アメリカで働く臨床栄養士のブログ

内科ICU栄養士。食が大好きな一男一女のママ。日本と異なる医療・栄養事情、過去に書いた情報は既に古いことも…あしからず。

私的サマリー:小児栄養(08月09年)

2009年08月22日 | 臨床栄養:小児科
小児科栄養の超基礎部分のまとめ。小児科での経験はインターンシップの時+PICUのRDとNICUのRDとの雑談のみで、↓は超基礎的な教科書知識です(例外&他に大切な事が沢山あります)。ちなみに↓を見ると一目瞭然ですが、大人の栄養学とは全く異なりますので、小児科向けの専門資格(Certified Specialist in Pediatric Nutrition (CSP))があります。


(Q1)1000gの赤ちゃんに必要なカロリー、たんぱく質、脂質、水分量は?
(Q2)3歳で14キロ(標準的)の子供に必要なカロリー、たんぱく質、脂質、水分量は?
自問自答してみましたが、やっぱ普段やってないから駄目ですね…。

【低出生体重児の栄養】
・2.5キロ以下では、10-20g/kg/day、2.5キロ以上では20ー30g/kg/dayの体重増加を目指す。身長と頭囲は0.7-1cm/week。
・必要カロリー約120kcal/kg/day (105-130kcalの範囲)。症例によっては150kcal/kg/dayくらい必要なことも。
・PNの場合は、消化にエネルギーを必要としないので、90-120kcal/kg/dayを目安。小児科RDにPNの場合は必要エネルギーを10%減らす人がいたな…。大人の時はこの点考慮していないよう。でも個人的には気にしてます。
・ENの場合、たんぱく質の目安量は:2.5-4g/kg/day
・PNの場合、たんぱく質の目安量は:3-4g/kg/day
・炭水化物は40-50%が目安。グルコース量(mg/kg/min)の許容範囲は体重による。
・脂質の目安は5-7g/kg/day。脂質は総カロリーの40-55%程度。
・出生後、最初の1-2週間で体重が5-15%減少する(Diuresis)。
・水分の目安量(ENの場合):120ー200ml/kg/day。体重などによる。低体重のほうがkg当たりの目安量多目。
・水分の目安量(PNの場合):100ー150ml/kg/day。体重などによる。低体重のほうがkg当たりの目安量多目。
・Taurine for neonates
1000gのベビーの場合は、1日に10~20gの体重増加、必要カロリーは約120kcal、たんぱく質は3-4g(12-16kcal)、脂質は5-7g(45-63kcal)、炭水化物は12-15g(48-60kcal)、水分量は150-200mlって感じかな…。

【小児の栄養】
年齢によって必要栄養量が全く異なるし、活動量にも大きな差。そして、様々な内科、外科、火傷等の疾患の考慮も要…。ここでは、ASPENの臨床ガイドライン「Nutrition Support of the Critically Ill Child」のサマリー(Volume33, Number3 May-June 2009)。重症患者の場合です。
・栄養の過剰投与は肝機能を悪化させたり、高血糖症による感染のリスクがあがる。人工呼吸器(ベンチレーター)の利用な長引くことも。
・Hypocaloric feeding(意図的に必要栄養量を投与しないこと)の場合のデータは無い(大人では有効)。
・たんぱく質の目安量:0-2歳では2-3g/kg/day、2-13歳は1.5-2g/kg/day、13-18歳は1.5g/kg/day。重症火傷などでは、必要量が増えるが4g/kg/day以上では、azotemia、metabolic acidosisなどの問題も。
・脂質の目安量:IVFEの場合は1g/kg/dayからはじめて、中性脂肪をモニターしながら2-4g/kg/dayにあげていく(大人と比較すると凄い量…)。脂質は総カロリーの30-40%に抑える(ASPENによると、これが日常的な処方であるが、抑えるエビデンスは無いとのこと)。他の教科書では25-55%と書かれてました。
・エネルギー量の目安:IC(Indirect Calorimetry)による測定が望ましいが、できない場合は、エネルギーを求める計算式を使う。計算式を使ったものは、誤差も大きいので、注意深いモニタリングとアセスメントが必要。
・炭水化物はPNの場合は40-60%、それ以外はRDAの45-65%(ASPEN Nutrition Support Practice Manualより)。
・水分の目安:1-10 kg (100 ml/kg)、11-20 kg(1000 ml + 50 ml/kg for each above 10 kg)、Above 20 kg(1500 ml + 20 ml/kg for each kg above 20 kg)←授業より
・3歳で14キロの場合は…、たんぱく質は21-28g(84-112kcal)、脂質は28g-56g(252-594kcal)、カロリーは75-90kcal/kgを使うと1050-1260kcal(←は2004年のASPENによるPNにおけるガイドラインsafe practices for parenteral nutritionより)。

私的サマリー:酸と塩(09年8月)

2009年08月18日 | 臨床栄養:静脈栄養での電解質
以前の日記と一部ダブってますが、静脈栄養における塩と酸の私的サマリー。基本的には、塩と酸のバランスはAcetate(acid)とChloride(base)で行われる。他の電解質と異なって、AcetateとChlorideには推奨量はないので状況に応じて調整する。静脈からのナトリウム投与は、Nacl(ナトリウムとChloride)が使われることが多いように思われるが、NaAc(ナトリウムとAcetate)というオプションもある。Bicarbonate(HCO3-重炭酸)は不安定なのでPNに加えることはできない。よって重炭酸の代わりに乳酸や酢酸が使われてきている(注:味の素のビカーボンはそうでないよう)。アメリカの場合、Ringer's Lactate(略RL)は、Na 130mEq/L, K 4mEq/L, Cl 209mEq/L, 重炭酸(HCO3)を酢酸(lactate)として28mEq/L含む。酢酸塩 (acetate)を加えると、acetateは肝臓でbicarbonateにコンバートする。←←これだから分りにくいよね~、体液や静脈投与液なんかをみてると、Cl-とHCO3-なのに、酸と塩の話になるとCl-とacetateとかになってるし…。

血清HCO3-が低い:Metabolic acidosisかRespiratory alkalosis
血清HCO3-が高い:Metabolic alkalosisかRespiratory acidosis
pHが低い=水素イオン数が多い=酸性が強い
pHが高い=水素イオン数が少ない=アルカリ性が強い

【代謝性アシドーシス】血清HCO3-が24mEq/L以下でpHが7.4以下
・下痢(HCO3-の損失)
・Bilary and Pancreatic drainage(HCO3-の損失)
・アルコール性中毒
・糖尿病性ケトアシドーシス
・腎臓疾患(そういえばベーキングパウダー(重曹)を処方するドクターがいたな…)
・あと覚せい剤とかエクスタシーなどの中毒
など

☆体液のHCO3(mEq/L)目安
胃:-
Pancreatic:90
Bile:35
Small Bowel:25
Diarrhea: 45

PNにおけるAcetate(目安)
>-100mEq/L以上投与:ひどい下痢、代謝性アシドーシスの時、Renal HCO3wastingなどの時。
40-80mEq/L:ノーマルな時は特に何もしない。多くの市販アミノ酸液には72-151 mEq/L含まれている。
ゼロ:代謝性アルカローシスや脱水の時はacetate無し。



【代謝性アルカローシス】:血清HCO3-が24mEq/L以上でpHが7.4以上
・Cl-の損失(胃分泌液の損失:嘔吐、NG drainage、Cl-wasting diuretics)
・K+の損失(下剤乱用、アルドステロン症などなど)
・リフィーディングシンドローム
など

PNにおけるChloride(目安)
>-110mEq/L:代謝性アルカローシス、NGからの損出(抜きすぎてCl-損出)、refractory vomiting(Cl-損出)などの場合。
38-77mEq/L:ノーマルなときは特に何もしない。多くの市販アミノ酸液には<-40mEq/L含まれている。
38mEq/L以下:代謝性アシドーシス、ひどい下痢の時

*ちなみに現場では塩と酸は触ってないので(見てるだけです。代謝に強い臨床薬剤師が1人いると耳にしてます…臨床薬剤師になるには8~9年掛かるそうです。医者になる年数に近いですね。話それますが、だからこそ臨床薬剤師にしか出来ない仕事は沢山あるはずで、臨床栄養士と仕事がだぶることは少ないですよね…。)、↑は教科書知識です。Referenceは、大学院の静脈経腸栄養のクラスの講義とMosby's Pocket Guide Series-Fluid, Electrolyte, and Acid-Base Balanceです←お勧め。


糖尿病の食事療法と静脈栄養

2009年08月18日 | 臨床栄養:静脈栄養の方法・安全性・徴候
残念ながら日本ではカロリーが血糖値を上げると勘違いしている人がまだまだ多いようで、血糖値が高くなると「カロリーを抑えるように」と時代遅れの指示を出している医療従事者もいるようです。血糖値を上げるのは炭水化物です、カロリーではありません。

ふと気になったのは、糖尿病の食事療法で炭水化物量を無視するというのは、静脈栄養の場合も炭水化物の量を無視しているのでしょうか…?

糖尿病の患者さんの場合、デキストロースの投与量は、4 mg/kg/minくらいを目安にしています。また、静脈栄養に加えるインスリンは、1gのデキストロースあたり、○○単位からはじめて、量を調整するようにしましょ~というようなプロコトール(処方用紙など)があります。日本では、静脈栄養のカロリーに合わせてインスリンの量を調整しているのでしょうか(役に立たないと思いますが)?それとも、食事療法の場合と静脈栄養の場合では栄養処方のアプローチが違うとか?!

「炭水化物=血糖値を上げる」というのを知らない場合は、適切でない食事療法の処方だけでなく、適切でない静脈栄養の処方にもつながるような気がします。静脈栄養を使う場合、糖尿病の患者さんの炭水化物(デキストロース)量をどうやって決めてるんですかね?

エネルギー量の求め方:肥満の重症患者(2)

2009年08月07日 | 臨床栄養:必要エネルギー量
米国静脈経腸学会の学会誌のJPEN(Journal of Parenteral and Enteral Nutrition)とNCP(Nutrition in Clinical Practice)を購読していますが、今号は私の興味のある記事が多くて嬉しい~。

JPENに重症患者ケアのガイドラインが掲載されていました。肥満患者に対するガイドラインも載っていたので、私用に記録しておきます。前にも何度も日記に書いていますが、集中治療室での肥満患者のエネルギー&蛋白質量の計算(予測)って容易ではないんです…。

【BMI>30の場合】
☆エネルギー量
・目標量の60-70%
・11-14kcal/kg ABW(実体重) 又は 22-25kcal/kg IBW(理想体重)
☆たんぱく質量
・2g以上/kg IBW(理想体重)

【BMI>40の場合】
☆エネルギー量はBMI>30と同じ
☆たんぱく質量
・2.5g以上/kg IBW(理想体重)

推奨グレード(Grade of recommendation)はDです。グレードDとは、少なくとも2つのレベルⅢの調査によってサポートされたものです。レベルⅢとは、nonrandomized, contemporaneous controlsによる研究です。

独り言:エネルギー量は今までは10~15kcal/ABWをだいたいの目安にしていましたが、蛋白質はこのガイドラインよりは少な目でしたね…。まあ、このガイドラインも目安ですし、個々の対応が大切なんでしょうね。

Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patients、2009年May-June.より。

“A contemporaneous control group exists when the results of an intervention group and a control group are compared over the same time period. An historical control group exists when the results of an intervention group are compared with the results of a control group observed at some previous time.”
http://aspe.hhs.gov/health/orgdonor/evalrpt/evaluation_methodology.htm

今日は小児火傷科、呼吸器系ICU、外科

2009年08月05日 | お仕事
今日もボスに指定されたフロアでお仕事。患者さんと話をし過ぎてあっという間に1日が過ぎてしまいました。以前は小児科での仕事はちょっと苦手でしたが、自分に子供がいると、全く違いますね~。患者さんのママさんたちと、食事のことなんかで話しこんでしまいました…。

今日は、はじめてみた症例があってかなり興奮?!しました。それは、リフィーディングシンドローム(refeeding syndrome、呼吸不全、心不全などに陥り死に至る場合もあります)。いままで、それっぽいのは見たことがありますが、呼吸不全に陥ったケースははじめてです(ならないようにRDは注意してますので)。リフィーディングシンドロームは、長期に渡って栄養摂取の状態がかなり悪い場合や絶食のあとに、急に栄養補給を行うと、電解質に異常が現れます(低リン、低マグネシウム、低カリウム)。長期に渡る下痢・嘔吐・食欲不振(絶食のことも有、経口、BMIはノーマル、低栄養)→TPN(短期間、1000カロリー、脂質なし)→経腸栄養(2300カロリー)で発生しました。残念ながら、これらはの処置は、栄養士の意見を求めようともせずに処方されたようですが、呼吸不全や検査値をベースにして、リフィーディングシンドロームの可能性があると、一番最初に気づいたのは栄養士だったケースでした…。発見が遅かったら、呼吸不全では済まなかったかもしれません…。そもそもTPNの必要はなかったと思うし、経腸栄養は少しずつ投与率をアップせずに一気に投与を開始したのは???と思いますが…。ちなみに、現時点での必要カロリー量は1600~1800カロリーくらいだと思われます。治療方法は、とにかく電解質のリプレースメント。1つ前のブログにも書きましたが、電解質の調整にはある程度の日数がかかります。

リフィーディングシンドロームは、栄養補給開始後、3日以内に起こる場合が多いと言われています。タイミング的には、TPNから経腸栄養へ移行がリフィーディングシンドロームを起こしたようにみられます(両方のコンビネーションかもしれませんが)。静脈栄養→経腸栄養への移行の際も注意するべきだと認識させられた出来事でした。

【リフィーディングシンドロームとは】
長期の絶食や低栄養の後の急激な栄養補給が原因。低リン、低カリウム、低マグネシウムなどが見られるようになり、倦怠感、↓筋力、浮腫、不整脈、意識障害、心不全、呼吸不全、死に至ることもある。これは、低栄養/絶食の間に、体は脂質(体脂肪)をエネルギー源としていたのが、急に炭水化物をエネルギー源として使うようになり、それに伴い急にインスリンの量が増えるのが原因。