まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

事業譲渡と契約上の地位の移転

2012-03-29 20:17:20 | 商事法務

 事業譲渡(旧商法=営業譲渡)については、会社法467条以下に規定されていますね。私は、事業譲渡について一番重要なことは、その事業を行なっている人が転籍(あるいは出向等)で譲渡先で既存の事業に従事する、即ち「人が移らないと、事業譲渡はできない」と考えています。ところが会社法の発想は、財産(資産マイナス負債。負債は、買掛金や資産購入債務などの負債ですが、承継せずゼロのときもある。)等の譲渡と捉えています。例えば機械・装置だけを譲渡しても、それは資産の譲渡であって事業を譲渡にはなりませんね。勿論、会社法では人の移転のことについては書けないことは分かりますけどね。

 

 

○ 事業譲渡とは何かについて、判例や学者がいろいろな見解が述べています。大きく分けて3つの見解があります。

 

 1) 第1説(最判(大法廷)S.40.9.22民集19.6.1900頁 田中・前田等):事業譲渡とは、①一定の営業目的のために組織化され有機的一体として機能する財産(得意先関係等  の経済的価値のある事実関係を含む)が譲渡され、これによって、②譲渡会社がそれまで当該財産によって営んでいた営業的活動を譲受人に受け継がせ、③譲渡会社がそれに応じて当然に競業避止義務を負う結果を伴うものをいう。

 

2) 2説(上記判例の少数意見 松田 北沢等):事業譲渡とは、上記の①でもって足り、②事業活動の承継と③競業避止義務は、要件ではないとする説。

 

3) 3説(上記1)と2)の折衷説 今井・竹内等):事業譲渡とは、基本的には上記第2説であるが、重要財産だけの譲渡は単なる事業用財産の譲渡であり、事業譲渡ではないとする説。

 

 

○ 私に言わせれば、判例・学説はいずれも「ピンボケ」です。「財産の譲渡」に視点を置いています。世の中には、財産の譲渡が無い事業譲渡はいくらでもあるのです。また、第2説・第3説では、②営業的活動を譲受人が承継することを要件としないとしています。これまたピンボケです。特殊の例外を除いて、譲渡人は事業を購入するのです。資産の時価のみでなく「のれん代」も載せて買うのです。目的は事業を行なうためです。財産の譲渡を必須の要件としていますが、金の無い譲受人は、譲渡人から財産を賃借(オペレーティングリース等)することも可能なのです。また財産がなくても契約を移転させれば事業が継続する場合もあるのです。仮に資産譲渡があっても、譲渡人が継続的に使用する機械・装置等を賃貸しその賃料(償却費を超えた部分が利益)を得ることなども可能なのです。

 

また、得意先関係等の事実関係は、人が移るから継続するということが多いのです。譲渡人が取引先に譲渡したから譲受人を宜しくと言っても、今までの人と人との関係を継続しないと(大企業ならまだしも、特に老舗や田舎では)事業が尻すぼみになります。それでは事業を買う価値が大きく減退します。競業避止義務は、当事者の契約で排除することも可能です。

 

 

○ 人の移転の件に触れずに、事業譲渡を分解すれば、どのようになるでしょうか、それは、「権利、義務、資産、負債」の譲渡なのです。その中で事業譲渡に必須の要素は、「権利・義務の譲渡」であって、資産・負債の譲渡は必須ではないのです。それなのに会社法の規定では、財産(資産・負債)の譲渡という発想をしているのが間違いなのです。即ち、資産の譲渡、例えば機械の譲渡=機械の所有権・リース権の譲渡であり、負債は義務(債務)引受なのです。従い、「事業譲渡とは、一定の事業(営業)目的のために有機的一体として機能する権利・義務の集合体(人を基礎とした得意先関係・生産・サービス活動等の価値創造機能のある関係を含む)の譲渡」であるとするのが正しいのです。

 

 

○ 事業譲渡の対価は、単純に言えば「譲渡資産マイナス譲渡負債プラスのれん代」です。のれん代については、従来の日本流の考え方では、その事業が生み出す収益力とその持続期間を考慮して決める例が多いと思います。例えば、純利益の5年分をのれん代と考えるという場合等ですね。

 

 

 

 事業譲渡の基本は「集団的な権利・義務の移転+人の移転」なのです。権利と義務によって成り立っているのは契約ですね。では、契約あるいは一連の契約上の地位の移転・承継と事業譲渡とはどういう関係で捉えるべきなのでしょうか。<o:p></o:p>

 

 事業譲渡:譲受人が事業(権利義務)を承継+事業に従事している人も移動。<o:p></o:p>

 

 契約上の地位移転:契約(権利義務)を譲受人に移転。しかし人は移動しない。<o:p></o:p>

 

上記が私の捉え方です。移転する契約が、純利益を生んでいるなら、契約譲渡の対価をとればいいのです。それが「のれん代」です。

 

 契約上の地位移転では、人の移動が無いと言いましたが、以下のような例もあります。商社が関与する場合、契約だけに関与してファンクションがない場合があります。取引を作ったから、いきさつ上とかの理由で中に入っている例ですね。

 

 契約当事者A社―無機能商社―実際業務を行なっているB社(人が事業に従事)

 

この例などは、上記3者で契約を結んで、無機能商社の地位をB者が承継すればいいのですね。この場合は人の移動が発生しません。

 

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 ○ 事業・ビジネスというものは、資産(=ストック。賃借でもできる)を生かしてフロー(キャッシュフロー等とか人が毎日汗水流して働くとかの意味も含めてフロー)で動いているのだという基本認識が、裁判官・学者等には無いのです。

120325

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韓国未上場企業の株式取得

2012-03-18 18:37:29 | 株式関連

 

 最近韓国に進出する日本企業が増えています。電気代は安いし、労務費も日本と比べて安い、法人税も安い、ウォンも安い、欧米とFTAも結んでいる。日本の六重苦?と比べれば、有利な点が多いので注目を浴びています。ということで、今回は、韓国の中堅未上場企業の株式取得の話ですが、新株発行の取得では無く発行済株式の取得の話をしましょう。新株発行の取得も大体同じような手続きですけどね。<o:p></o:p>

 

詳しくは、大韓貿易投資振興公社(Kotra)の日本地域本部が、東京丸の内の新国際ビルにありますので、そこに行けば、いろんな資料ももらえて説明も受けられると思います。<o:p></o:p>

 

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 韓国企業の株式取得は、一般的に自由化されています(一部公共事業の企業と通信事業者などを除く)。従い当事者間で自由に売買できますが、通貨危機の教訓もあるのでしょう、外国為替取引の規制があり登録等の手続きが必要です。上場株は少し違った規制ですので、以下の事は上場株には適用されません。<o:p></o:p>

 

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 まず最初は、外国為替公認銀行で対内(対韓国)直接投資報告が必要です。この報告は、当事者間で株式譲渡の契約締結後30日以内に買主が行います。これは外国投資企業登録の証明書の取得に必要です。これには以下の書類が必要です。 

a) Declaration of the stock transfer and capital reduction (添付1)

b) Foreign-invested company registration application form (添付2)

c) 株式譲渡契約書(韓国語への翻訳付き)

d) 上記に加え、普通は、韓国内で手続きをお願いする必要がありますので、そのための委任状

e) 当事者を証明する書類(登記簿謄本―履歴事項全部証明書+印鑑証明書(韓国も印鑑の国ですね)<o:p></o:p>

 

 The Korea Securities Depository

韓国の場合は、一般的には預託機関というか振替決済機関を利用します。

a) 外国為替公認銀行が登録証明書を発行してくれますので、それが必要です。

b) これにも委任状が必要です。

c) 株式発行会社が、株主変更の書面を提示します。

d) 株式譲渡契約書(韓国語への翻訳付き)

e) 当事者を証明する書類(登記簿謄本―履歴事項全部証明書+印鑑証明書

 上記により、振替決済機関に、株式取得者の名義が登録されます。<o:p></o:p>

 

 

○ その他

 日本でも昔ありましたが、0.5%の有価証券取引税を、株式の発行会社の所在地を管轄する税務署に納税しなければいけませんので、注意が必要です。これには、株式譲渡取引の報告書、株式譲渡契約書の写し(翻訳必要)、更に上記と同様に、履歴事項全部証明書と印鑑証明書が必要です。<o:p></o:p>

 

「declaration_of_the_stock_transfer_and_capital_reductionno1.rtf」をダウンロード

「foreigninvested_company_registration_application_form_no2.doc」をダウンロード

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計算書類等はどこまで正確か?

2012-03-13 22:46:11 | 企業一般

 

○ 会社は、決算期毎に計算書類、事業報告、及び附属明細書を作成して、監査役の監査(監査役会・会計監査人の監査)を受け、計算書類と事業報告は定時株主総会に提出して、事業報告は報告、計算書類(BS, PL,株主資本等変動計算書と個別注記表)は総会承認を受けるのが原則ですね。但し、会計監査人・監査役会設置会社で、計算書類について無限定適正意見&これを不相当とする監査役会の意見が無いときは、総会承認は不要となります。総会の承認は、「計算が正当であることを」承認するものであるという学者がいますが、計算書類だけ見せられて、正当かどうかなどを、株主がどうして判断できるのですか?」不思議な見解ですね。<o:p></o:p>

 

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○ 会社法432条では「適時に、正確な会計帳簿を作成」しなさいと規定しており、会社計算規則でその内容を定めています。また、金融商品取引法の「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」では、BS,PL,株主資本等変動計算書及びキャッシュフロー計算書等は、この規則に定めていないことは、「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従い作成」するとしています。<o:p></o:p>

 

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 計算書類・財務諸表の数字は、コンピュータから出てきた数字を自動的に転記して作成されているものではありません。またコンピュータの数字も間違っているものもあります。処理をしていないとかインプットを忘れている場合などですね。例えば、経理処理をグループのアカウンティング会社に任せている。子会社はオフィスを転居して新オフィスに入っている。しかし原状回復しているのに、旧オフィスの建物附属設備などの除却をしていない。要するに、関係者間の連携と処理をきちんとしていない場合も、いろいろあるということですね。<o:p></o:p>

 

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 また減損処理は判断が入ります判断が入ると言うことは、数字を操作できるといことです。「子会社株式等の時価が取得原価等に比べて50%以上減損しても、きちっとした事業計画もあるとか、回復する見込みがある」と判断すれば減損しないこともあります。<o:p></o:p>

 

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 また時価会計ですから、「時価」についても判断が入ります。有価証券報告書には、少し詳しく記載していますが、総額だけの表示ですね。では中身をどう計算したか等は分からないわけです。また、時価の把握の困難の金融商品等もあります。投資顧問会社の言いなりになって時価評価していると思ったら、実は殆ど損失で消えていたということもあるかもしれません。<o:p></o:p>

 

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 資産除去債務の金額など、勿論外部からの見積もり等を参考にするかもしれませんが、いつ資産を除去するかの計画・実現時期も不定のものの除去債務の額等正確に算出できないですよね。<o:p></o:p>

 

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 保証債務の金額も、きちんと把握していない場合も多いのではないでしょうか。特に海外との取引で、子会社の仕入債務を保証しているが、保証の根拠の条項が、膨大な基本契約の中に記載されていたりする場合ですね。契約締結時には、法務部が読んで連帯保証条項があることを認識していますが、法務部は契約締結前のチェック段階ですから、またそういった情報を有価証券報告書に記載しないといけないということも知らない法務部職員も多いし、財務あるいは有価証券報告書作成担当者との連携が無いのですね。また報告書担当者が、そんな契約書条項など見るはずもありません。子会社の仕入れ債務を自社が保証しているなど考えてもみないわけですね。要するに、知らないで記載しないこともあるのです。毎期・毎中間期ごとに関連部署に、現在の保証金額残高等を問い合わせて集計しますが、当然集計から漏れている訳ですね。<o:p></o:p>

 

 

 従い、計算書類・財務諸表については、正確・公正妥当という言葉をよく見ますが、まあ、実態は、最初に大体を入れて「大体正確」とか「一概に不当とまでは言えない」レベルぐらいではないしょうか?

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譲渡制限株式の譲渡手続きについての疑問

2012-03-03 11:40:40 | 商事法務

 

 譲渡制限株式の制度というのは変な制度ですね。譲渡を制限するかは定款に記載します。定款やその変更などは株主総会等で決めますね。ですから譲渡制限するか否かは、最終的には株主が決めるわけですね。それなのに、譲渡承認の請求は、会社の取締役会や代表取締役に求めます(取締役会設置会社の場合)。自分たちでルールを決めておきながら、自分たちで選任した取締役の会議等に承認を求めるというのは、理屈としてはおかしいですね。でも、まあ発起人や他株主に頼まれて少数株主になったとか、お金が必要になったとか事情が変わってきますので、時期が立てば株式を売りたいという事情も出てきます。非上場企業の譲渡制限株式の場合は、市場・相場・時価があるわけでもないので簡単には売却できませんけど。その会社の取引先とか、主要株主等に頼まざるを得ないわけですね。<o:p></o:p>

 

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 株式の売買価格は時価というのが常識だと思っていたのですが、最高裁は元本保証の株式買取を認めていますね(2010.7.18のブログご参照)。最高裁も結構でたらめですね。評価額1万円のものを、5年前の払込金額が5万円なので5万円で買うべし、「事業再編の効果による企業価値の増加も期待」とか「設立から5年が経過しているにすぎないことからすれば、払込金額である5万円を基準とすることには、一般的にみて相応の合理性がないわけではなく」などという著しいこじつけ論理を展開しています。まあ、多分払込のときに、頼まれて将来元本+金利ぐらいで買い取るとかの裏約束があったのでしょう。でも、元本保証の約束があった等という根拠が表に出せなくて、こんなこと言っているのでしょうか? 昔、特金・ファントラで証券会社の裏約束が世間を賑わし糾弾された事件がありました。今回のオリンパス事件も、最初はこういった類いかも知れません。後で梯子をはずされたんでしょうね。<o:p></o:p>

 

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 だいぶ話しがそれました。譲渡制限株式の話しです。譲渡制限株式の譲渡承認の決定は、取締役会非設置会社の場合は株主総会決議ですね。株主総会等で承認された定款ですからその意味では理屈にかなっています。取締役会設置会社の場合は、取締役会の承認決議です。また定款で代表取締役の承認等に変更することが可能になりました(法139条)。今回はこれらの会社法の規定についての疑問です。<o:p></o:p>

 

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○ 話しがややこしくなるので、取締役会設置会社で、定款で特則を定めていない会社が、取締役会で譲渡承認をしない場合を前提として話します。譲渡承認請求しても、承認されないときは、①会社自身で買い取るか、②別の買取人を会社が指定することが必要です。①は特定株主からの自社株式取得なので、請求者に議決権を与えない株主総会の特別決議で決定しますが、財源規制(155条②&461条①)が働きますので、分配可能剰余金が無ければ、総会を開けないですね。②の買取人の指定は取締役会の決議で決めれば良いですが、事前に買取人に事情を話して、買取の準備をしておかないといけません。ですから主要株主とか創業者とか緊密な取引先等に頼むことになりますね。分配可能剰余金も無し、指定買取人を見つけられないときは、会社としてはもうどうしようも無いですね。みなし承認がなされて当初の譲受人に譲渡出来ます。

 

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○ 上記①で、総会を開催して承認決議を取る場合ですが、譲渡承認請求されれば会社は2週間以内に承認・不承認の通知をしなければなりません。2週間ぎりぎりでやはり不承認として、また買取人も見つからないので総会を開催する場合は、まず基準日を定めて基準日の2週間前までに基準日公告をしないといけません。公告もすぐに決めてすぐに出来ないですね。1週間ぐらいは前にアレンジが必要です。(まあ、124条は「基準日を定めたときは公告」と言っていますので、別に定めなければ公告などしなくてよいと考えても良いかもしれません。所詮譲渡制限会社ですから、株主は把握しています。譲渡制限会社に取っては、意味の無いどころか支障のある制度ですね。実際はあまり守られていませんけどね)。基準日の翌日ぐらいに総会招集通知を出しますが、これも総会の2週間前までに出さないといけません。公告に1週間の準備+2週間+2週間で5週間ぐらいかかります。不承認の通知から40日以内に買取通知を出さないと、当初の譲渡が承認されたとみなされますので結構ぎりぎりで忙しいです。<o:p></o:p>

 

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 譲渡等承認請求者は、譲渡承認請求をするときに、承認請求する株式数を定めなければなりません(138 条)。一方、譲渡承認株主総会では、買取対象株式数を決めなければなりません(140)。従い、100株譲渡したいのに、1株だけ買いますということが起こりえます。おかしいですね。こんな規定は。<o:p></o:p>

 

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 総会で決議するのは、自社株を買い取るかどうかです。その価格は、譲渡請求者と決める前です。即ち、どれだけ分配可能剰余金が必要か分からないのです。分配可能剰余金の金額は請求者以外の株主の利益に多きな影響を与えます。買取価格は、その後会社と請求者との協議により定めます。勿論、協議が整わなければ裁判所に売買価格の決定を申し立てますけれどもね。要するに売買価格が分からなければ承認するかどうかの判断が出来ない株主もいるかもしれません。この辺の事は会社法には規定していません。

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 譲渡制限株式の譲渡手続きの制度は、不完全な制度ということですね。

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