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よろこび、かなしみ、そして希望…エムズ・カレーのシェフを悼む

2010-05-10 00:21:14 | 日記・暮らしのあれこれ
ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしたでしょうか。

五月晴れのさわやかな風の中で、
私は久しぶりに新鮮な気分を味わえました。
前回記した気持ちの整理もできてきたみたいです。


京王線笹塚駅から甲州街道(国道20号)を渡った
十号通り商店街を入り、70~80メートル歩いたところに、
M'S CURRY (エムズ・カレー)という
行列になるカレー屋さんがありました。

カウンター10席のお店にはシェフが一人。
年齢不詳な感じなのですが、
いっていても40歳半ばといったところでしょうか。

まさかそのシェフが突然逝ってしまうなんて、
なかなか信じられませんでした。


初めて訪れた時、「いらっしゃいませ」とか「ありがとうございました」
という言葉はなく、シェフは黙々と注文のカレーをつくっていました。
その合間にコップの水があけばすぐに水を注ぎ、食べ終わったお皿を洗い、
カレーとセットになっているサラダを手際良く仕上げてゆく。

限られた条件の中で、一人で仕事をする為に計算されたお店のつくり。
そして創意工夫にあふれた道具。
寛いだ気分になるBGMも好きなCDをかけていました。

カレーはとびきり美味しかった。
私はトマト、オクラ、えのきなどが入った
スパイスがやわらかい、さらさらした野菜カレーが大好きでした。
ポークカレーを食べている人も多かった。ごろっとした角煮が入っていて
ほんのり八丁味噌を感じるカレー。おなかにガツンとくる野太いカレーでした。
ご飯はちょっと芯があってカレーにぴったりの加減に感動したものです。
添えるものも福神漬やらっきょではなく、ほんのりニンニク風味のキャベツの和え物。
サラダにはレタスやトマトなどの具材にトンブリがトッピングされていました。
ドレッシングが乳化して冷蔵してあるから固くなり、
瓶からなかなか出てこないことがよくあって
お客さんが瓶を逆さにして底をトントンたたいたり
振ったりしていた風景はおなじみでほほえましかった。

どこでも調達できそうな食材で、誰にも真似のできない美味しいものを、
1000円でお釣りが出る価格で提供する。

こういうお店があり、こういう素晴らしい仕事をする人がいるんだなあと
感心し、立派だと尊敬していたのです。
だから給料日だったり、なんとなく自分を励ましたい時に、行っていました。

けれどもそのカレーはもう食べられないのです。

3月下旬に訪れた時、奥様のコメントが書かれた貼り紙で、
3月7日の午後10時30分ごろ急逝されたことを知りました。

その後ブログやツイッターで検索した記事を読むと、
私よりもっともっと常連だった方々とのあたたかい交流があったようで
お客様との間にも彼なりの距離の取り方があったんだなと
しみじみ感じたのでした。

彼の作り出すカレーは彼にしかつくれない唯一無二のものでした。
そして彼の所作は忙しい中にもさりげない配慮がありました。
まだまだずっとこのカレーは食べられると思っていたのに…

人の一生はなんて儚いものなのかと、ぼんやりしている時期が続きました。

けれどもようやくその時期を超えて、
新たに一歩踏み出せそうな気持ちになってきました。
ここに記すまで時間がかかってしまったけれど、
儚いからこそ、生きている一瞬一瞬を大切にしなければね、と。

シェフ、
美味しいカレーをどうもありがとうございました。

彼への敬意と、感謝の気持ちををこめて。