳥温泉の看板が両側にあり、車は左、歩きは右と書かれた矢印がある。
どっちに行ってもいいのかと思うが、ここは看板に従って右に曲がる。
するとすぐ左手にに大きな木が見えてきて、ここが境目の集落だった。

 14:40分、お店があったのでここで一休みする。
 店に入ろうとするが入り口の戸に鍵が掛かって開けられない。
店の中にはアイスのケースがあり大好物のアイスが目の前にあるのに買うことが
できない。
仕方がないので自販機からファンタグレイプを買って喉を潤す。
 店先のコンクリートの床に靴下を脱いだ素足を付けると冷たくて気持ちが良い。
10分ほど休んで白鳥温泉を目指す。

 車道をドンドン下っていくとヘンロ標識がある。
車道と別れて右手の谷の中へ続く細い道を差している。
この道を歩いていくと狭く急な下りを降りると水田の横に出る。
この水田脇の草藪を歩くとやっと車道に出る。
車道をショートカットした道だった。

ここからは、あと2キロほどなので川沿いに続く道をのんびりと下っていく。
しばらくすると右手に白い大きな建物が見えてきた。
ここが今晩の宿「白鳥温泉」だ。なかなか大きな建物だ。橋を渡って宿へ行く。

 15:40分、白鳥温泉に着く。
フロントで宿代を払う。朝の朝食は何時から用意できるか聞くと
7時半頃になるといわれる。
それでは遅いので朝食はおにぎりにしてもらうようにお願いした。
宿泊棟へ案内される。今晩は4人のお遍路が泊まるという。
洗濯機の場所を聞くが、すでに洗濯している人がいる。

 荷物を整理して、着替えを持って、早速、温泉に入りに行く。
温泉は気持ちが良いが、日焼けした両腕をお湯につけるとビリビリとお湯が沁みる。
半袖で歩いているので、両腕が真っ赤に日焼けしている。
それでも今日一日の汗を流すとサッパリとして気持ちが良くなる。

 夕食の案内が来たので食堂へ行くがお遍路らしい人が見あたらない。
一人で食事を済ませ、明日朝おにぎりをもらって部屋へ戻る。
洗濯機が空いているので洗濯をしてしまう。
後はテレビを見ながら布団の上でゴロゴロして時間をつぶす。

 今日で88番大窪寺を打ち終えたわけだが、気持ちの中に歩き終えたという
達成感が湧いてこない。
これは、歩き始めて1日半で結願ということと関係があるかもしれないが、
やったーという実感が薄い。
明日は1番霊山寺まで歩くが、やはり一番遠回りになる卯辰越えで行くことにする。