ことばと学びと学校図書館etc.をめぐる足立正治の気まぐれなブログ

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さらに、文字・活字文化振興法案について考える

2005年07月17日 | メディア
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7月16日付朝日新聞朝刊の報道は、相変わらず法案の本来の目的から読者の目をそらすものだ。

教職員の資質向上や学校図書館の充実を通じて「言語力」の向上を目指す「文字・活字文化振興法案」が、15日の衆院本会議で全会一致で可決され、参院に送られた。今国会で成立する見通し。

法案に目を通すかぎり、「国民が読書に親しみやすい環境づくりを進めることなどを目的とした・・・」とする読売の報道が比較的妥当といえないだろうか。

それにしても、2001年12月に「子どもの読書活動推進に関する法律」が成立し、2002年8月には「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」が閣議決定されなど、かねてからの「朝の読書」の普及やブックスタートの推進などとあいまって、読書活動推進の機運と成果が高まりつつある現在、なぜ、ここで新たな法案が必要なのか。バブルの崩壊以後危機的状況にある出版業界の保護が主たる目的であると考えるのが妥当であろう。出版業界が活性化すれば、書店や文筆で生計を立てている人たちに利することになるし、読書活動の推進や言語力の育成も容易になり、その限りにおいては異論をさしはさむ余地はない。しかし、その一方で業界「保護」という形で活性化を図るのが妥当かという問題もあり、何よりも法案が提出された本来の目的のために教育界や学校図書館を利用してほしくはないとも思う。

法案とともに公表されている施策案を見ると、「再販制維持」や「版面権の創設」が盛り込まれており、この法案に対する疑義や批判の多くは、この部分に向けられている。再販制度とは、公正かつ健全な経済活動と逆行する特例を維持してまで守らなければならないものだろうか。(1996年9月30日付けで日本書籍出版協会、日本雑誌協会の見解が公表されている。「論点公開」に対する意見 出版物再販制度の果たす役割)また、これまで楽譜などに認められてきた「版面権」をすべての出版物に適用することは、公正な著作権の一部といえるのか。このような形での業界保護は、これからの情報社会における私たちの自由な情報活用行動を阻害することにならないのか。もっとよく議論し吟味する必要があるだろう。(郵政法案の陰に隠れて、あっという間に全会一致で衆議院文部科学委員会と本会議を一日で通過したということは、いかに、まともな議論がなされなかったかということを物語っている。)それにしても、法案作成の母体となった活字文化議員連盟の前身である「活字文化議員懇談会」のアピールなどを見ると、この法案の真の目的は、やはりそこにあったのか、と邪推(?)してしまう。

法案にいうように、人類の智恵と知識の継承、豊かな人間性の涵養、および民主主義の発展のために文字・活字文化の振興が不可欠であることはいうまでもない。しかし、それは、現在利用可能な多様なメディアの共存を図りながら、文字・活字文化の新たなあり方を模索していくことによって実現していくべきものであろう。法律まで作って、ことさら文字・活字の重要性を強調することは、むやみに活字をありがたがり、本に権威を持たせる風潮を復活・助長することにならないか。

私たちは、また、エコロジーの観点から紙をベースにした印刷文化を見直すことも必要だろう。紙の浪費が森林破壊の原因になっていることにも目を向けて、出版部数の増加を至上とする考え方を変えなければならない。日本では、現在1日に約200点の新刊本が出版され、書店に搬入された新刊本のうち約40%は返本され(2000年の統計をもとに試算すると1日約150万冊)、そのうち廃棄(裁断処理)されるものも相当数(1日約50万冊とも聞く)に昇るという。その無駄な運送に伴う環境負荷も軽視すべきではない。再生紙の利用はもちろん、デジタル出版やオンデマンド出版などをうまく活用することによって、紙資源を有効に活用し、必要とする人に必要な本を届けられるように、知恵を出し合いたいものである。

バブルの崩壊やインターネットの普及などにより、今、出版のあり方は、大きな転機を迎えていることはたしかである。しかし、言語力の涵養や図書館の充実といった甘い言葉を並べ立てた法を盾にして読者層の拡大と業界保護をはかることはやめてもらいたいと思う。法案が真に言語力の涵養を主たる目標とするのなら、読み書きの基礎となる聞き話す能力、さらにそれ以前の非言語的な体験やコミュニケーションをも視野に入れたトータルでバランスの取れた言語能力の育成を盛り込むべきであろう。それは単に学校教育のみにゆだねられるものではなく、家庭・地域・社会において子どもの生きる営みに根ざしたものでなければならないはずである。

出版業界の目先の保護を第一義と考えるのでなく、社会や経済と文化の将来に関するたしかな見通しを持って、出版業界の変容と再編を促し、私たちの情報活動にとって真にプラスとなる新たな「文字・活字」文化の創造していく方途を探ってほしい。その上で、法の有無にかかわらず、それぞれ独自に運動を展開している図書館関係者や学校図書館関係者や読書活動推進者と連携を模索すべきであることはいうまでもない。

以上のことを考慮するとき、法案に対する早急な賛否の判断を留保して、しばらくは、さまざまな立場や角度からの議論に耳を傾け、これから講じられる具体的な施策を見守りながら、是は是、非は非として対応しようと思う。

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