美術と本と映画好き...
徒然と(美術と本と映画好き...)




薄汚れた壁を埋め尽くすポスターは染みだらけで滲んでいる。とげ
とげした灰色の壁の前を、いまにも消えそうな人物が通り過ぎてい
く...

練馬区立美術館の佐伯祐三展に行ってきた。

最初の渡欧では青い空を描いた作品も何枚かあるが、だんだんと灰
色の雲に覆われた風景が多くなる。

パリ郊外の風景を描いた作品、同じ構図で、方や初夏の装いで方や
雪景色。雲浮かぶ空の下には葉を茂らせた木々、この青や緑はどこ
かぎこちない。一方、雪景色は曇天の空とべしゃべしゃした道、白
と灰と土色で描かれる。右手前の家が道路に向かって傾斜していて
画面に緊張を与えている。通りには消えそうな人物。この冬の作品
にはその後に続く都会の作品のエッセンスが詰まっている。

街中の作品。同じ構図で同じ店を正面から描いている。同じポスタ
ーが貼られた同じ門を同じ角度で描いている。何を描くべきなのか、
苦しんでいる様子が伝わってくる。

私は『壁』という黄色い壁を描いた作品と、青みがかった『リュ・
デゥ・シャトーの歩道』という作品が好きだ。壁の質感が何ともい
えない。いわゆる美しさとは無縁イメージだけれど、何なのだろう
この感覚は。

日本に帰ってきてからの下落合の白い壁の門。きっと夏であろう抜
けるような青い空、真上から鋭い太陽、それは泥で汚れた白い壁を
照らし、土の茶色が活き活きとしている。だけど道行く人は消えそ
うな姿...新橋を描いた『ガード風景』の雰囲気も捨て難い。どうし
て日本での創作が続けられなかったのだろうか...

再び渡欧してからのオプセルヴァトワール、街角を高いところから
俯瞰したアングル、影のような人々と影のような自動車、真っ黒く
描かれた街路樹は花火のように枝を伸ばしている。新聞紙が乱雑に
突っ込まれている新聞屋のスタンド、東京国立近代美術館でも何度
か観た『ガス灯と広告』、何かに取り憑かれたかのような刺々しい
線、荒れたタイポグラフィー、モノトーンの画面からは狂気が感じ
られる。

最後の『郵便配達夫』、ここまでの作品にはなかったユーモラスな
感覚が芽生えている。享年三十歳、この先にはどんな作品が待って
いたのだろうか...

佐伯祐三展 10/23 まで...

コメント ( 8 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
佐伯祐三展 (DADA.)
2005-10-09 08:58:10
ご無沙汰です、TBありがとうございます。



佐伯の作品をまとめて観て、僕も氏が感じたであろうことについていろいろと思いを馳せました。

そして、佐伯がさらに好きになりました。



lysanderさんの感想も興味深く拝見しました。

それぞれの方々が思い描く佐伯像はどれも面白いです。

たくさんの人に観てほしいですね。
 
 
 
Unknown (イッセー)
2005-10-09 20:48:21
lysanderさん

こんばんは、私も佐伯祐三展行きました。



多くの作品が展示されていて、見応えのある展覧会でした。特に第二次滞仏時代の作品は、より一層研ぎ澄まされた感覚で描かれた様な印象を受けました。

もし30歳から後も生きていたら、どんな風な作品を残していただろうかと思うと、興味は尽きません。

印象に残る展覧会でした。



TBさせていただきました。
 
 
 
佐伯カッコイイ (おけはざま)
2005-10-09 23:20:19
こんばんは.



佐伯カッコイイですよね.



下に塗られた絵具を押しつぶす筆圧でひかれた線の勢いに佐伯の狂気ならぬ狂喜を見た気がしました.



興味深い画家です.
 
 
 
Re: 佐伯祐三展 (lysander)
2005-10-10 00:50:05
DADAさん

こんばんは



DADAさんの感想はとても思い入れが感じられますね。

私はもっと日本で作品を残して欲しかったと思いました。



練馬区立美術館は初めてだったのですが、結構、

お客さんが入っていました。

なかなか立派な箱でしたね。

 
 
 
Unknown (lysander)
2005-10-10 00:54:06
イッセーさん

こんばんは



三十歳すぎての作品...

郵便配達夫の次がみたかったですね...



それでも三十までにあれだけの作品を残すので

すから、凄い才能だと思います。
 
 
 
Re: 佐伯カッコイイ (lysander)
2005-10-10 01:00:33
おけはざまさん

こんばんは



> 佐伯カッコイイですよね.

ですよね。



あのカッコ良さはどこからくるのでしょうか。



普通の風景画がメロディ主体で描かれているとすると

佐伯の作品にはビートで突っ込んでいくような激しさを感じます。



変な比喩ですいません。
 
 
 
あまりにも短い生涯 (自由なランナー)
2005-10-10 07:53:38
私も一昨日みてきました。佐伯の芸術世界に惹きつけられてしまいました。おおっしゃるとおり、30歳で死ぬには早すぎる画才をもっていたと思います。

うちのブログでも拙い感想を書きましたので、TBさせてください。
 
 
 
Re: あまりにも短い生涯 (lysander)
2005-10-10 18:57:10
自由なランナーさん

こんばんは



三十なんてあっという間ですものね。



生き急いでいるかのような作品群に、痛々しさを

感じてみたり、ある疾走感(=カッコ良さ)を

感じてみたりしました。
 
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