Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

蛇イチゴ

2006-08-08 | 日本映画(は行)
★★★★★ 2003年/日本 監督/西川美和

「普通の人間を普通に描くとこんなにも恐ろしくなる。」


普通の平凡な家族の仮面をはぎ取る、その何気ない光景に背筋がぞっとする。仮面をかぶった家族たちの冷ややかな視線、言動。人間って、こんなに恐ろしくて醜い生き物なのだろうか、と思う。しかし、だからと言って絶望的な気分になるかというと全くそうではないのだ。なぜなら、家族が集うシーンは、ドキュメンタリーかと思うほどリアルな描写で、この本物っぽさ、生っぽさに非常に引きつけられるからだ。これは西川監督を見いだした是枝監督の影響なのかも知れない。そのリアルさに、まるで隣の家族をのぞき見しているような感覚を覚える。

役者の演技は非常に抑制されていて、セリフ回しも淡々としている。しかし、時折見せられるシニカルでコメディタッチの演出が小気味よくて、全く飽きさせないし、面白い。それにしても嘘つきで、傲慢で、卑屈で見栄っ張りな人間の裏側をじわーっと見せる西川監督の演出力には舌を巻く。20代でにこんな映画を仕上あげてしまうなんて、ほんとすごいよ。この人には、人間の表と裏をさんざん見てきた老獪な年取った監督が乗り移ってんじゃないの。

明智家で展開される場面は、全てが名シーンと言っていい。いいかげんで嘘つきの兄(宮迫博之)、いい子を演じ続ける堅物な妹(つみきみほ)、リストラされたことを隠している父(平泉成)、ボケた祖父の面倒で疲れ切った母(大谷直子)。特に、平泉成と大谷直子の演技には、本当に唸らされてしまった。娘の婚約者が帰ったあと悪態をつく平泉成の二面性。男としての建前ばかりを気にして結局家族に迷惑かけてるくせに、とどのつまり自分じゃ何もできない男を飄々と演じている。

その平泉成の上を行くのが大谷直子の演技である。面倒を見ている祖父に、こんなもの食えるか!と皿を投げつけられた後の少し首を傾げた沈黙の後ろ姿。ストレスで円形脱毛症になった頭を鏡に映したときの表情。一緒に暮らす妹ではなく家出した兄に「おにいーちゃん」としなだれかかる息子偏重の愛情表現。どれもこれもが、すごいです。

母親にも息が詰まると言われた妹は、ラスト、嘘だらけの兄に子供の頃の思い出話を持ち出し、その真相をせまる。それは、兄を信じられない自分に対する賭けだったが…。

ラストの余韻もすばらしい。兄のメッセージを受け取った妹は、これから変わってゆくんだろうか。久しぶりに見直したのだけど、本当にすばらしい映画だと思う。音楽のセンスもとてもいいし。(今作音楽を担当したカリフラワーズは、「ゆれる」でも参加している)「ゆれる」が大ヒット中なので、きっと本作も鑑賞して、西川監督の手腕が多くの人にさらに認識されるのではないかと思う。



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