2000年初演のマダウ=ディアツによる伝統的で美しい「トスカ」、2005年初演の栗山民也による抽象舞台ながら中庸な表現の「蝶々夫人」とともに、東京新国立劇場レパートリー公演の「顔」となっている、鬼才アンドレアス・ホモキによる真っ白な「フィガロの結婚」である。2003年の初演時には、その真っ白な舞台とダンボールの引っ越し荷物、そして時の経過と共に傾いてゆく舞台が鮮烈な印象を残したものだが、14年の歳月が経つうちに鮮度も幾分か失われてきた。とりわけ真っ白で印象的だった舞台の汚れにはいささか興ざめする。同時に、このような主張の強い演出の場合には、再演にあたってはいかに再現されるかが重要と思われる。つまり再演出のスタンスの問題がある。今回はスタイリッシュな一本の筋が幾分か乱れて雑然とした舞台になったなという印象を持ったのは私だけであろうか。再現が劣化につながると舞台の価値自体を減ずるものになってしまう。実は今回のお目当ては演出ではなかった。2007年に聞き逃した研修所出身で今や世界に羽ばたく中村恵理のスザンナこそがお目当であった。流石この間の成長は著しく、貫禄さえ感じられる程の存在感には圧倒された。シタティーボを含めて実に良く歌い演じていたのには感心したが、同時にこの役には幾分声が重くなってきたかなという印象も持った。文句がなかったのはヤナ・クルコヴァのケルビーノ。こちらは揺らめく思春期の少年の心を見事歌と演技で表現した。ピエトロ・スパニョーリとアガ・ミコライの伯爵夫婦は常に安定していてレパートリー公演ならばこれで十分である。ちょっと期待外れだったのはいささか線が細く存在感に欠けたフィガロのアダム・バルカだった。まあこれは代役なので今後に期待というところか。このフィガロも、そろそろ新たなプロダクションで見てみたいものである。
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