白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(146)九月新派公演を見て

2016-10-04 15:50:58 | 観劇
「二代目喜多村祿郎 襲名披露 九月新派特別公演」を観て

新派には若き二枚目がいない 
少し前までは菅原健次(1999没)や安井昌二(2014没)がいた 
それもなくなって久しく しばらく歌舞伎の若手をゲストに入れてお茶を濁していた(その中に月乃助もいた)がいよいよどうしょうもなくなって月乃助の新派入りが決まり喜多村祿郎として襲名の運びとなった その襲名披露公演として演目に選んだのが昼の部は「深川年増」であり夜の部として「婦系図」の通し風の狂言であった
 
関西の客には松竹新喜劇の「文之助茶屋」としておなじみの狂言だが新派版はあんまり公演していないのではないか その成り立ちのいきさつから北条先生がご存命だったら関西での公演は許さなかったのではないかと推察される 
結論から言えば「深川年増」の三十助は彼のニンではなく彼が喜劇に向かないのを露呈した 八重子さんとのカラミもこれでは「文之助茶屋」の渋谷天外の方がよっぽどうまく見えてしまう 実際はっきり言って面白くなかった 三十助、伊之助のコンビは昔からなじみの猿弥が相手だったがこれも弾まない(この猿弥の役は松竹新喜劇バージョンでは寛美がやる役だ)だいたい嫁が英太郎ではビジユアル的に成立しない 医者も只野では無理だ 巡業の「文之助茶屋」では真田実がやったが 彼も最初は悩んでいたが「初演は五郎八さん(曾我廼家)だったよ」と教えたらとたんに面白くなった 
ラストの去りはいつもの人力車ではなく船で去るところが唯一襲名披露公演らしく思えた

「振袖纏」は芳次郎の松也が良く 狂言にあったこういう若手のゲストを入れてやったら無理に新派入りをさせなくても公演が出来るということの見本を見せつけた これも相手役の瀬戸真純では余りにも弱すぎる(名前的にも演技的にも) 昭和27年の南座では芳次郎は花柳章太郎 おきくには水谷八重子(初代)火事場が最大の見せ場にならないと成立しない芝居だがあまりにもお粗末すぎる 現在の技術ではもう少しやりようがあったろうに 
番頭の竹藏が田口守でこれはいい役になった 田口さんは夜の部の「めの惣」でもいい芝居を見せた 
今の新派にはこういうバイプレイヤーがあまりにも少なすぎる

さて夜の部はこれぞ新派の「婦系図」だ

湯島通れば思い出す
お蔦主税の心意気
知るや白梅 玉垣に
のこる二人の影法師

忘れられよか 筒井筒
岸の柳の 縁結び
固い契りを 義理ゆえに
水に流すも江戸育ち

蒼い瓦斯灯 境内を
出れば本郷 切り通し
あかぬ別れの 中堂に
鐘は墨絵の 上野山

この歌が自然と口に出るくらいタイトルは超有名だが 内容はなるほどこういう話だったのか

岩谷時子が水谷八重子の為に作った「婦系図」

「奥さん、奥さんなんて 大きな声をお召でないよ めのさん
半纏を着た奥様なんて江戸にはおりません ね? あなた」
お風呂に行くから 留守番して下さいな あなた
世帯を持てて 嬉しいわ
日陰者だよって 人は言うけど
あなたがいれば あなたがいれば それでいい
ママゴトみたいな 幸せが やっと私に 来たのです

「いい月ねえ ちょっと ごらんなさいな
 あなた何だかこの二、三日 ふさぎこんでばかりいらっしゃる」
二人で湯島へ 出かけるのは初めてね あなた
花見が出来て うれしいわ 例え内緒でも夫婦ですもの
苦労するのが 苦労するのが 楽しみよ
別れておくれと いうことは 死ねというのと 同じこと

「お蔦は患っております 長いことはないかも知れません
あなたから 便りのある筈がございませんが 塾をお開きのことは新聞で知りました
ほら こうして切り抜きを胸にしっかり抱いております」
遭いたさ見たさで 何年経ったでしょうか あなた
夢でもいいわ 遭いたいわ 長の別れです 私もう だめ
義理を立てれば 義理を立てれば 遭えません
月夜に白梅 散るように 死んでいくのも 一人旅

原作は別々に死ぬのだがこのラストは敢えて主税の胸の中で死んでゆく お蔦を観て
昔 鶴田の「王将」の時 制作の俊藤さんが小春は三吉の胸の中で死なんとあかんと北条先生に書き直させたことを思い出した

この「婦系図」は2代目喜多村祿郎は月之助時代に三越で春猿と演じているので安心できる

心配は脇役陣で 
英さんもそうだが総じて新派にはベテランと称する役者が名前的にも弱すぎる
芳次郎の実父役の立松昭二 深川年増の義父役の佐堂克美 婦系図の酒井先生役の柳田豊
いずれも芝居のキーパーソンだが弱すぎて芝居にならない このあたりの役もゲストを入れないと成り立たなくなってしまった
ベテランだけじゃなく中堅の役者(巡業などでご一緒した役者さんが沢山いるが)がよっぽどがんばらないとと芝居が成立しない危機的な状況にきている 
その中では田口守 伊藤みどりが安心できる芝居を見せた

観た感想は総じて襲名を新派全員で祝福している感じが見ることができない
歌舞伎研修生あがりのどこの馬の骨とも判らぬ男に新派の名跡なぞ継がしてたまるかという感じがありありと見える
くやしかったら頑張ることだ 新派はいつまでも八重子、久里子に頼っているわけにはいかない
幸か不幸か二人には次代の子供がいない 次のスターを作っていかなければ新派には明日がない 



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