【掲載日:平成21年12月18日】
千鳥鳴く み吉野川の 川音なす
止む時無しに 思ほゆる君
「先日の 三者談合の折 千年殿は 何も言わなんだが どうなのじゃ」
吉野宮滝行幸 宴果てた後
笠金村は 車持千年を誘い 河原にいた
「わたし如きが なにを申せましょうや
人麻呂殿の後 お努めあるは 金村殿と赤人殿」
「いやいや 今日のわしの歌なぞ 人麻呂殿に 及びもつかぬは」
「なにを 仰せです
赤人殿は 景を詠むに 煌めきが ございます
金村殿は 志貴皇子の挽歌で 構想に新しい道を開かれました
それに 人麻呂様の時代 天皇は それこそ 雲の上のお方
平城の都移りの後は
天皇も 我らに 少しく お近づきになられ
行幸も 君臣和しての遊覧となり申した
親しさと優しさを 具えられし 金村様のお歌 見事なものでございます
私も 金村様に 習うて このような歌を」
味ごり あやに羨しく 鳴る神の 音のみ聞きし 吉野の 真木立つ山ゆ 見降せば
《羨やんで 噂聞いてた 吉野宮 山の上から 眺め見る》
川の瀬ごとに 明け来れば 朝霧立ち 夕されぱ かはづ鳴くなへ
紐解かぬ 旅にしあれば 吾のみして 清き川原を 見らくし惜しも
《川瀬川瀬に 夜明けたら 朝に霧立ち 夕方は 蛙鳴く声 聞こえてる
妻を残して 来た旅や 清い川原を わし独り 見るのん惜しい 一緒に見たい》
―車持千年―〔巻六・九一三〕
滝の上の 三船の山は 畏けど 思ひ忘るる 時も日も無し
《急流の上 聳える三船山は 好えけども お前のことが 忘れられへん》
―車持千年―〔巻六・九一四〕
【ある本の反歌】
千鳥鳴く み吉野川の 川音なす 止む時無しに 思ほゆる君
《続けざま 波音続く 吉野川 お前思うの 続けざまやで》
―車持千年―〔巻六・九一五〕
茜さす 日並べなくに わが恋は 吉野の川の 霧に立ちつつ
《旅に来て 日も経たんのに 恋募る 吉野の川で 霧が立つよに》
―車持千年―〔巻六・九一六〕
「女房 恋しの歌
優しさを 具えしは そなたの方じゃな」
肝胆相照らす友 金村と千年
夜の静寂に 瀬音が 響く
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