背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

無駄なプライドが邪魔をする

2008年10月10日 05時42分48秒 | 【別冊図書館戦争Ⅱ】以降


「あ、ねえ。あたしにも一個ちょうだい?」
隣の席から郁に言われ、手塚は口をもぐもぐさせながら「ん?」と顔をそちらに向けた。
見ると、えらく物欲しそうな目で手元を見ている。
手塚のデスクの上には、カップに入ったチロルチョコ。
午後の休憩時間、コーヒーのお供に何個か摘んでいたところだった。
「いいよ。好きなの取れよ」
手塚はカップを滑らせるようにして郁の方へ押しやる。
わあいと語尾にハートマークを散らせながら、郁はカップから鷲掴みで数個チョコをゲットした。
「……好きなだけ取れだなんて言ってない。遠慮のないやつだな」
呆れる。
忖度せずに郁は、早速がさがさと包みを開いてブロック状のお菓子を口に放り込んだ。
「ごめーん。今日おやつの買い置きするの忘れちゃって、口淋しかったんだ。あー助かった」
でも、と音を立てて噛み砕きながら郁はあらためて手塚に向き直る。
「珍しいね。あんたがチョコだなんて。甘いのあんま得意じゃないのに」
「……これだけは大丈夫なんだよ」
なぜかそこで手塚はわずかに赤くなる。
言い訳のように付け加えた。
「色んな種類あるから、選んで食えるしな」
「おいしーよねー。あたしこのゴマ味、結構好きなんだ」
ホクホク顔の郁は目先のチョコに気を取られて、手塚の様子に気がつくことは無かった。


去年のバレンタインの夜。共有ロビーで会った柴崎がくれたのがこの銘柄だった。
食いさしを押し付けるように「あげる」と言って手渡された。
あの時は偶然だと思っていたけど、実は計算づくで渡されたと知ったのは、柴崎と付き合うようになってからだった。


「……ったく、素直じゃないよなあ」
手塚が、カップからひとつ、チョコを取り出して目の前にかざした。定番の、こげ茶色のパッケージのやつだった。
――あの頃は、自分の気持ちをあんたに知られるのがヤだったの。
でもバレンタインだから、やっぱり好きな男にはあげたいじゃない? チョコ。
柴崎は、後からそんな風に言った。
――だからチロルチョコだったのか。なるほど。
巧妙な作戦だった。まんまと引っかかった自分が嬉しい。
柴崎は少し拗ねるように唇を尖らせて、訊いた。
――あのチョコ、どうした? ちゃんと食べてくれた?
半分、期待を込めて。半分、窺うように。
柴崎に完全に心奪われた身としては、その仕草が可愛くてしかたがない。
手塚は、当たり前だろ、と語調を強めた。
――あの後他の連中に一個いくらで売ってくれって泣きつかれたけど、みんな断った。部屋に持ち帰って少しずつ、何日もかけて大事に頂きました。
柴崎はそれを聞くとにっこりと笑った。そこだけ花が開いたようなあでやかな笑顔だった。
――とうぜんよねー。あたしからのチョコだもん。崇めまつって食べてなきゃ、鉄拳もんだわよ。
華奢な手で拳を握ってみせる。
嬉しいくせに、素直に喜べない。無駄なプライドが邪魔をし、照れ隠しを優先してしまう。無意識のうちに。
……ほんとに、素直じゃないやつ。


「ん? なんか、言った?」
郁がもう一個、ピンク色の包みに取り掛かりながら訊いた。かさこそと、小動物のような音を立てている。
「いや。別に。こっちの話」
なんだか手塚の顔が優しいなあと思ったが、チョコ食べてるせいかな、ぐらいに流した。甘いものを食べている時は自然と誰でも表情が和らぐ。
「後でなんかお返しするね。あんま、甘くないやつ。
あ、チロルだったら食べられるのか。同じの買っておくから」
一応気を遣ってそんなことを申し出たが、手塚は「いや、気にするな」とやんわり断った。


実はあれ以来、チロルチョコは、もらう相手が決まっている。
柴崎が買ってくれることになっていた。二人の間では。
デート帰り、コンビニに立ち寄った時などで。「ほら、補充しておきなさい」とバラでどさりと渡される。
だからいいんだ。


――とは言えない。
あまつ、二人きりの時は、「食わせて」と柴崎に甘えているだなんて。包みを剥いて貰って、「あーん」とかしてもらってるなんて、絶対に、口が裂けてもこの同期には言えない。
知られたら、恥ずかしくて頓死する。


「手塚? どうしたの? 顔、赤いんじゃない?」
ようやく郁も異変に気がついたのか、顔を寄せて手塚に気遣わしげな視線を当てた。
が、彼はそこで会話を畳むように、
「……チョコでのぼせた」
とだけ言ってカップをデスクの抽斗にしまった。

Fin.
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2 コメント

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見・見たい・・・ (YKママです)
2013-05-17 12:26:16
手塚が柴崎に「あ~ん」としているところ・・・激烈に見たいです!
読んで想像させていただいたのですが、どうにも私の妄想力では覚束なくて・・・。あっでも手塚の頭から耳がピョコンと出ているのは見えました。大型犬を手なずける柴崎・・・。
ああ、見た~い。
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手柴ファン 同志ですね (あだち)
2013-05-18 05:27:14
>YKママさん
いらっしゃいませ。同志に出会えて嬉しいですv
掲示板のほうのお返事は少々お待ちくださいね。
どうぞごゆっくりしていってください。
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