白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(245)父親恋し「母恋吹雪」

2017-06-26 09:52:19 | うた物語
父親恋し「母恋吹雪」

 歌手の三門忠司(昭和19年生まれ)は父親を知らない 
父親は彼を母親のお腹に残して出征して戦死したからである
苦労の末 彼を育て 唯一の楽しみは幼い彼を連れて年に一度の梅田コマひばり公演を見に行くことで 
その日は「明色アストリンゼン」で化粧したらしい
というのが彼の歌の間での定番の喋りだった 朴訥な彼の喋りで これが意外と受けた

さて彼の中座での芝居にレギュラーとして出ていたTという役者も同じ理由で父親を知らない 
同じ境遇だと判ってからは三門とも仲良くなってよく共演した
彼はコツコツ努力して歌手となった三門とは違いいいかげんな役者人生を過ごした 
さる大女優のヒモを辞めてから母親(看護婦)が貰う遺族軍人恩給を当てに飲み歩いていた 僕も一緒によく飲み歩いた
 
そんな二人が好んで歌う歌がある 三橋美智也の「母恋吹雪」だ

母恋吹雪    作詞 矢野亮
 
酔ってくだまく 父(とと)さの声を
逃げて飛びだしゃ 吹雪の夜道
つらい気持ちは 判っちゃいるが
オイラばかりに ああ 何故 当たる

こんな時には 母(かか)さが恋し
なんでオイラを 残して死んだ
呼んで見たって ちぎれて消える
星のかけらも ああ 見えぬ空

徳利かこった 凍れる指に
岩手おろしが じんじとしみる
たった二人の 親子であれば
涙ぬぐって ああ もどる道


現在ではDVという言葉で片づけられる親の暴力 そこには暴力を振るう親の気持ちを汲もうという気などサラサラなく 
「たった二人の親子であれば」と我慢する子供の気持ちも汲むこともない

Tはこれを歌っては必ず泣くのである 特に三番はダメだった
Tは親の顔を写真でしか知らない 父親に叱られたい 酔っ払いでもいいからクダをまかれたい いやな親でも父親だ そう納得してしばれる手で徳利を持って帰る子供の気持ちが泣かせるのである
そんな彼も「たった二人の親子」の母親に孝行することもなく 酒まみれで死んだ
代表作は鶴田浩二主演の「花の生涯」で井伊大老を切った有村次左衛門だ
彼はこんなキラリとひかる脇役を好んで演じた

ところで 三門忠司には「親父のハガキ」という歌がある 
こんな歌聞いて共感する人なんかもういないと思うが こんな歌詞だ

むかし親父が 戦地で出した
金じゃ買えない このハガキ
幼いころの 姉さん宛の
「ゲンキデ アソンデ オリマスカ」
我が子を思う 親心
俺は初めて 読んだのさ

辛いことには 何にも触れず
胸に収めた 心意気
仕舞いに一つ 案じたことは
「カゼナド ヒイテハ イケマセン」
我が子を思う 親心
俺と飲もうぜ 供え酒

これを歌う三門の気持ちは手に取るように判る

僕は長らく抑留されてやっと帰って来た父親の子供として戦後生まれた
いわゆる戦後ベビーブームの真っ最中の子供だ
出征前に結婚した両親 僕も彼らと同じ運命を送る条件は充分あった





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1 コメント

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Unknown (イワタマン)
2020-03-24 08:48:33
はじめまして おはようございます
失礼致します

私、49歳の凡人です
三門忠司さんの大大ファンです  この ブログを観

お二人に詞画を描きたくて描きたくて

三門忠司さんのなかで 親父のハガキが一番好きです

送っても 可能なら  場所 教えて頂けたら幸いです

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