報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「買い物の後で」

2018-01-05 19:10:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月29日12:30.天候:晴 東京都台東区上野 ヨドバシカメラマルチメディア上野]

 稲生がSDカードを買って戻ると、そこにマリアはいなかった。
 代わりにいたのが、ミク人形。

 稲生:「マリアさんは?」
 ミク人形:「こっちこっち」

 ミク人形がエスカレーターを上がって行く。
 稲生がそれについて行くと、着いたのは6階。
 そして……。

 店員A:「寒い冬は温か紅茶で目覚めの一杯!イギリス大使館御用達です!只今歳末セールにつき、3割引きで御提供させて頂いております!尚、大使館御用達の記念に、イギリス人のお客様には更に特別価格!半額での御提供です!」
 稲生:「ま、まさか、マリアさん、これを!?」

 ミク人形はコクコクと頷く。

 ミク人形:「あれあれ!」

 ミク人形が指さした先にはマリアがいた。
 もう既に買い付けを済ませたか?

 店員B:「イギリス人のお客様ですか?パスポートなど、拝見させて頂いてもよろしいでしょうか?」
 稲生:「えっ、マリアさん?パスポート持ってたっけ?……あ、いや」

 稲生は思い出した。
 大師匠ダンテを迎えに行った際、成田空港の敷地内に入る際に受けたセキュリティチェックで、パスポートを確認されていたことを。

 稲生:(マリアさん、人間としては死んだことになっているはずだから、パスポート取れないと思ってたんだけど……)

 だが見ると、マリアはちゃんとパスポートを出している。
 成田空港で出したものを同じだ。

 店員B:「ありがとうございます。確かに、イギリス人のお客様ですね。それでは半額で御提供させて頂きます。お支払いは……」
 稲生:「マリアさん、買うんですか!?」
 マリア:「師匠のお茶汲みの手間が省ける」

 魔道師の世界も上下関係は厳しい。
 その中で1番緩いとされているイリーナ組であっても、師匠へのお茶汲みは全てマリア本人が行わなくてはならない。
 人形を使役してお茶を淹れさせることは御法度である。
 それでもマリアは無精して人形にお茶は淹れさせ、その後で自分が持って行くという手法を取っているが。

 マリア:「支払いはカードで」

 マリアはアメリカンエキスプレスのグリーンカードを取り出した。

 店員B:「はい、ありがとうございます」
 稲生:「いつの間に契約を?」
 マリア:「師匠の紹介で入った。但し、もちろん私の稼ぎからだ」
 稲生:「マリアさんの稼ぎって?……あっ」

 マリアの趣味は人形作りである。
 もちろん自分の使役する人形を作ることもあるが、他はそれを販売している。
 稼ぎはそれだけでは無く、魔界に行って小冒険をすることもある。
 多くは魔法使いを仲間にしたい戦士に同行し、ダンジョンからお宝を頂く冒険だ。

 マリア:「アルカディアシティのお尋ね者の賞金首を捕まえて、賞金ももらったしな」
 稲生:「たまにマリアさん、いないと思ったら、そういうことをしていたんですか」
 マリア:「そういうこと。……あ、大きくて持って帰れないので、発送してもらっていいですか?」
 店員B:「かしこまりました。それではあちらのカウンターで、伝票にご記入を……」
 マリア:「ええ」
 稲生:「戦士と組んで冒険か。思い出すなぁ……」

 稲生は魔界に行ったマリアを追って行ったことがある。
 そこでは行方不明となった重戦士の夫を捜す旅に出ていた女剣士のサーシャと出会い、一緒にアルカディアシティまで旅をしたことがある。

 稲生:「サーシャ、元気かな?」
 マリア:「ああ、元気だった。もう既にお子さんいる」
 稲生:「そうですか……って、ええっ!?」
 マリア:「今度は生活費を稼ぐ為に、ドラゴンから財宝を奪いに行く冒険に付き合ってくれだってさ」
 稲生:「ドラゴンから!?いや、それ絶対、死亡フラグですよ!」
 マリア:「確かそのドラゴンの名前、ファフニールとか言ったかな」
 稲生:「ファフニール!?思いっ切り物語後半辺りに出てきそうな大ボスクラスじゃないですか!」
 店員B:(新しいオンラインRPGの話でもしてるのかしら?)

 2人は買い物を終えると、店舗の外に出た。

[同日13:00.天候:晴 JR上野駅構内→ディラ上野・ブラボー上野中央口店]

 稲生:「上野駅始発の中電を狙いたいところですが、その前にお昼にしましょう」
 マリア:「そうだな。お腹空いた」
 稲生:「意外とこういう所では、エキナカの方が美味い物が食べられるんですよ」
 マリア:「じゃあ、ユウタに任す」
 稲生:「はい」

 稲生はあえて改札の中に入った。

 稲生:「そこなんてどうでしょう?」
 マリア:「パスタか。いいの?日本食じゃなくて」
 稲生:「いや、どうせ家に帰れば嫌と言うほど食べる機会がありますから」

 2人は店内に入った。
 テーブル席に向かい合って座る。

 稲生:「いやー、寒かったー」
 マリア:「東京の冬も冷えるね」
 稲生:「いや、全くですよ。パスタランチやってますよ。僕、ミートソースにしよう」
 マリア:「えーと、私は……」

 料理を注文する。

 稲生:「それにしても、マリアさんが紅茶サーバーを買うなんてビックリしました」
 マリア:「まあ、確かにキャッチコピーに惹かれたというのはあるけど……。師匠はお茶なら何でも飲むんだ。別に、人形がわざわざ専用のティーポットまで使って淹れる必要は無い。それに、あの店での謳い文句は、『専用のティーポットで淹れる美味しさをそのままに』だ。だから大丈夫だよ」
 稲生:「そんなもんですかねぇ……」

 稲生には何故か、所化僧が修行を楽して本堂をルンバで掃除しているシーンを想像した。
 いや、本堂がきれいになるという意味では間違っていない。
 間違ってはいないが、修行としてはどうか。

 稲生:「マリアさんは、もう少し先生に対して敬意を払った方が……」
 マリア:「何を言ってるの。これでも私は、十分敬意を払ってるよ」
 稲生:「はあ……。あ、そうそう。今朝、マリアさんが言ってた『お楽しみ』って?」
 マリア:「私とユウタは部屋が別々だった。本来なら師匠と大師匠様も、そうであるべきだったんだ。だけど、違った。別に、見ての通り、大師匠様は介護を必要とされる状態じゃないし、師匠とは血の繋がった親子というわけでもない。なのに一晩、一緒に同じ部屋に泊まったんだ」
 稲生:「先生達が幸せなら、それでいいじゃないですか」
 マリア:「本来なら、ユウタの言う通り。だけど、あの2人はただ単に夜を男女として過ごしたわけじゃないんだ」
 稲生:「どういうことですか?」
 マリア:「話せば長くなる。簡単に言えば、大師匠様から『愛』を頂いたことで、師匠の肉体の耐用年数が少し延びたということだな」
 稲生:「つまり、魔法?」
 マリア:「そうとも言える。ただ、見た目はどう見てもただのセックスだよ」
 稲生:「はあ……。でもまあ、ガーターベルト付きのセクシーな下着をわざわざ用意されるなんて、先生もなかなかの入れ込みだったんですね」
 マリア:「全く。いい歳して、気持ち悪いったら……」

 その後、運ばれて来たパスタに2人は舌鼓を打った。
コメント (4)
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“大魔道師の弟子” 「嗚呼、英吉利人」

2018-01-05 10:20:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月29日11:46.天候:晴 京成本線特急電車内→京成上野駅]

 地上にある日暮里駅を出た京成電車は、JR線を高架で跨ぐと、高度を下げて今度は地下に潜る。
 右に左にカーブしながら、時速40キロ程度の速度で走る。
 キキィキキィと車輪の軋む音がトンネル内に響くことと、揺れが大きいことから、よほどキツいカーブであることが分かる。
 京成線は標準軌であるが、これが狭軌であれば、もっと速度を落として運行せざるを得なかっただろう。

 稲生:「まるで魔界高速電鉄の地下鉄みたいだ」
 マリア:「そう?……まあ、そうか」

 京成の中では古参に入る車両、そしてやたらカーブの多いトンネル。
 魔界高速電鉄の地下鉄では、よくある線形だ。
 これは大魔王バァルの帝政を滅ぼす為、安倍春明率いる革命軍が掘ったトンネルをそのまま地下鉄用に拡大して使用しているからという噂もある。
 そして、途中に廃駅の寛永寺坂駅と博物館動物園駅を通過する。
 前者はもう埋められたのか電車内から確認することは困難だが、後者に関してはホーム跡が資材置き場として今も使用されている為、駅跡を確認することはできる。

 稲生:「僕も博物館動物園駅で降りたことは無いですが、在りし頃の写真を見ると、魔界高速電鉄の地下鉄駅によく似ているんですよ」

 稲生はスマホを操作して、ネット上からその写真を取り出した。
 今ならこの説明で稲生がどういう操作をしたのか、スマホや基本操作が同じのタブレットをお持ちの方なら分かると思うが、スマホやタブレットが無かった当時は魔法具の操作の説明であったことだろう。

 マリア:「あー……確かに、こういう感じの駅とかあったな。……デビル・ピーターズ・バーグ?」
 稲生:「33番街駅もこんな感じでした」

 駅の感じが路線によって、または同じ路線でも、駅ができた時期によって雰囲気が全く違う。
 中にはまるでロンドンやニューヨークの地下鉄みたいな雰囲気の駅もあるし、モスクワや平壌の地下鉄みたいな雰囲気の所もある。

 マリア:「いずれは魔界が拠点になる日が来るだろうな」
 稲生:「そうなんですか」
 マリア:「だいぶ先の話だろうけどね」

〔「まもなく上野、上野、終点です。1番線に入ります。お出口は、右側です。上野から東京メトロ銀座線、日比谷線とJR線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。本日も京成電車をご利用頂き、ありがとうございました」〕

 電車内にホームの明かりが差し込んで来る。

 稲生:「それではここで」
 マリア:「うん」

 電車が駅に止まってドアが開くと、一気に乗客達が吐き出された。
 路線の性格上、稲生達も含めて大きな荷物を持っている者が多い。
 また、マリアのような白人乗客の姿も散見された。
 だからなのか、駅構内には外貨両替店や外国人向けの観光情報センターもある。
 ここが、海外からの旅行客の中継点の1つであるということが分かる一面である。

 マリア:「で、どこへ行くの?」
 稲生:「こっちです。こっち」

 駅の改札口を出て、稲生はそのまま地上駅に出ることはなく、地下道を進んだ。
 そして……。

[同日12:00.天候:晴 東京都台東区上野 ヨドバシカメラマルチメディア上野]

〔まあるい緑の山手線♪真ん中通るは中央線♪……〕

 稲生:「ここです」
 マリア:「……冷蔵庫でも買うの?」
 稲生:「まさか。上に行きますよ」

 警備隊長:「雲羽君、ヒマならうちの現場手伝ってくれ!」
 雲羽:「いや、カンベンしてくださいよ!私ゃ今、映画の撮影で来てるんですから!」
 警備隊長:「無許可の撮影は禁止だ!ちょっと防災センターまで来てくれ!」
 雲羽:「ええっ!?早く書かないと締切がー!」
 多摩準急:「雲羽、アウトー!」

 マリア:「……何か、1階が騒がしいみたいだけど?」
 稲生:「まあ、家電量販店って所は、だいたい賑やかなものですから」

 静かな店舗を目指したら潰れた“さくらや”が好例か。
 やはり、家電量販店は賑やかな方が良いようだ。
 1階の騒がしさを横目に、稲生達はエスカレーターで2階に上がった。
 そして……。

 稲生:「うん、これだ。これが欲しかったんだ」
 マリア:「なに?」
 稲生:「SDカード!パソコン用の」
 マリア:「はあ……」
 稲生:「容量が大きいほど高いですからね。幸いヨドバシのポイントがだいぶ溜まっていたので、ついでに買って行こうかと」
 マリア:「他にも店はあるみたいだけど?」

〔……新宿西口、駅前と〜♪上野のヨドバシカ・メ・ラ♪〕

 稲生:「僕1人ならともかく、マリアさんも連れて新宿駅西口からヨドバシ本店まで連れて行くのはちょっと……」
 マリア:「確かに。新宿駅の構造は、魔王城以上だと思う」
 稲生:「魔王城ですら多分、渋谷駅くらいの大きさで済んでると思いますよ」

 尚、テーマソングでは軽く新宿駅の西口と歌っているが、新宿駅の西口は1つだけではないことに留意しないと作者みたいに迷子になる。

 稲生:「マリアさん、欲しい物はありますか?」
 マリア:「いや、特に無い」
 稲生:「分かりました。じゃあちょっと僕、買って来ますから」
 マリア:「ああ」

 稲生はレジの列に並んだ。
 よく見ると、ここにも外国人客の姿はちらほらと見かける。
 多くは中韓人であるようだが、中にはマリアと同じ人種と思しきカップル連れも……。

 マリア:(あの2人、アメリカの南部訛りがあるな。……よく分からない)

 英語圏の国の者同士であっても日本語と同じく、その地域によって強い訛りがあったりして、聞き取れないことが多々ある。

 マリア:(それにしても、ポップが多くて目がチカチカする……。ん?)

 その時、マリアはとあるポップに目が行った。
 そのポップには、こう書いてあった。

『本場イギリスの味!紅茶を美味しく頂ける紅茶サーバー!6階で好評発売中!!』

 と。

 マリア:(これだから日本人は……。機械で淹れることに、そもそも無理があることに気づかないものか……)

 更にそのポップには、こう続けられていた。

『イギリス大使館に納入されました!……』

 マリア:(ま、マジか!?)

『……イギリス人のお客様には、大使館納入記念として半額セール実施中!!』

 マリア:「

 そして……。

 店員:「毎度ありがとうございまーす!」
 稲生:「どうも」

 稲生がレジから戻って来た時、そこにマリアの姿は無かったという。

 稲生:「んんっ!?」
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