白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(272)「いつも煙が目にしみる」を見て

2017-10-23 07:56:31 | 観劇

「いつも煙が目にしみる」

菱田が2005年「パウダァ~おしろい~」で読売文学賞(戯曲シナリオ部門)を取った時関西の演劇界はみんな無視したのだ
この賞は古くは三好十郎から新しいところではケラリーノ・サンドロヴィッチまでその受賞者の名前を見ると現代の演劇地図が見事に出来上がるという そうそうたるメンバーが並ぶ 詳しく書くと三好十郎 福田恒存 田中千佳夫 三島由紀夫 中村光男 北条秀司 飯沢匡 矢代静一 阿部公房 秋元松代 木下順二 井上ひさし 清水邦夫 山崎正和 別役実 堤春恵 福田善之 竹内銃一郎 岩松了 マキノノゾミ 松田正隆 永井愛 宮藤官九郎 坂手洋二 唐十郎 そして彼菱田 その後も野田秀樹 三谷幸喜 小山薫堂 鴻上尚史 前川知大 荒井晴彦などが名前を連ねる

もっと大騒ぎをしてもいい  
唯一関西劇界で歓迎したのは紅萬子だった
彼が桂三枝の作った演劇ユニットNWATORIの為に書いた芝居を何故か紅が見て知り合い その第一声が「あんた、書く力は凄いけど演出は下手や やめとき」であった
その後ヘップホールでの第9回上岡演劇祭(1999)「グランドロマン」で脚本賞を取った時もその審査員だった(?)し 近松賞を受賞した「いつも煙が目にしみる」の台本作りにも協力し(結局上演出来なかった)
読売文学賞受賞第一作として自らの劇団浪花人情紙風船団公演としてワッハホールで「ええお湯だっせ」を公演 その演出は僕吉村だった
(昭和14年新興芸能の芳本の芸人引き抜き事件がテーマ 僕のブログ引き抜き(序)~(6)参照)
翌年同じくワッハホールで「負けてもイギョラ」を公演 これも演出は僕
(昭和32年扇町プールで行われた力道山VSルー・テーズ戦の三万人集めたプロレス興行の裏話 在日朝鮮人問題がテーマ)
僕は演出を決める前にフェスティバルゲートの小さいスペースでやっていた彼の芝居を何本か見ていて(妖怪と言われた保守政党の親玉と女マッサージの話とか緊縛絵師の一生ものとか)その「毒」に魅せられたのだった 

その大賞の賞金300万円を狙って2001年「いつも煙が目にしみる」という上演不可能な芝居で第一回近松門左衛門賞優秀賞を取った 優秀賞は50万だった
彼の作品を強く推してくれた審査員の宮田慶子の意見を聞き兵庫県立芸術劇場こけら落とし公演用に 書き加えての「パウダァ」での受賞に繋がる この作品は東京紀伊国屋ホールでも上演された

「パウダァ」記録
 作・菱田信也 演出・宮田慶子
出演 小市慢太郎 いしのようこ 宇口得冶 片岡冨枝 弘中麻紀 内田稔
2005年12月6日~11日 兵庫県立芸術文化センター中ホール
2005年12月14日~18日 紀伊国屋ホール 

 
「パウダァ~おしろい~」選評 井上ひさし
 祖父にカストリ雑誌の探訪記者を 父に政治部記者を持つ社会部記者が神戸市郊外の被災者用仮設住宅を取材訪問する 取材の相手は「震災離婚」した女性で彼女との取材の一部始終が劇の<現在>である 大地震は社会に重大な物的打撃を与えたが 人間の精神にさらに深刻な影響を及ぼしたはず 若い記者はその悲劇を突き止めようとする
<現在>はやがて思いがけない方向へ進展してゆくが この<現在>に鋭く侵入してくる4つの長いモノローグによる<過去>が見事だ 4人とも祖父が取材した女たち(パンパンの姉御、新興宗教の女教祖、祇園あがりの芸者、ストリップ劇場の小屋主)それぞれの台詞は流麗 内容は豊か しかも写実に徹しているので滑稽かつ深く知的な滋養に満ちている 観客に飽きさせないように長い長い台詞を書くのは昨今では「冒険」の一つだが作者はその冒険に成功
「困った時には女の力に頼れ」というのが劇の主題だがそれは<現在>と<過去>とでよく出ているし「災難は新生の始まりかも知れない」というもう一つの主題には胸を衝かれた 震災について書かれた文学のうちで最良の一つである
       (2006年2月1日 読売新聞朝刊掲載)

 マリオの女代議士もふえて判りやすくなった 
現在のシーンは折角映像が使えるなら仮設住宅ということが判る映像 
もしくは壊れた神戸の街の映像を使ってみたら判りやすいのでは・・・過去は戦後の映像でもいいかも
とにかく難しい芝居を判りやすく見せることが演出だ

見やすいいい小屋でした 100の客席もいい

    (10月20日 三宮シアター・エーツーにて観劇)
 


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1 コメント

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ありがとうございました! (菱田信也)
2017-10-29 16:17:37
吉村先生、御来場下さり本当にありがとうございました。

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