背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

どんな顔で迎えようか

2008年11月18日 18時26分22秒 | 【別冊図書館戦争Ⅱ】以降


「ただいま」

手塚がドアを開けると,苦虫を噛みつぶして呑み込んでもこうはならないだろうというくらい,渋い表情の柴崎が玄関で出迎えた。

「おかえり」

目を見ずに,あさっての方へ視線を逸らして言う。
手塚はつい吹き出しそうになった。でもぎりぎりのところでこらえる。
今笑ったりしたら,すべておじゃんだ。我慢我慢。
でも,いったいどんな顔で迎えたらいいか,今の今まで,それこそ俺がドアを開ける直前まで悩んでたんだろうなあ,で悩んだ末に選んだのがこの顔かよと想像すると,頬が勝手に緩んでしまうのを止められない。
柴崎は行儀悪くエプロンのポケットに両手を突っ込んだまま,むっすりと不機嫌きわまりない声で言った。

「お仕事お疲れ様。――ご飯にする? お風呂にする?」

そこで,いったん言葉を切り,手塚を上目で掬い上げるように見た。
目と目がばちりと合う。
確かに玄関までいい匂いが漂ってきている。今夜は海鮮鍋だな。それに風呂場からはボイラーの稼働する音も聞こえる。浴槽には温かいお湯がちゃんと張られているのだろう。
そういった幸せなあれこれを想像しながら,手塚は「……(どうぞ)」と視線だけで促してみせる。
柴崎はう,と詰まって,こめかみを二,三度ひくひくと引き攣らせた。
そして,覚えてらっしゃい,というような意味合いのうなり声をかみ殺し,やっとのことでこう口にした。

「~~それとも,あたしにする!?」

甘くない。まったく糖度の感じられない平坦な声。
しかも,至近距離にいる手塚にも聞こえるかどうかというほど,低い地を這う声で。
ちいさな女の子が親に叱られたときのように,見事に膨れて柴崎は言った。
手塚はしてやったり,と満面の笑顔を浮かべる。
そして,

「もちろん,お前にする」

そう言って,不本意そうに唇を尖らせている柴崎のキスを奪った。そのまま玄関の上がり框になだれ込む。
「や,ちょ,ちょっと待って,光……」
慌てて押しとどめる柴崎の言い分はまるきり無視の方向で。手塚は上体を押し被せ,その場でちゃっかりと彼女を最後まで戴いた。


新婚数ヶ月めの手塚家で,いま思い出したように?ブームになっているのが「テトリス」だった。
ここ数週間というもの,若い二人はそれこそ夜を徹する様相で対戦型テトリスにはまっていた。
夕べの勝者は手塚。今のところ6-4の割合で彼の方に分があった。
でも,何か賭けましょうよと言いだしたのは柴崎の方だった。ただやりあってても緊張感が出ないからさ,負けたら罰ゲームとかやらなきゃならないってのはどう?と。
でも夫婦間で金銭が動いてもあれだから,お金がからむ罰はなしね,としっかり釘まで刺して。
――彼女は墓穴を掘った。
手塚が敗者に要求した罰ゲームは,「新妻の決め台詞」でお出迎えをすることだった。
三つ指を突いて,例のみっつの台詞で自分を迎えるように,と。
柴崎は著しい拒絶反応を示した。激しく抵抗し,しまいにはそんなことするくらいなら家を出るわとまで言い出す始末だった。
でも,「お前がやろうって言ったんだよな。言い出しっぺが約束破るのか」と手塚が引導を渡すと,ぐうと言ったきりそれ以上何も言葉を継げなかった。断腸の思いで夫の要求を受け入れた。


――で,冒頭のやりとりに戻る。


すべてのコトが済み,剥がされた衣服をかき集めながら柴崎は言った。

「ん,もう。光のすけべ。確かにあたしは出迎えの台詞は約束したけど,ここまでだなんてひとことも言ってなかったわよ」
玄関でなんて! とおかんむりだ。
でもそれが単なる照れ隠しだと言うことは,彼女のむき出しの細い肩のラインを見れば分かった。何とも言えない艶めかしさが漂う。
手塚は乱れた着衣を直しつつ,「ごめんごめん」と全く悪びれずに笑う。
「全然ごめんなんて思ってないんでしょ! あんた」
「うん」
素直に頷くと拳が上腕のあたりに飛んできた。
華奢なげんこつを有り難く食らう。
手塚は柴崎がエプロンの腰紐を後ろ手で結わえるのを手伝いながら,
「今夜もやろうな,ひと勝負」
と肩越しに顔を覗き込む。
柴崎は負けん気の強い瞳をぐいと後ろに向けた。
「望むところよ。今夜は返り討ちにしてやるからね。見てらっしゃい」
勇ましく言い切る。
手塚は耳元で囁いた。
「その代わり,お前が負けたら今度は究極の罰ゲーム【裸エプロン】だからな」
「!」
柴崎は驚きのあまり声を無くした。棒立ちになる。
手塚はにやっと口角を上げて嗤い,念を押した。
「いいよな?」
「~~もう,あんたってば,ほんっとに!
結婚してからキャラ変わってない? ったくう」
怒りのあまり,あるいは照れくささのあまり,湯気が出るほど真っ赤になって,柴崎は踵を返して足音高くリビングに向かった。
でも,その前に廊下に落っこちていた手塚の鞄を拾い上げるのは,忘れなかった。

Fin.

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4 コメント

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キャラは… (たくねこ)
2008-11-19 13:55:18
変わってないと思います~~~。
手塚はこういう奴じゃないかと…

なんといっても、最後にちゃんとかばんを拾い上げる麻子がかわいいです。
ええそりゃぁもう、玄関で押し倒すぐらい…
(ホントにすみません、こんなコメントで…orz)
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ありがとうございますv ()
2008-11-19 18:21:20
わざわざのご来館、ありがとうございます>たくねこさん

原作の手塚はもっとこう無骨な、不器用なイメージがあるのですが、我が家だといいとこどりだなあ、と(^^;私、手塚に甘いですよねえ(ちみっと反省)
麻子さんの裸エプロン、自分で書いてて押し倒したくなりました(汗)失敬~=3=3
返信する
ご馳走様 ()
2011-02-21 18:43:28
ほんっとに薫様の書いた小説って美味しいですね!!
わたしも手塚がそういうキャラだとよみがいがあるというか
おもしろいというか・・・
海と塩それから戦争を今読んでいますがどれを読んでも有川先生は有川先生なんですね作風がそっくりです
まだ読んでる途中ですが読み終わったら薫様の小説を読んでみたいと思います
戦争ですがあれは何回読んでも面白いですね
前に読んだときは三百~四百ページもある小説になれていなくて読み終わらないまま返してしまいましたが、今回は読み切ります!(断言
さらに戦争のあと革命→危機→内乱と読み進めていったので、頭がごっちゃごちゃでした
それでも面白いんですが・・・
と、今回も長くなり、まだまだ伝えたいことがたくさんありますがおいとまします。
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いいですね (あだち)
2011-02-24 05:31:24
>葵さん
コメント有難うございます。10代の、感性が瑞々しい時期に有川作品を読むというのも、また違った印象を受けるのだろうなと拝読しております。私は有川先生とたぶん同世代で30も半ばを過ぎてから作品と出会いましたが、もっと若いときに読んでいたらどうだったかなと葵さんのコメントを読むたびに思いますよ。
ちょっぴりうらやましいです。
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