負け犬の館・新居予定地

 このサイトは社会の落伍者『八重代かりす』による自作ライトノベル公開ブログです。
 ……現在引っ越し作業中。

続編ライトノベル『異形討滅!!』03

2016-08-31 21:17:32 | 完結済習作ライトノベル『異形討滅!』
 わずか4000字ほどの習作続編です。
 もう、月5000字ペースですら無理なのかもしれません。
 とりあえず、この話は次回で区切りをつけて、『私の店子が金髪碧眼ラノベワナビハーレムで以下略』の完結を急ぎます。
 ……『異形夜話』はマジでエタるかもしれない。

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        異形討滅!!
                          八重代かりす

 [chapter: 1.3_試される、大地に生きる、少女たち]

 菖蒲(あやめ)の自嘲に、清冽な声が返答する。
 次の瞬間――
 異形の巨体が真っ二つに割れていた。
 まさに一刀両断、電光石火の早業だった。
 清冽(せいれつ)な声の主は例のポニーテール女子高生――松前汀(まつまえ みぎわ)。
 その手にあるのは身の丈ほどもある日本刀――いわゆる野太刀(のだち)。
 いずれにせよ、菖蒲は信じ難いものを見た。たしかに日本刀は条件次第で鉄の塊ですら、両断可能といわれる。しかし、その厳密な条件を満たす事は困難であり、実際の戦場では『太刀は棒の如く』使われるのが常だったはずだ。
 ところが、この松前汀(まつまえ みぎわ)は漫画のように竜盤型異形の巨体を切り裂いた。
 ――ていうか、何で彼女がここに?
 菖蒲の脳裏で疑念と混乱が錯綜した。その一方で
 ――あ、異様に長い筒状背嚢(ドラムバック)はこの野太刀のため?
 と、妙な納得もした。
 そして気付く。
 汀(みぎわ)の陰には、人参(キャロット)色にも似た波打つ雲髪があったのだ。
 例の赤毛美少女、キャロットだった。
「にしても、竜盤型をわざわざこんなことに使うなんてね~」
 その台詞は何気ない口調だったので、菖蒲はうっかり聞き逃しそうになった。
 だが、咀嚼すれば、いくらでも解釈ができた。『竜盤型』『使う』――つまり、あの竜盤型自律式異形は、『使役』されているものであって、『暴走』しているものではないと言う。いやたしかに、単なる暴走なら、無防備な菖蒲を狙ったかのように襲い掛かる理由がない。
 ――誰かに狙われた?
 もしそうなら、辻褄(つじつま)は合う。いや、キャロット嬢の言うように、竜盤型は暗殺には最も向いていない異形だ。が、それでも非武装のヒト(ホモ=サピエンス)一体を始末するには十分だ。
 ――だとしたら、その黒幕は……。
 どうやら、二人には心当たりがあるらしい。
「あくまで、暴走した自律式異形による『事故死』という脚本なのかしら?」
「みたいね。人間による直接関与は極力避ける方針みたい」
「武装した戦闘要員は近くにはいないのね?」
「うん。あたしの射程内にはいない。近くにいる連中もせいぜい拳銃ぐらいかな」
 汀が問い、キャロットが答える。
 その内容は意味不明だったが、次の行動で理解が及ぶようになる。
「でも、異形はまだいるみたいだね」
 キャロットはそう言って、外套(マント)の下、腰部から、銃器を取り出す。
 その銃器は学生鞄のような直方体状だった。菖蒲は一瞬
 ――FN‐P90?
 と思った。ゲームなどでよく見る著名な短機関銃もどきと誤認したのだ。しかし、よく見ると細部が異なる。また、菖蒲の記憶が確かなら、FN‐P90は既存拳銃弾ではなく、専用弾薬を使用するはずだ。つまり、弾薬の互換性が低く、補給が難しい。
 ――なら、その辺りを考慮開発されたFN‐P90の変種(バリエーション)?
 すると、キャロットはいきなりその銃口を真横に向け、躊躇いなく引き金を引く。
 とんでもない曲射だったが、その銃弾の先には異形の影があった。
 ――蜥蜴型異形!
 通称『蜥蜴擬き(トカゲモドキ)』。全長は二メートル程で、その名の通り、まるで蜥蜴(とかげ)のように四足で爬行する自律式異形だ。しかし、蜥蜴と違い、尾はない。脚部は胴体より太く、鱗も毛も外骨格もない。剥き出しの筋肉に脈打つ血管、鋭利で巨大な爪牙。
 が、その真の恐ろしさはその汎用性だ。竜盤型とは逆に隠密性にも優れ、実際、今まで菖蒲(あやめ)はその存在に気づきもしなかった。
 しかし、そうやって、音もなく忍び寄っていた蜥蜴型異形をキャロットの銃弾は容易く射抜いていた。その場に崩れ落ち、例によって【融解】を始める。
 ところが、それで終わりではなかった。
 蜥蜴型異形は通路の向こう側から、次から次へと湧いて出てきたのだ。
 ――そんな……! いくら蜥蜴型が竜盤型に比べても安価でも……!
 こうも自己増殖するはずもない。明らかな作為がそこにはあった。
 菖蒲は二重三重に戦慄する。
 その一方で、汀とキャロットの現役美少女二人はたじろぐことすらなかった。
「……菖蒲さんの直掩(ちょくえん)は、私が担当するわ。あなたは実地試験がてら、前進しなさい」
「了~解。実際、あたしもまだ馴染んでいないから、取りこぼしは出ると思うよ。なので、その辺りはよろしく」
 赤毛のキャロットは黒い外套(マント)を翻し、自ら異形の群れに向かう。

 そして、無双の蹂躙劇が始まった。

 異形の蜥蜴擬き(トカゲモドキ)が無数に押し寄せる。しかし、キャロットはむしろ凶暴な笑顔を見せた。銃口を向け、引き金を絞る。蜥蜴型異形は被弾し、【融解】する。蜥蜴型異形もすぐ回避運動を始める。上下左右に飛び跳ね、あるいは壁や天井に張り付く事で射線を逃れようとする。実際、回避に成功する事もある。が、毎分数百発の発射速度だ。全弾回避する事は不可能で、結局、何発かは被弾し、【融解】する。
 そして、キャロットはそれを何度も繰り返した。
 ――って、ほとんど一撃必殺?!
 文章にすると、簡単だが、それは異様な光景だった。
 菖蒲も猟師の端くれだ。大型野生動物の頑強さはよく知っている。そして、それに相似する竜盤型や蜥蜴型の大型自律式異形の頑強さも、また知っているつもりだ。
 あれらは普通、拳銃弾程度では止まらない。神経中枢や循環器系を射抜けたとしても、しばらくは動き続ける事も多い。なるほど、FN‐P90や短機関銃は貫通力に優れるという。対人用としてはそれで十分だろう。が、異形が相手だと、制圧力(ストッピングパワー)の低さが問題になる。だからこそ、菖蒲は制圧力の大きな散弾銃を使っていた。それでも、竜盤型一体を無力化するのに何度も発砲している。それこそ、仮に異形を一撃で仕留めようとするなら、汀の野太刀でも使う必要があるだろう。
 ところが、キャロットは蜥蜴型異形をあっさり屠り続けている。
 そうして先頭から順番に、確実に無力化する。まるで美少女TPSゲームだった。
 ――自律式異形の《成虫原基(イマジナル=ディスク)》を射抜いているって事?
 これもまた信じ難い。しかし、そう考える他なかった。そうでなければ、蜥蜴型異形がたった数発の小口径被弾で無力化されるはずがない。
 認めるしかない。菖蒲ではとても敵わない。赤毛のキャロットは超人的な腕前なのだ。その美しい容貌と色々と凄い体型も相成って、現行人類を超越した存在にすら……。
「汀。後方からの接敵。蜥蜴型と竜盤型、それぞれ一体ずつ」
「ええ。確認済み。引き付けてから、私が無力化する」
 キャロットが指摘し、汀が応答し、菖蒲は恐怖した。
 菖蒲が背後を振り返ると、たしかに蜥蜴型と竜盤型がいた。しかも、キャロットの言う通り、それぞれ一体ずつ、接近している。
「そのまま動かないで下さい」
 汀が清冽な声で言う。菖蒲は黙って首を上下する。こうなると汀の声音は頼もしい。
 そして、汀は期待通りの働きをする。
 先行する蜥蜴型を居合抜きで両断し、次に追従していた竜盤を袈裟切りで両断したのだ。
 キャロットだけではない。
 ――汀も……この娘たちは本物だ。私のような見世物とは違う。
 そして、汀は納刀すると、ブレザーの上着を脱ぎ始めた。
 菖蒲は感激に打ち震えていたので、処女を捧げろと言われれば、喜んで体を捧げていたと思う。
 しかし、汀はそのブレザーの上着を菖蒲に差し出した。
 そこで、菖蒲はようやく自分が裸体であることを思い出した。
「きゃ……」
 菖蒲はやっと口が開けた。なんだが声を出したのも久しぶりな気がする。
「すみません」と、汀。「もっと早くこうするべきだったのでしょうが、安全確保が第一だったので」
 ――し、紳士だ
 断言できる。やはりこれは女子にモテる。というか、汀はブレザーの下が直接ブラウスだった。その素晴らしい痩躯がそれだけで眼福だった。
「あ、ありがとう」
「いえ、同性とはいえ、目の毒でしたから」
「ふふ、ちょっと嬉しいかも」
 菖蒲としても肌をさらした甲斐があった。
「それにしても、檜扇菖蒲(ひおうぎ あやめ)さん、お見事でしたね」
「え?」菖蒲には汀の言葉の意味が分からなかった。
「竜盤型から逃れえた事です。よく剣鉈一本で凌げましたね」
「あ、ああ、あれね」
 汀の美技を見せつけられた後では嫌味にも思えるが、たしかに菖蒲も菖蒲でまた大した事をやってのけてはいた。……自分では剣鉈を握り続けている事も忘れていたが。
「あれは……いわゆる『ゾーン』というやつだったのかも」
 運動競技などで極度の集中状態に入った時、そういう『領域(ゾーン)』に到達することがある。――とは、菖蒲も聞いた事がある。身に覚えのない話でもなかったが、今日ほど強く実感したのは初めてだった。
「……ま、君たち二人は、ほとんど自由自在に『ゾーン』に入れるのかもれないけどね」
 菖蒲は冗談めかして言ったが、汀はむしろ顔を引き締めた。
「いえ、それは私だけです。あの娘(キャロット)は違いますので、ご注意下さい」
「……は……?」
「あの娘はESP能力者なんです」
「……へ……?」
 菖蒲はあまりに突拍子もない話だったのでこんな反応になってしまった。
 しかし、汀は淡々と語る。
「言葉通りの意味ですよ。あの娘(キャロット)はESP――超感覚的知覚(Extra-Sensory Perception)=『一般的な感覚(Sensory)、以外(Extra)で知覚(Perception)する』能力者なんです。だから、視覚では絶対にとらえられないはずの異形の動きも知覚できる。……思い当たる節ありません?」
「そ、それはそうだけど……え? じゃあ、汀さんは?」
「繰(く)り言(ごと)ですが、私は凡人ですよ。遺伝的にも純粋なヒト(ホモ=サピエンス)ですし」
「……?」
 菖蒲はますます混乱した。それではまるで遺伝的に純粋ではないヒト(ホモ=サピエンス)がいるようではないか?
 しかし、汀は言葉を続ける。
「勿論、私の場合、一応の鍛練と多少の小細工はしています。しかし、基本的にはソフトウェア的な工夫に過ぎません。異形細胞の斬り方を体が覚えていたり、背後からの気配を感じられるのは事実ですが……。後者については菖蒲さんも経験があるのでは?」
 ……たしかにあの時の菖蒲は、完全に死角からの一撃を防ぐ事ができた。
「……何だか、詳しいね」
「私がやっている校外学習の主題ですから」
 汀はとんでもないことをやはり淡々と言う。
「仮に背後からの気配を感じられたとしても、普通は識意下で視覚以外の感覚情報で補完しているだけです。ある種の視覚障碍者が視覚に頼らずとも、周辺状況を把握できるのと同じです。実験でもこれらの『能力』は聴覚を封じるだけで半減します。……まあ、私の事でもあるのですが」
「……」
「でも、あの娘(キャロット)は違います。ハードウェア的に感覚器官が増設されている。器質的に現行人類とは異なるんです」
「……あの……それって」
「あの娘(キャロット)の赤目赤毛――生体磁石やら金属イオンやらの影響らしいですよ」
「……」
 菖蒲は思わず息をのんだ。
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