夜の若冲

今週から職場は夏休みモード...

いつも前線で仕事をやっつけている後輩君がお休みだったので、今
週はこぼれてくる球をかたっぱしから拾う係。とっても繁盛してま
した。

そんなこんなでどうやら金曜日、ふと気がつくと周囲のプレッシャ
ーが緩やかになっている気配、なので久々定時に退社して、上野は
若冲をナイターで観にいってきました...

プライスコレクション展は二度目、同じ展覧会を再訪したのは今年
初めてのこと...

ここ数年、視力が弱くなってきて、展覧会にはメガネが欠かせませ
ん。今回は急に思い立ったのでメガネを持っていなかったのですが、
会場に入ったらじんわりと目の疲れが和らいで、思いのほか気分よ
く観られました...

感想は前回とかぶりますが、あらためて...

『花鳥人物図屏風』、今回、いいなと思ったのは中央の雄鶏、一本
足で立つ鶏は、迷いのない筆捌きで描かれている。たっぷりと墨を
含んだしっぽのストローク、薄いグレーのスピード感のあるストロ
ーク、そして筆から散らしたような地面の影...とても気持ちいい作
品です。

『鶴図屏風』はその曲線がよかった。解説では『卵』という表現を
使っているけれど、観ているうちに、それが何の形でもいいような
気がしてきました。若冲もいろんな曲線を描いてみたかっただけな
のではないだろうか。墨で描かれたゆったりとした曲線を目でなぞ
っているだけで、やっぱり気持ちがなごむ。

『紫陽花双鶏図』はやっぱり若冲の中で一番好きです。野性的でち
ょっとくすんだ紫陽花の前に、見事な羽を持った二羽の鶏、例えは
よくないけれど、どこかサンゴ礁を思い出させました...
＃ サンゴ礁って光のあたり方や種類の違いで、ひとつの大きな塊
＃ の中に、ものすごく多様な色が感じられるではないですか...

ところ変わって伝河鍋暁斎の『達磨図』、ゆるぎないへの字口...
百二十年も前からずっとこの表情を崩さない、そんなあたり前のこ
とに、素朴に感心する。

最後の照明を工夫した部屋、照明をいじらない日も設けるべきでは
ないかな...やっぱり目が疲れるし、どうも落ち着いて観られない...


一通り観たら閉館十五分前、二周目に入る...


『鳥獣草花図屏風』の前も人影がまばらになってきた。最前列でじ
っと観てみる。この前、観たときは右隻の白象のインパクトが強す
ぎて、かすんだ印象があった左隻の鳥たちですが、近くで観るとい
ろんな種類がいてとても楽しい...また、背景の青もなんとなく水辺
のような気がしていたのですが、見方によっては空と雲にも見えて...

少し離れた場所から全体を観る。閉館のアナウンスが流れる。名残
惜しい。離れたくない。隣の人も、その隣の人も動かない。絵の前
にはカニ歩きの女の子が一人、右隻から左隻に移る。女の子、振り
返ってぷいっと帰っていく、しんとする...

『閉館時間が過ぎましたぁ...』と警備員の声に我に返る...

その間、どれくらいの時間だったかな。人数にすればほんの十五人
ほどの一重の人垣だったけれど、あの場にいた人は皆、得がたい鑑
賞体験をしたのではないかな。誰も声を出さなかったけれど、何と
なく通じあっているような気がした、夏のひととき...


そういえば同じようなことがあったような気がしたので調べてみた
ら、こんなことを書いていた。
・根津美術館で燕子花図を観たときのこと

参考
・プライス展、一度目の感想

・『若冲と江戸絵画展』 プライスコレクション (東京国立博物館) ～ 8/27 まで...