【掲載日:平成21年12月21日】
大君の 行幸のまにま 物部の 八十伴の雄と
出で行きし 愛し夫は・・・
神亀元年〔724〕冬十月 紀伊国への行幸
聖武天皇が 即位され 初めての行幸である
笠金村は 従駕の任を 帯びていた
出で立ちの朝 宮中へと駒を進める金村に 駆けよる 一人の官女
「金村様に お願いがございます
夫が 行幸に お供いたします
心配で ならぬ心 詠いたくはあるのですが わたくし如きでは とてものこと
そこで 金村様に 代り歌を お願いしたいのです」
親しみと優しさを 感じさせる 金村の歌
その評判を聞いての 官女の 頼み
大君の 行幸のまにま 物部の 八十伴の雄と 出で行きし 愛し夫は
《天皇さんの 行幸に付いて お伴の人と 出かけたあんた》
天飛ぶや 軽の路より 玉檸 畝火を見つつ 麻裳よし 紀路に入り立ち 真土山 越ゆらむ君は
《軽の道から 畝傍を眺め 紀の国入って 真土の山を 越えて行くんか 愛しいあんた》
黄葉の 散り飛ぶ見つつ 親し われは思はず 草枕 旅を宜しと 思ひつつ 君はあらむと
《黄葉散るのを 綺麗とながめ うちのことなど すっかり忘れ 旅楽しもと 思うてなさる》
あそそには かつは知れども しかすがに 黙然もありえねば
《そんな気持も 分かるんやけど 独り待つんは 辛抱出来ん》
わが背子が 行のまにまに 追はむとは 千遍おもへど 手弱女の わが身にしあれば
《あんた行く道 追いかけ行こと 思うてみても 女の身では》
道守の 問はむ答を 言ひ遣らむ 術を知らにと 立ちて爪づく
《道の番人 問い詰めされて 言い訳できる 自信が無うて 出かけるのんを 躊躇うこっちゃ》
―笠金村―〔巻四・五四三〕
後れゐて 恋ひつつあらずは 紀伊の国の 妹背の山に あらましものを
《あんたはん 後に残って 偲ぶより 妹背の山で 居りたいもんや》〔一緒に居れる〕
―笠金村―〔巻四・五四四〕
わが背子が 跡ふみ求め 追ひ行かば 紀伊の関守い 留めてむかも
《追いかけて あんた行く道 辿っても 紀伊の関守 止めるんやろな》
―笠金村―〔巻四・五四五〕
〔あの官女の思い うまく詠えたであろうか〕
納得しつつも いまひとつ 官女の心が気になる 金村であった
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