IoT普及、産官で協力を
イノベーション・エディター ジョン・ソーンヒル
日本経済新聞 朝刊 日曜に考える (13ページ) 2016/6/12 3:30
未来がこれほど刺激的なことはなかった。技術的進歩と経済的豊かさをもたらす新時代の到来はすぐそこだ。
しかし、世界経済の成長率はこの8年中6年で過去20年の平均を下回り、生産性の伸び率は鈍化している。米国の著名インターネットアナリスト、メアリー・ミーカー氏が指摘したように、世界のネット利用者は約30億人と伸び悩み、スマートフォンの普及速度も落ちている。
アメリカン・オンライン(AOL)の共同創業者、スティーブ・ケース氏は著書「ザ・サード・ウエーブ(第3の波)」で、ネットの普及でほぼすべての産業や生活が一変し、我々は歴史の転換点にいると論じた。あらゆるものがネットにつながる「IoT」の到来だ。
第1の波では1980年代半ば、AOLなどの先駆的企業がネット技術を広げた。第2の波では米企業のグーグルやフェイスブックが検索・交流サイトを立ち上げ、スナップチャットやインスタグラムがアプリの可能性を広げた。始まったばかりの第3の波では、健康管理や教育、運輸などの産業を一変させるだろう。
例えば、健康管理では我々はリアルタイムで健康データを追跡するセンサーを身につけることになりそうだ。データに異常が現れたら、我々や医師に知らせてくれる。治療を受ける方法だけでなく、医療制度全体が大幅に変わるだろう。
だが、シリコンバレーの起業家は彼らだけでは第3の波に乗れない。政府や既存企業にも果たすべき役割がある。ケース氏は著書で「第3の波では関係者の協力が成功の必要条件」と述べている。
起業家にとっては、政府がどんな政策をとるかがリスクであり障害にもなる。第3の波の恩恵を受ける産業は厳しい規制を受けている。自動運転車を例にとると、政府は普及を促進できる一方、一切認めないという対応もとれる。
シリコンバレーではお金は美徳であり、政府は事業の障害だという考え方がある。逆に政府や市民には、巨大なデジタル企業が個人情報を悪用し、世論を操作し、脱税していると映る。まずは両者の溝を埋めるすべが必要だ。
(7日付)
イノベーション・エディター ジョン・ソーンヒル
日本経済新聞 朝刊 日曜に考える (13ページ) 2016/6/12 3:30
未来がこれほど刺激的なことはなかった。技術的進歩と経済的豊かさをもたらす新時代の到来はすぐそこだ。
しかし、世界経済の成長率はこの8年中6年で過去20年の平均を下回り、生産性の伸び率は鈍化している。米国の著名インターネットアナリスト、メアリー・ミーカー氏が指摘したように、世界のネット利用者は約30億人と伸び悩み、スマートフォンの普及速度も落ちている。
アメリカン・オンライン(AOL)の共同創業者、スティーブ・ケース氏は著書「ザ・サード・ウエーブ(第3の波)」で、ネットの普及でほぼすべての産業や生活が一変し、我々は歴史の転換点にいると論じた。あらゆるものがネットにつながる「IoT」の到来だ。
第1の波では1980年代半ば、AOLなどの先駆的企業がネット技術を広げた。第2の波では米企業のグーグルやフェイスブックが検索・交流サイトを立ち上げ、スナップチャットやインスタグラムがアプリの可能性を広げた。始まったばかりの第3の波では、健康管理や教育、運輸などの産業を一変させるだろう。
例えば、健康管理では我々はリアルタイムで健康データを追跡するセンサーを身につけることになりそうだ。データに異常が現れたら、我々や医師に知らせてくれる。治療を受ける方法だけでなく、医療制度全体が大幅に変わるだろう。
だが、シリコンバレーの起業家は彼らだけでは第3の波に乗れない。政府や既存企業にも果たすべき役割がある。ケース氏は著書で「第3の波では関係者の協力が成功の必要条件」と述べている。
起業家にとっては、政府がどんな政策をとるかがリスクであり障害にもなる。第3の波の恩恵を受ける産業は厳しい規制を受けている。自動運転車を例にとると、政府は普及を促進できる一方、一切認めないという対応もとれる。
シリコンバレーではお金は美徳であり、政府は事業の障害だという考え方がある。逆に政府や市民には、巨大なデジタル企業が個人情報を悪用し、世論を操作し、脱税していると映る。まずは両者の溝を埋めるすべが必要だ。
(7日付)