愛に関する短いフィルム #80

1988年 ポーランド 83分

クシシュトフ・キエシロフスキ監督脚本作品

登場人物は約3人。主人公トメグは19歳の郵便局員。戦地に赴いた友人の部屋で友人の母親と一緒に住んでいる。友の母親はトメグを息子代わりに可愛がっているが、部屋に篭りがちなトメグとの会話は少ない。で、部屋で何をしているかというと向かいのマンションの女性の部屋を望遠鏡で覗いているのだった。

今で言えばストーカー行為なのであるが、この映画で描かれるのは、「見る」ことを「愛の手段」とできるか、肉体の結びつきを超えた精神の愛、である。主人公はいたって真剣、自ら覗いていることを告白し、怒りに触れながらも「愛しているから」と臆面もなく言う。

一方、女性の方は数々の男性遍歴を持ち、愛するとは肉体を求めることだ、と言い放つ。それまでの悪の男と被害者の女という関係が逆転したような気がした。

愛のかたちはさまざまに描かれる。愛とは何か、あらゆる角度から愛について作られた映画は数多いが、本編で描かれる愛というものをちょっとじっくり考えてしまう。

話題の映画だったため、最初はどんなものか半怖いもの見たさで見て、最初はなんだか変な感じで、見終わった後も映像のインパクトが残っていたが、見終わった後もずっと頭に残る映画だった。おそらくこれからも本作の意味についてふと考えてしまうと思う。うまく表現できないがとにかく芸術作、良かった。

キェシロフスキ監督は1996年に54歳という若さで生涯を閉じている。