デ・キリコ展(大丸ミュージアム)

デ・キリコの展覧会、キリコといえば形而上絵画、そもそも形而上
ってどんな意味だっけ？

> けいじじょう　―じやう 0 【形▼而上】
> 精神や本体など、形がなく通常の事物や現象のような
> 感覚的経験を超えたもの。

なるほど...

キリコの作品はひとつひとつのモノがパズルのように組み合わされ
ている。イタリア広場を主題にした『夏の夢』と『噴水のあるイタ
リア広場』、上空に行くにしたがって緑が深まる黄色い空、地平線
を走る汽車、左右に並ぶ建物、そこには意味はなく、ただあるもの
が並んでいる感じだ。

人物はマネキンとして描かれる。マネキンには表情がない。表情が
読めないからその佇まいが物語を喚起する。

『慰めのアンティゴネ』で、たくましいの膝の上でうつむく女、男
が頭を傾げる角度に慈しむような眼差しを感じる。『ヘクトルとア
ンドロマケ』では二人の微妙な距離感に親密さを感じる。これらの
男と女を描いた作品にはあたたかな印象を受ける一方、『不安を与
える女神たち』の微妙な距離、擦れ違う視線、仮面をかぶったマネ
キンと仮面を脱いだマネキン、そんな対比は文字通り私を不安にす
る。

絵の中の絵、形而上的室内。『花嫁の秘密』の花嫁、すらりとした
プロポーション、水色を背景にした淡い桃色の衣装が映えるが、こ
れは絵に描かれた花嫁、遠くの思わせぶりな宮殿への入り口も絵に
描かれた風景、秘密とは果たして何なのか、どうしてこれを描こう
と思ったのか...

キリコの作品は私がよくいく美術館にも収蔵されている。今年も横
浜美術館やブリヂストン美術館の常設展で観た。特にブリヂストン
美術館の『吟遊詩人』は小ぶりながら精緻な描写でとても美しい。

今回の展覧会はキリコ晩年の作品が中心で、筆が荒れた印象の作品
も多々あった。それでも『ニューヨークの形而上的光景』や『工場
と形而上的室内』『ふさぎ込んだ太陽と形而上的室内』などには活
き活きとした色彩と、いいようのない不可思議さが感じられた。

二つの広々としたデパートのフロアを、何度でも回遊したくなる不
思議な展覧会。

・デ・キリコ展 10/25まで...