美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

現在進行中のインフレは、第一波に過ぎない

2022年04月14日 21時11分46秒 | 経済


今回は、投資サイト「グローバルマクロ・リサーチ・インスティチュート」4月13日掲載の論考の紹介をします。その内容は、タイトルにあるとおり「現在進行中のインフレは第一波に過ぎない。過去のデータからすれば、第二波・第三波が世界経済に押し寄せ、その程度は後の波ほどはなはだしいものとなる」です。

とても暗いシナリオではありますが、けっこう説得力のある議論が展開されています。

では、ごらんください。

***

3月のアメリカのインフレ率は遂に8.6%に
WWW.GLOBALMACRORESEARCH.ORG/JP/ARCHIVES/22933
2022年4月13日 GLOBALMACRORESEARCH

米国時間4月12日にアメリカの最新のCPI(消費者物価指数)統計が発表され、3月のインフレ率は遂に8.6%となった。

物価高騰続く
2月の7.9%から更に伸びてきたが、後述するように2月末から始まったウクライナ情勢によるインフレをまだ反映していない数字であり、更なる上昇が予想される。

まずはいつも通りチャートを見てみよう。いつまでも上に伸び続けているのでもはや毎月変わらないチャートに見える。



だがコロナ前の水準が山のふもとのように見えてきた。もうアメリカにインフレが2%の水準は戻って来ないのだろうか。

しかし今回の問題は前述したように高いインフレ率自体ではない。このインフレ率がウクライナ情勢に起因する物価上昇を含んでいないということである。

何故か。まずウクライナ情勢で価格が上昇したのは例えば金融市場で取引されている小麦先物である。小麦価格のチャートは次のようになっている。



これはロシアとウクライナがともに小麦の輸出国であることに起因する。筆者は年始から小麦に投資していたので、一度上がりすぎた時に一部を利益確定している。

• ウクライナ危機でコモディティ価格高騰、小麦を一部利確してシルバー買い
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/20954

だが先物価格は金融市場における価格である。この先物価格がまず生産者物価(企業が仕入れる時の物価)に影響を与え、その後に消費者向けの商品に転嫁されて消費者物価に影響を与える。

このプロセスには通常少なくとも数ヶ月を要するので、2月末から始まったウクライナ危機による物価上昇は3月の消費者物価指数にはほとんど全く反映されていないはずである。

よって8.6%はまだまだ通過点に過ぎず、アメリカのインフレ率は恐らく10%に向けて更に上昇してゆく可能性が高い。

国債金利は一時上昇を休止
さて、金融市場の反応はどうだっただろうか。少し意外だったのは、今後の利上げ観測を反映して推移する2年物国債の金利が急落したことである。



ここまで急上昇してきたのであまり下がったように見えないが、2年物金利は2.6%台から2.4%台まで落ちているので、ほとんど利上げ1回分下がったことになる。

市場は8.6%という高いインフレ率でも不満だったと見える。あるいは3月から高インフレを目標に金利を上げてきたので、「噂で買って事実で売る」の格言通り、材料出尽くしで下がったのだろう。

一方で債券市場では一時2年物国債の金利が10年物を上回る長短金利逆転が発生していたが、今月に入って10年物国債の金利が上がってきているので、今は解消されている



長短金利逆転は逆イールドとも言われ、景気後退の前に表れることが多い。筆者は逆イールドを去年から予想しており、それは達成されたが、今後の金利の動きはより複雑になってくるだろう。

• 長短金利逆転を予測できた理由と今後の不況と株価暴落について
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/22559

何故ならば、逆イールド後の10年物国債の金利上昇は、インフレが2年や5年で終わらず、10年規模のものになってくるのではないかという市場の不安を反映しており、また市場はそろそろ株価下落が金利に及ぼす影響をも考えなければならなくなってきたからである。

*ここで言っていることは多少の説明を要します。まず、2年物国債の金利は今後2年間の政策金利の予想値に左右されるのに対して、10年物国債の金利は、今後の名目経済成長率(実質経済成長率+インフレ率)に左右されることを押さえていただいたい(当論者がそう言っていますので)。通常は、10年物国債の金利は2年物国債のそれよりも高く、なだらかな右肩上がりのいわゆるイールドカーブを描きます。ところが、長期の経済見通しが悪かったりして10年物国債の金利が2年物国債の金利を上回ることがあります。それを「長短金利の逆転」もしくは「逆イールド」と言います。逆イールドは、株価大暴落や長期の経済見通しの悪化などの経済の異変を市場が予想するときに現れる経済現象といえるでしょう。とはいうものの逆イールドはずっと続くわけではありません。上記のとおり、「インフレが2年や5年で終わらず、10年規模のものになってくるのではないかという市場の不安」は10年物国債の金利を上げる要因となりますし、「市場がそろそろ株価下落が金利に及ぼす影響をも考えなければならなくなって」くると、それは2年物国債の金利を下げる要因にもなりえます。とすれば、確かに長短金利差は複雑な動きをすることになります。当方は、上記をそのように読み解きました。〔引用者 注〕

• アメリカの長期金利、2018年世界同時株安を引き起こした水準に近づく
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/22889

米国株のチャートは次のように推移している。



したがって今後の金利の動きを予想するためには、インフレがどれだけ長引くかということと、そして今後の株価の動向を考慮に入れる必要があり、去年立てた予想よりも複雑な考察が必要となってくるだろう。

結論
特に10年物国債の金利が示唆するインフレの長期化は投資家にとって非常に重要である。

今後のシナリオは以前述べた通りである。株価の下落は実体経済にも一時的なデフレ効果を生むだろうが、中央銀行はそこで金融引き締めをある程度緩め、その時行われる金融緩和が今より更に大きなインフレ第2波を生むだろう。

ここの読者であれば1970年代の物価高騰については十分知っているだろうが、当時の物価高騰がコロナのように何回かの波に分けて来たように、今回の世界的インフレも同じようになるだろう。以前書いた通りである。

• 現在のアメリカの物価高騰はインフレ第1波に過ぎない
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/17958

そして第2波は今よりも酷くなる

ここではインフレも株価下落も事前に書いているので、事前に読んでおいてもらいたい。後からニュースを気にしても遅いのである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

制裁合戦は金本位制復活をもたらす可能性がある

2022年03月28日 22時34分49秒 | 経済


金融サイト「グローバルマクロ・リサーチ・インスティチュート」の紹介記事です。

当論考で、及川幸久さんも自身の動画で取り上げたことがあるゾルタン・ポズサー氏の論考が取り上げられ、高く評価されています。ポズサー氏はクレディ・スイスで短期金利ストラテジストをやっているが、氏にはそれ以上の価値がある、と。

では、よろしかったらごらんください。

***


ポズサー氏: 制裁合戦で金本位制復活、コモディティ高騰でインフレ危機へ
WWW.GLOBALMACRORESEARCH.ORG/JP/ARCHIVES/22124
2022年3月28日 GLOBALMACRORESEARCH

(前文省略)

内部貨幣と外部貨幣
ポズサー氏はクレディ・スイスが発行するアナリストレポートで有名である。そしてロシアのウクライナ侵攻以後、彼の名前は更に有名になった。彼はドルやゴールドがウクライナ以後の世界でどうなるかについて大変興味深い論考を発表しているからである。

ポズサー氏はこのウクライナ危機が世界の通貨秩序を変えると言っている。彼はBloombergのポッドキャストでまず次のように説明する。

内部貨幣と外部貨幣という概念がある。内部貨幣とは誰かの負債である貨幣で、外部貨幣とは誰の負債でもない貨幣だ。

内部貨幣とは預金や債券などである。預金は誰かに預けているお金という意味で(預けられた側からすればー引用者補)借金であり、債券は借金を証券化したものだ。

一方で外部貨幣とはゴールドや穀物などの現物資産、つまりコモディティのことである。これらは金融論の用語である。

*コモディティ(Commodity)とは、一般に、“商品”のことを指す言葉で、コモディティ投資とは、商品先物市場で取引されている原油やガソリンなどのエネルギー、金やプラチナなどの貴金属、トウモロコシや大豆などの穀物といったようなコモディティ(商品)に投資することをいいます。(引用者 注)

そしてポズサー氏によれば、今回の危機で内部貨幣を持っていることのリスクが表面化したという。彼はこう続ける。

外貨準備の大半は様々な形の内部貨幣、つまり誰かの借金だ。

ロシアの場合、ゴールド以外の外貨準備がおよそ5,000億ドル分あり、その内2,000億ドルは有価証券であり、1,000億ドル超は中央銀行への預金で、残りは普通の銀行への預金だ。

これはつまり、ロシアの外貨準備は基本的に西側の金融機関に預けられたものであることを意味する。


よってこれらの資金はアメリカやEU、日本の制裁によって凍結された。凍結と言えば聞こえは良いが、要するに不法に盗まれたのである。これを受けてロシアもリースされている航空機を返さないなど報復に出ている。制裁合戦の始まりである。

ポズサー氏は次のように纏めている。

外国の国債を持つにしても、中央銀行への預金にしても、西側の金融機関に預金するにしても、それはつまり内部貨幣で、所有者はコントロールすることができず、それは誰かの借金であり、つまり所有者は(借金が返されないことにより)制裁されうる。

外部貨幣の復活
こうした状況の中で、ロシアは当然内部貨幣を外貨準備として持つことを止めるだろう。では代わりにどうするのか? ポズサー氏は次のように続ける。

だが外部貨幣は完全に異なる。例えばゴールドである。ロシアの持つゴールドのすべてはモスクワの地下にある中央銀行の保管庫に置かれている。

ロシアは国内市場でゴールドの購入を再開している。


そしてこの問題はロシアだけの話ではない。大手メディアの話だけを聞いている多くの日本人には実感がわかないかもしれないが、こうしたアメリカやEUの振る舞いを危険視している国は少なくない。ジム・ロジャーズ氏は次のように書いていた。

• ジム・ロジャーズ氏: ウクライナ危機でドルは暴落する
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/21358

制裁はアメリカを害している。今や多くの人がドルの代わりになるものを探し求めている。中国人、ロシア人、インド人、ブラジル人、イラン人…彼らは出来るだけ早く米国ドルの代わりになるものを作ろうとしている。

何故ならば、これまでいくつも記事を書いてきたように、今回のウクライナでの戦争は2014年のクーデターで西側が始めたものであり、以下の記事に書いたように直接のきっかけは2月のゼレンスキー大統領の核兵器保有発言だからである。

• 真珠湾攻撃に言及したゼレンスキー大統領が広島の原爆には言及できない理由
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/21836

*ゼレンスキー大統領は、2月19日のミュンヘン安全保障会議で「ブダペスト覚書はもはや無効だ」と発言しています。1994年にハンガリーのブダペストで纏められたブダペスト覚書は、ウクライナに核兵器を放棄させる代わりにアメリカやイギリスにウクライナの安全保障を委ねるという内容の覚書です。(引用者 注)

それでロシアの軍事行動が正当化出来ないとしても、アゾフ連隊などについて報じない(あるいはテレビ朝日が国連の報告書に住民への暴行が記録されているこのならずもの集団を賛美し始めた)西側の情報統制の中にいない国々は、西側が行っている戦争に同意しなければ制裁を食らう状況に危機感を覚えている

• アゾフ連隊: ウクライナ国家親衛隊に実際に存在するネオナチの暴力集団
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/21097

選択を迫られる中国
西側から距離を置こうとしている国の中で、経済規模が一番大きいのは中国である。

中国は明らかにドルを保有する危険性を認識しているはずだ。中国にNATOの東側への進軍を支援する理由はまったくないが、そうしなければアメリカは制裁をちらつかせている。習近平氏はロシアとアメリカに板挟みにされ、心中穏やかではないだろう。

中国は大量に米国債を抱えている。これをどうするかが問題になる。習氏は間違いなく売りたいはずである。

一方でポズサー氏がレポートで指摘しているように、中国には天然ガスなど西側の制裁で暴落したロシア産のコモディティを安く買うという選択肢が存在している。

バイデン大統領は必死に止めようとしているが、中東でもヨーロッパでも続いているアメリカの戦争のために自国の国益を捨てる理由が中国に1ミリでもあるだろうか

米軍の都合でゴミになりかねない米国債と、高騰しているコモディティを安く買える機会が天秤に載っている。それがポズサー氏の指摘する状況である。そしてこれは中国だけの話ではない。インドやブラジルの中央銀行も加わる可能性もある

コモディティの貨幣化でインフレ危機へ
それは急激にコモディティの需要が高まることを意味する。世界中の中央銀行の莫大な資金がゴールドや穀物などの保存できるコモディティに向かう。

(中略)

これまで量的緩和でばら撒かれてきたが価値は下がっていなかった紙幣の価値が、ここに来て急激に怪しくなってきている。量的緩和で大量に紙幣が存在している状況でその紙幣をゴールドなどコモディティに変えようとする大きな動きがあったとき、コモディティの値段はどうなってしまうだろうか?

これはレイ・ダリオ氏が予言していた状況である。
世界最大のヘッジファンド: 金融資産から現物資産への怒涛の資金逃避が起こる可能性
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/18576

また、それは通貨間の価値の変動にも寄与するだろう。ポズサー氏はこう述べている。

戦時中には、通貨の重要性は大きく揺れ動く。ポンドからドルへ、そしてドルから人民元だ。

(中略)

ポズサー氏は最終的にコモディティの地位がどうなりうるかについて、次のように述べている。

もし中央銀行がロシアのような状態に置かれ、通貨に下落圧力がかかっている時には、国は通貨を再びゴールドか何かにペッグさせる必要がある可能性のではないか?

紙幣の価値暴落によって各国の中央銀行が追い込まれた時には、紙幣の価値を維持するために紙幣とゴールドの交換を保証する、つまり金本位制を復活させる可能性があるということである。

結論
このポズサー氏の考えは大変面白い。特に重要なのは、中国がその莫大な資金を使ってコモディティの買いに走るシナリオである。世界中の貴金属や農作物の価格は暴騰するだろう。

そしてインフレ危機はアメリカの金融引き締めを加速させ、株式市場はますます窮地に追い込まれるだろう。
(後略)
***

バイデンは、愚かなリーダーです。敵をやっつける鋭利な武器がほかのだれよりも自分に突き刺さっているのですから。

ついでながら、金本位制の復活した世界では、ケインズ政策の余地は劇的に縮小します。不況時のマネーの発行量が著しく制限されるからです。資本主義の「無限の格差拡大」という無慈悲な側面が緩和されることなく世界に広がることが予想されます。その事態は、グローバリストの世界支配を強化しやすくする条件を用意します。

これらの予想がすべて外れてくれることを心から願っています。そうして、この暗いt展望の引き金になったのは、元をたどれば、バイデンに象徴される米国ネオコン・グローバリストが仕掛けた2014年のウクライナ騒乱です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

長短金利差の縮小傾向は、インフレ下の景気後退を意味する

2022年03月23日 01時06分25秒 | 経済


今回も、「グローバルマクロ・リサーチ・インスティチュート」からの全面引用をします。

今後の景気動向を占ううえで、当サイトが示唆に富んだ論を展開しているからです。

当論考によれば、アメリカにおいて今後、インフレ下の不況すなわちスタグフレーションが避けがたいとの由。とすれば、30年来のデフレ不況の泥沼にはまり込でいる日本の場合、経済的惨状はアメリカの比ではないだろうという予測が成り立ちます。

当たってほしくない予想です。

2年物国債、10年物国債、イールドカーブなど、いささか敬遠したくなるような言葉がいくつか出てきますが、きちんと読めば分かるように書かれています。

***

ガンドラック氏: 金利を見て景気後退の確率を占う方法を債券投資家が説明する
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/21733
2022年3月22日 GLOBALMACRORESEARCH
債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏がCNBCのインタビューで、国債の金利を眺めながら今後の景気後退について語っているので紹介したい。

日本では個人投資家が債券市場に投資をする方法は少ないため債券はマイナーな資産だと見なされているが、物価高騰で株価暴落が予想される中、債券市場で利益を上げる方法を知っておくべきだろう。

インフレと国債の金利
アメリカではかなり高いインフレ率が続いており、結果として金利が上がっている。
• 2月の米国インフレ率は7.9%、今後更なる物価高騰へ
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/21193

中央銀行がインフレ抑制のため利上げを開始したからである。
• 3月FOMC会合結果は利上げ開始、政策金利は年内に2%以上となり株価暴落へ
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/21514

だが金利と言っても色々ある。利上げとは中央銀行が政策金利を上げることで、政策金利は国債の金利に影響を与える。

国債の金利にも色々ある。国債とは投資家が政府にお金を貸すという行為を証券化したものだが、どのくらいの期間お金を貸すのかによって、2年物、5年物、10年物、30年物など色々な期間がある。

2年物国債は今後の政策金利の動向に左右される。政策金利(アメリカでは銀行間の短期貸し借りの金利)が上がったにもかかわらず2年物国債の金利が低ければ、銀行などは2年物国債を買わずに政策金利を2年間得続けようとするだろう。

だから2年物国債は今後2年間の政策金利の市場予想に連動して推移することになる。市場を驚かせたくないパウエル議長が連続利上げを表明したのは、2年物国債の織り込みに従うためである。

一方で10年物や30年物など長期・超長期の国債の金利は、政策金利だけではなく今後のインフレ率や経済成長率に左右される。まずこの違いを覚えておいてもらいたい。

アメリカ国債をトレードする
この期間の違う様々な国債を売買することは、株式市場に逆風の吹く現在のインフレ相場で手堅い利益を得られる数少ない方法である。

物価高騰が酷くなれば、景気が良くない状況下でも中央銀行は利上げを強いられる。利上げは住宅ローンや自動車ローンの金利上昇を通して消費を抑制するので、利上げによって景気が落ち込んでゆくにもかかわらず、中央銀行はインフレ抑制のために利上げを止められなくなる。

この状況で国債の金利がどうなるかと言えば、政策金利に連動する2年物の金利は利上げを織り込んで上昇せざるを得ないが、景気はどんどん落ち込んでゆくので、長期的な景気動向を織り込む10年物や30年物の金利は2年物に比べて相対的に頭打ちすることになる。

よって、例えば10年物国債の金利から2年物国債の金利を引いた差、これを長短金利差と言うのだが、長短金利差がどんどん下がってくる。長短金利差のチャートは次のようになっている。



長短金利差に賭けるスタグフレーショントレード
要するに、利上げのやり過ぎによる景気後退に掛けたければ、2年物国債の上昇と10年物国債の下落に同時に賭けてその差を得れば良いのである。

筆者が長短金利差の下落に賭けるトレードに言及したのは去年の秋のことである。その後2月にも言及している。

• 長期金利とテーパリングの関係、今後の推移予想 (2021/9/5)
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/15210

• 急速にスタグフレーションを織り込む金融市場 (2022/2/6)
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/19606

上のチャートを見て分かる通り、このトレードは現在、筆者にとって株の空売りとコモディティの買いのクロストレードと同じくらい莫大な利益を上げている。

• ウクライナ危機でコモディティ価格高騰、小麦を一部利確してシルバー買い
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/20954

中央銀行が急激な利上げに追い込まれるのは分かりきっていたのに、他の投資家は何故同じことをしなかったのだろうか? 筆者にとってこれは市場にお金が落ちていたようなものである。

長短金利差の今後の推移
さて、前置きが長くなったが世界有数の債券の専門家であるガンドラック氏がこの長短金利差に言及している。彼は次のように述べている。

2年物と10年物の金利差が0.5%以下の時、景気後退が心配される。金利差がゼロになる時、非常に大きな景気後退が心配される。
今の長短金利差は0.18%なので、その間くらいだろうか。だが筆者は最終的にこの長短金利差はマイナスまで軽く行ってしまうと考えている。


それはインフレの状況下で大きな景気後退が来ることを意味する。ガンドラック氏が特に懸念するのは、イールドカーブ(国債の期間の短いものから長いものまでの金利を並べた曲線)がフラット(つまり長短金利差が開いていない)である中で中央銀行が利上げを開始しなければならないことである。

今の利上げサイクルはイールドカーブが非常にフラットな状態で始まる。

通常、金融市場の状況が何回かの利上げに耐えられるほど良いと考えられるのは、イールドカーブが今よりも急勾配になっている時だ。

市場が景気に強気ならば、景気動向に反応する長期の金利が上がってイールドカーブは急勾配になるはずである。その時ならば市場も実体経済も利上げに耐えられると主張することも出来るかもしれない。

だがガンドラック氏は次のように述べる。

金利の絶対値からインフレ率を引いた実質金利を考えると、現在の金利差はかなり小さい。
現在、アメリカのインフレ率は金利水準よりもかなり高い。


これは、例えば住宅価格がかなりの速度で上昇する中で、アメリカの消費者にとってそれを指を加えて見送るのか、それとも2%や3%の金利でローンを組んでその上昇に乗るのかの選択を意味する。

• 12月のアメリカの住宅価格は18.8%上昇、サブプライムバブルを大きく上回る
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/20231

逆に住宅を買わなければ、高騰してゆく家賃を今後払ってゆくということになる。アメリカ国民はこの金利とインフレ率の水準では住宅を買うしかないのである。

*連邦準備制度の利上げ政策が、さらなる物価高を招くと言っているのです。(編集者 注記)

「緩和的」な利上げ
よってこの金利水準は、利上げが行われているにもかかわらず、インフレ率に比べて緩和的だということになる。金利がインフレ率よりも低いので、人々はどんどんお金を借りてものを買おうとするだろう。

そしてガンドラック氏の指摘するのは、金融政策がこれだけ緩和的であるにもかかわらず、長短金利差が大きな景気後退を織り込みつつあるということである。

これはコロナで傷んだ経済を現金給付や量的緩和によって数字の上では無理矢理持ち直させたが、実際のところは実体経済は満身創痍だということを意味する。借金で短期的に経済を持ち上げることのマイナス効果についてコロナ初期に記事を書いているのだが、読者は覚えているだろうか。

• 新型コロナで借金が実体経済に影響を与える仕組みを分かりやすく説明する
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/10248

結論
結局、政府が借金を増やして現金給付を行った結果、物価高騰という更なる人災を引き起こす結果となった。そしてそれは大きな景気後退を引き起こすことを長短金利差は示唆している。



このチャートはまだまだ下がる。

上記のように投資家はどのような状況でも次の経済状況を予測しそれに賭けることで利益を上げることができる。

だが有権者はそれで良いのだろうか? 何故現金給付や紙幣印刷を行う政治家が支持されるのか、筆者には全く分からないのである。

• ガンドラック氏: 12才児よりも愚かな中央銀行の存在意義が分からない
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/18701

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

及川幸久動画:【いま国際金融市場の深層で起こっていること】

2022年03月20日 12時02分20秒 | 経済
当ブログは、数日前に「米国のロシア制裁は、米ドル基軸通貨体制を終わらせる」という記事をアップしました。
blog.goo.ne.jp/mdsdc568/e/454619d820d955351da17019d8eb55bb

そこで当方は、次のように述べました。すなわち、バイデン大統領の背後に控えるネオコン・グローバル巨大資本勢力は、米国傀儡ウクライナを自分たちの都合のいいように利用した挙句の果てに、自分たちの権力の究極的な基盤である米ドル基軸通貨体制それ自体をいまや崩壊の瀬戸際に追い込みつつある、と。

今回の及川動画は、おおむね上記と同趣旨の内容を、「経済は苦手」という初心者にでもよく聞けば分かるように語っています。そうして、「ドル離れ」の傾向が、国際金融資本の深層に流れていて、それが、今回のバイデンの、端的にいえば自分勝手な対露経済制裁強硬策によって、ヘタをすれば「奔流化」「顕在化」しかねないことが、説得力を持った形で訴えられています。

よろしかったら、ごらんください。

2022.3.19【米国】誰でもわかる❗️バイデンの対ロシア経済制裁ーもしかするとブーメランのように米国に返ってくる【及川幸久−BREAKING−】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

米国中央銀行Fedの利上げ政策は、株価暴落を招く

2022年03月18日 20時19分16秒 | 経済
「グローバルマクロ・リサーチ・インスティチュート」からの全面引用です。

大井幸子女史によれば、世界経済の動向の決定的要因は米国中央銀行Fedの金融政策です。世界は、ウクライナ戦争に振り回されているかのようですが、戦争と株価のデータを分析すれば、戦争が株価に与える影響は限定的なのです。

引用した当論考は、タイトルにある通り「米国中央銀行Fedの利上げ政策は、株価暴落を招く」と主張しています。当を得たものなのかどうか、当方には判断がつきかねますが、とても興味深く読み進めたのは確かです。

世界政治と同じく世界経済も動乱期を迎えたようです。


***

3月FOMC会合結果は利上げ開始、政策金利は年内に2%以上となり株価暴落へ
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/21514
2022年3月17日 GLOBALMACRORESEARCH

アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)は米国時間3月15日から16日にかけて金融政策決定会合であるFOMC会合を行い、コロナ後初の利上げを決定した。株式市場を崩壊させる「止められない利上げ」の始まりである。

ついに利上げ開始
今回の会合では元々0.50%の利上げも織り込まれていたが、ロシアのウクライナ侵攻を受けて市場はその可能性を除外していた。その織り込み通り、利上げ幅は通常通りの0.25%だったが、セントルイス連銀総裁ブラード氏だけは今回の会合で0.50%の利上げを主張して否決されている。

ブラード氏が0.50%利上げを主張した意味は小さくない。元々「インフレは一時的」でいずれ勝手に収まると根拠なく主張し続けていたパウエル議長に反論し、現在の利上げを主導したのがブラード氏らタカ派の連銀総裁たちだからである。

• パウエル議長に反旗を翻し始めた連銀総裁たち (2021/8/6)
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/14760

今後の利上げ速度はどうなってゆくだろうか。まずいつも通り発表された声明文を見てゆくが、やはり次のようにウクライナ情勢が言及されている。

ロシアによるウクライナ侵略は多大なる人的・経済的被害をもたらしている。アメリカ経済への影響は非常に不明瞭だが、侵略および関連する出来事は近くインフレに上昇圧力を与え、経済にとって重しとなりそうだ。

だがこの言及はあまり意味がない。投資家にとっての問題は、それでインフレを懸念し利上げが早まるのか、あるいは経済減速を懸念し利上げが緩やかになるのかである。だがそれについては書かれていない。Fedは言質を取らせないようにしているからである。

今後の利上げ見通し
今回の会合ではFOMCメンバーの今後の利上げ見通しをプロットしたドットプロットが発表されている。

こちらは声明文よりも具体的な手がかりを示してくれているが、前回12月に発表されたドットプロットではメンバーたちは年内に3回の利上げ(今回を含む)を見込んでいたのが、今回は年内に合計7回分ないし8回分となっており、Fedは前回から急激にタカ派になっている。8回分の利上げが行われると政策金利は2%になる

だがそれも驚きではないだろう。Fedが急にタカ派になった理由は、金融市場でFedがそうすると予め織り込まれていたからである。今後の利上げ見通しを織り込んで推移する2年物国債の金利は次のようになっている。



まさに2%になっている。つまり、Fedは今後の利上げをどうするかを自分で考えているのではなく、2年物国債の金利が2%になっているからそれに従ってこれから金利を2%にすると言っているのである。

これまで何度もパウエル議長の「インフレは一時的」を批判してきた債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏が次のように言っていたのを思い出したい。

• ガンドラック氏: 12才児よりも愚かな中央銀行の存在意義が分からない
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/18701

はっきり言ってFedが存在する意味が分からない。Fedは2年物国債の金利で代替可能なのではないか?

700人以上の博士号を持ったエコノミスト? 何というお金の無駄遣いだろう。ブルームバーグ端末で2年物国債を眺めていれば十分じゃないか。

しかしこうも2年物国債をなぞった結論しか出さないのでは、内部のエコノミストたちは普段そもそもどういう仕事をしているのかという話にはなる。それでも税金で高い給与は支払われる。有権者が文句を言わないからである。

パウエル議長は今回の会合でいつも通り利上げペースに決まった道筋がないと表明した。利上げペースは当然会合の日になってみなければ分からないだろう。その時の2年物国債の金利水準を見なければならないからである。しかし金利を眺めるだけのその仕事は12才児でも出来るのではなかろうか?

結論
ということで、一応フォローアップしてみたがFOMC会合に注目することにほとんど意味はないのである。今後の利上げ方針は市場の意向によって決まる。中央銀行は既に金利のコントロールを失っている。

あえて言えば、1月に発表された量的引き締めへの道筋について具体的なものが何も出なかったことは株式市場にはプラス材料だろうか。

• アメリカ、2018年の株価暴落を引き起こした量的引き締めを発表
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/19181

上記記事からの引用
「当時の株式市場は量的引き締めが開始されてから4ヶ月後の2018年1月末に一度下落し、そこから再上昇してから2018年終盤に大きく下落した。

だがこれから起こる今回2022年の暴落に比べれば当時の20%の下落などほとんど下落していないに等しいだろう。当時は結局Fedのパウエル議長が金融引き締めを撤回したから株価は戻ったのだが、今回は金融引き締めを撤回できない理由がある。インフレである。」


中央銀行が金利のコントロールを失っているのは、恐らくウクライナ危機の影響であり、ウクライナがなければブラード氏やメスター氏などタカ派のメンバーがもっと強く量的引き締め開始を主張しただろう。

だがどちらにしても金利は2%まで上がる。あるいはこれまで上がり続けている2年物国債の金利が今後も上がればFedもそれに従うだろうから、今年の利上げ幅は2%では済まない可能性はかなり高いのである。

筆者を含め多くの著名投資家は政策金利が1%前後に上がるところが株式市場の臨界点だろうと推測していた。だが今や2%利上げが既定路線となり、それが更に上がろうとしている。

• 1969年の米国で6%のインフレを抑えるためにどれだけの利上げが必要だったか
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/19818

株式市場の命運は既に尽きている。短期的にはジム・ロジャーズ氏の言うように動いているが、どうなるだろうか?
• ジム・ロジャーズ氏: ウクライナ後に株価が上昇すれば最後の売り時に
WWW.GLOBALMACRORESEARCH.ORG/JP/ARCHIVES/21416

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする