ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

土着品種に期待!イスラエルワイン

2016-12-08 19:17:02 | ワイン&酒
先週、非常に興味深い国- イスラエル -のワインセミナー&試飲会が、「イスラエル大使館経済部」「イスラエル経済産業省」「イスラエル輸出協会」の主催により都内で開催されました。



イスラエルは地中海に面した中東の国で、首都はエルサレム。
イスラエルの北はレバノンです。
レバノンワインも近年は日本で市場を拡大し、ここでも何度も取り上げてきています。
地中海東部のこのエリアは、実は伝統あるワイン産地なんです。


セミナーでは、イスラエル初のマスター・オブ・ワインであるエラン・ピック氏と、イスラエルの古いブドウ品種の研究に携わるDr.ドローリー氏が講師を務めました。



エラン・ピックMWは、イスラエルのワイン産地と現在のワイン産業を紹介しました。


イスラエルの総面積は日本の四国ほどの大きさ(2.2万平方km)で、うちブドウ畑の面積は5500haです。
スペイン南部アンダルシア州のブドウ畑が5500ha、フランスのブルゴーニュ北部のシャブリが6800haですから、一国のブドウ栽培面積としては小さいですね。

小さいとはいえ、イスラエルは南北に長い国であり、標高差も大きく、非常にダイナミックな地形で、大きく3つのゾーンに分かれます。
また、土壌のタイプもさまざまです。

気候は、基本的には地中海性気候で、生育期は雨が少なく、夏は乾燥して温かく、冬は冷涼な気候です。

こうした多彩な土地から多彩なワインがつくられます。



北部から地中海沿岸にかけては標高が高く、冬がより寒く、有名なゴラン高原を中心に、ワインの銘醸地とされているエリアです。

南部は乾燥が厳しい砂漠地帯で、年間降水量は200ml以下。
ネゲブ砂漠は暑くて乾燥し、保水力のない貧しい黄土(レス)土壌の極限の地ですが、新しいワインリージョンとして注目されています。

南北の産地に挟まれた中間地帯は、こちらも乾燥した地域で、ワイン生産量は少ないです。



【イスラエルのワイン産地】 北から南へ(カッコ内はヘブライ語)

ガリリー地域  Galilee(Galil)
レバノンと隣接する最も北の産地で、標高も高い。
○ゴラン・ハイツ(ゴラン高原)※最も内陸で標高が高い
○アッパー・ガリリー
○ローワー・ガリリー

サマリア地域  Samaria(Shomron)
ガリリーの南で、やや地中海に近いエリア。
○マウント・カルメル
○ショムロン・ヒルズ

サムソン地域  Samson(Shimshon)
エルサレムよりも西側で、地中海に近いエリア。
○セントラル・コースタル・プレイン
○ジュディアン・ローランズ
○ジュディアン・フットヒルズ

ジュディアン・ヒルズ地域  Judean Hills(Harey Yehuda)
エルサレム周辺のエリア。
○エルサレム・ヒルズ
○グッチュ・エツィオン
○ヤチャー・フォレスト

ネゲブ地域  Negev(Hanegev)
南部のネゲブ砂漠エリア。
○ノーザン・ネゲブ
○セントラル・ネゲブ



今回は、6つのエリアのワインがエラン・ピックMWにより紹介され、テイスティングをしましたが、ブドウ品種は、ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、プティ・ヴェルド、シラー、カリニャンといった、フランス系ばかり。

イスラエルの土着ブドウのワインってないんでしょうか?

その疑問に答えてくれたのが、ドローリー博士でした。


ドローリー博士

イスラエルは非常に古いワインづくりの歴史がある国で、ダビデ王の時代(紀元前1000年頃)にはワインが飲まれており、それより以前の鉄器時代(紀元前1500年以降くらい?)の記述の中でも、ブドウとワインに関するものが存在していたそうです。

そんなわけで、イスラエルでは古代よりワインづくりが広く行なわれてきたわけですが、7世紀に入ると事情が一変します。
新たなイスラム勢力(ムスリム)の侵攻です。

ムスリムは宗教上の理由でワインづくりを圧迫し、ワイン用ブドウは消えることになりました。
その一方で、食用のブドウ栽培は認められ、食用ブドウの選抜は進みました。

そうした時代が長く続きましたが、1870年にイギリスのロートシルト男爵(現在の仏ボルドーの名門シャトーと関係の深い人物)が、イスラエルに新しいワイン産業のキッカケをもたらします。
フランスのワイン専門家が、イスラエルに現代のワイン用ブドウ品種を導入したのです。

よって、現在のイスラエルワインのブドウ品種は、赤も白も、フランスで植えられている品種が中心となりました。

セミナー後に開催された試飲会に22のワイナリーが出展していましたが、ブドウ品種を見ると、たしかに国際品種ばかり。
未輸入のものが大半でしたが、価格を尋ねると、ちょっとお高い。
現在は、ローカルなブドウ品種のワインがトレンドなのに、国際品種のワイン(しかも価格高め)では、競争力に欠けます。



そこで立ち上がったのが、イスラエルのワイン用土着ブドウを発掘するプロジェクトです。

イスラエルの伝統的土着ブドウ品種を発掘するだけでなく、現代に見合う高品質ワインを造ることができる品種であるかを見極める必要があります。

ドローリー博士らのチーム(バル=イラン大学 植物考古学研究室)は、過去5年にわたり、イスラエルの伝統を再建しようという努力を重ね、植物考古学的な発掘、採集も行なってきました。
その結果、DNAの抽出や形態的特徴づけなどから、いくつかの古い地場品種の可能性を引き出しました。

見つけた品種の中で、ワイン造りの可能性があると考えられたのは、
「Jandali」(ジャンダリ)、「Hamdani(Marawi)」(ハムダニ/マラウィ)という2つの白ブドウ品種です。

イスラエルには、食用(レーズンやオイル用)のブドウとして、「Dabuki」(ダブキ)という土着の白ブドウがあり、19世紀頃からはワイン用としても使われることがあるのだそうです(約半量)。

多くの遺跡で見つかったブドウの残骸のDNA抽出、配列決定(シークエンス)で比較すると、このDabukiが、残骸として見つかったブドウ(Jandali、Marawi)のシークエンスととても近いことがわかりました。

ということは、JandaliとMarawi(Hamdani)は、イスラエルの土着品種ワインたりえる?


試飲会では、このMarawiのワインを見つけることができました。


左端)Marawi 2014 Recanari Winery(Israel, Judean Hills)

2000年に設立したレカナッティ・ワイナリーがマラウィ100%でつくる白ワインです。
ほっこり系、滋味系の味わいで、ナチュラルなおいしさ。
ふわりとして、これは好きなタイプでした。

右端の「Recanati Gris de Marselan 2015」は、Marselan-マルセラン(グルナッシュとカベルネ・ソーヴィニヨンの交配、黒)のロゼ仕立て。しっとりとして、これまた美味。
マルセランはイスラエルの土着ブドウではなく、フランス南部周辺が多いようですが、ワインとしてポテンシャルがあるように思います。



この2つは同じワイナリーの赤ワインで、左が「Marselan Reserve 2013」、右が「Wild Carignan Reserve 2013」ですが、マルセランはコクがあり、カリニャンは非常にナチュラルな味わい。どちらも生産量限定ワインらしく、お値段は高め。でも、こういう選択も面白いかも。

※レカナッティ・ワイナリーの輸入元:ドリーム・スタジオ



Sphera Winey (Judean Hills)

白ワインに特化している、スフェラ・ワイナリーも印象的でした。
イスラエルの白ワインは、国際品種のシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランが大半ですが、ここでは、その2種だけでなく、ピノ・グリ50%+リースリング40%+セミヨン10%というブレンドや、リースリング100%といった白ワインもつくっています。
白ワイン好きにとっては、要チェックのワイナリーですが、日本未輸入です。



Tulip Winery (Upper Galilee / Judean Hills)

チューリップ・ワイナリーは、名前はカワイイですが、ワインの品質が良く、しかも安定しています。
品種は国際品種ですが、日本市場で活躍しそうなワイナリーだと思います。



白のブレンドワインは「White Tulip」、赤のブレンドは「Black Tuip」。
やっぱりかわいい(笑)

ワイナリーは、発達障害などを抱える成人の村にあるそうです。
このかわいい名前も、そうしたことが関係しているのかもしれません。
こちらも日本未輸入。



Lueria Winery (Upper Galilee)

ルエリア・ワイナリーは農家の家系で、畑の標高は840~890m。
土壌はモザイク状に混じり、冬は雪が降るそうです。

赤ワインもありましたが、白好きとしては、こちらの白ワインが気になりました。
左から、ブレンド白(ピノ・グリージョ90%+ゲヴュルツトラミネール40%)、ピノ・グリージョ100%、ゲヴュルツトラミネール100%。
ゲヴュルツは甘みが残るタイプで、これはおいしい。
こちらも価格はお高め。日本未輸入。



現在、イスラエルには70のワイナリーがあります。

イスラエルのワイン産業は、20世紀までは少数のワイナリーが独占的でした。
しかし、20世紀後半の1990年代になると、小さなワイナリーがどんどん出来、新しいスタイル、新しい栽培方法などを提唱し始めました。
これが、イスラエルワインにおける、品質本位のワインづくりのキッカケとなりました。

ワインメーカーの多くは海外で修行し、ワイン栽培&醸造の知識を習得し、イスラエルに持ち帰りました。
テロワールについてもより理解し、どんなテロワールでどんなワインを造ればいいか、わかるようになりました。

20年前、30年前は、イスラエルには、ほんの5人くらいしか知識あるワインメーカーはいませんでしたが、近年、特にこの10年で飛躍的に発展を遂げ、海外でもイスラエルワインが知られるようになってきています。


イスラエルワインのパイオニア「Yarden -ヤルデン」(ゴラン・ハイツ・ワイナリー)


前述したように、イスラエルのワインは、大半が国際品種からつくられています。
そして、価格はやや高め、ということから、あえて手を出しにくいように思います。

しかし、イスラエルならではの土着品種のワインが出てくると、これは非常に魅力的な存在になります。
土着品種のワインはまだまだ少ないですが、いくつかのワイナリーが古代品種のワインへの取り組みを始めました。
これからに期待をしたいと思います。

コメント
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