報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「マルチタイプ新造計画始動!」

2016-12-02 19:15:50 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月24日13:00.天候:霙 東京都千代田区丸の内 丸の内ホテル・エントランス]

 孝之亟:「短い間じゃったが、楽しい昼食会じゃったぞ。ではあの現金は、デイライト・コーポレーションに渡してこよう」
 峰雄:「孝夫、お前は最高顧問に付いて行って差し上げないのか?」
 敷島:「……午後も私は予定が入っておりますので。DCJさんには、私から伝えておきます」
 孝之亟:「うむ、楽しみじゃの」

 孝之亟、シンディを見る。

 敷島:「最高顧問。悪い事は言いません。せめて、メイドロイドにしませんか?メイドロイドは個人向けの設計並びに設定になっております。しかし、マルチタイプは本来、個人向けではありません」
 孝之亟:「ワシを見くびる気かね?孝夫、お前だって個人でこのロボットを使いこなしているではないか」
 敷島:「いや、私は色々とありましたので……」
 孝之亟:「フン!ワシも90年近く生きていて、生死の境目を幾度と無く潜り抜けたわい!お前、剣林弾雨の中を潜り抜けことがあるか!?」
 敷島:「はい。(暴走したエミリーに追い回されたり、前期型シンディのライフル狙撃から逃げ回ったり、バージョン連中の包囲網突破とか、色々……)」
 孝之亟:「ワシはな、孝夫とは比べものにならん経験を積んでおるんじゃ。心配いらん」
 峰雄:「頼もしいお言葉にございます。孝夫、仕事があるなら仕方が無い。だが、DCJにはよく言っておくんだぞ?カネならあるんだ」
 孝夫:「はあ……」
 孝之亟:「お前、ロボットアイドルの売り込みを更に進めるのじゃろ?隠居した今でも、ワシが一言言えば、すぐに予算など付けてやるでな。それが見返りじゃ」
 孝夫:「嫌なプロジェクト推進法だ」
 孝之亟:「何か言ったか?」
 孝夫:「いえ、何でもないです。……あ、そうそう。これだけは申し上げておきます」
 孝之亟:「何じゃ?」
 孝夫:「国家公安委員会からの指導で、マルチタイプに銃火器を仕込むことは禁止されましたので、それだけは不可能となりました。もし不服でしたら、直接国家公安委員会にお願いします」
 孝之亟:「ほお?銃火器の装備禁止とな?……まあ、ワシには要らん装備じゃ。それに、国家公安委員会が何を言ってこようと、こっちには与党国会議員の知り合いがわんさかおるでな。政治的な圧力で押さえ込んでやるわい。警察の捜査を中止させるくらいのなぁ……」
 峰雄:「孝夫、これで分かったか?表向きはグループに対する権限の無い名誉職・最高顧問ということにはなっているが、実情はこの通りだ。もう2度と逆らうんじゃないぞ」
 孝夫:「分かりました……」
 峰雄:「最高顧問、これで1つ、収めては頂けませんでしょうか?」
 孝之亟:「収めるも何も、何も出っ張ったことなど無いがな。とにかく、後のことは頼んだぞ?」
 峰雄:「孝夫!返事!」
 孝夫:「はい……」

 孝之亟と峰雄は往路で敷島が乗ってきたハイグレードタクシーよりも、更に高級車である役員車に乗り込んだ。
 そして、ホテルのポーチを後にしたのだった。

 孝夫:「くっ、くくく……!あのクソジジィと太鼓持ち会長め……!!」
 シンディ:「社長……」
 孝夫:「東京決戦の再来でも起こす気か!」
 シンディ:「そんなに危険なんでしょうか?」
 孝夫:「シンディ。もしお前が今暴走したとして、俺を殺せる自信があるか?」
 シンディ:「そんなこと急に言われましても……。ただ、私は社長を殺せる自信がありません」
 孝夫:「そうか。では、今しがた出て行った最高顧問と会長を殺せる自信は?」
 シンディ:「もしも暴走したら……恐らく、封印されたマシンガンを再使用すれば……簡単に屠ることはできるかと……」
 孝夫:「その違いだよ!驕り高ぶった老害共め!!」

[同日15:00.天候:曇 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18階・敷島エージェンシー]

 ※以下、登場人物をロイドとアリス以外は名字表記に戻します。

 シンディ:「社長、お電話です。マスターから」
 敷島:「アリスからか……」

 敷島は電話を取った。

 敷島:「もしもし。何の用だ?」
 アリス:「シンディの新しい腕が、もう間もなく完成するよ。今週末には交換したいんだけど、土曜日とか空いてる?」
 敷島:「ああ、大丈夫だ。ところでアリス、新しくマルチタイプ製造の注文が入ったって聞いてるか?」
 アリス:「ええ。聞いてるわよ」
 敷島:「そうか。やっぱり、DCJさんはその注文を受けるんだな?」
 アリス:「ええ。既に契約書も交わしたし、頭金を受けている。断る理由は無いわね」
 敷島:「アリス、研究者としてどう思う?俺はマルチタイプを個人で持つには危険だと思うんだ」
 アリス:「ええ、危険だと思うわ」
 敷島:「だったら、どうして断らなかったんだ!?」
 アリス:「契約を交わしたのは営業部門で、私達、開発部門じゃないからね、知らないよ。それに、『マルチタイプを個人で所有するには危険』という主張はまだ学会で認められているわけじゃないし、だいいち、今のところそれは認められることは無いと思うね」
 敷島:「どうしてだ?」
 アリス:「あなたのせいよ」
 敷島:「何でだ!?」
 アリス:「あなたが個人所有で成功してるから、説得力が無いのよ」
 敷島:「ちょっと待て!シンディの正式なオーナーはお前じゃないか!俺はただのユーザーだぞ!」
 アリス:「私はまだDCJという後ろ盾があるからね。でもあなたは何の後ろ盾も無く、シンディを使いこなしている。……いいえ、シンディだけじゃないね。ユーザー登録から外れたはずのエミリーでさえ、あなたの命令を聞く。それも相俟ってるってわけ」
 敷島:「最高顧問は確かに凡人ではないけれど、どうしても俺には使いこなせるような気がしないんだ。むしろ、暴走させてしまう恐れがある……」
 アリス:「だったら……いい考えがあるよ」
 敷島:「ん?」
 アリス:「最高顧問さんは、シンディによく似たタイプのマルチタイプを造って欲しいわけでしょう?」
 敷島:「そうだ」
 アリス:「シンディによく似た見かけで、性能はメイドロイドに近いタイプで造ればいいのよ」
 敷島:「あ!その手があったか!」
 アリス:「ね?これなら心配無いでしょう?」
 敷島:「さすがはアリスだ!」
 アリス:「フフーン♪天才と呼びなさい」
 敷島:「分かったよ、(自称)天才。とにかく、土曜日は空けておこう。……ああ、それじゃ」

 敷島は電話を切った。

 敷島:「まあ、シンディを1ヶ月くらい爺さんの所に居候させて、マルチタイプの恐ろしさを体験してもらうっていう手もあるんだがな……」
 シンディ:「マスター的に、それは許されないことだと思います」
 敷島:「くそ……!」
 シンディ:「それに、仮にそれでやってみて、本当に最高顧問が私を使いこなしてしまったらどうするんですか?」
 敷島:「それは無いと思うけど、まあ、それならそれでいいよ。俺が悪かったって、全力土下座でもするさ。とにかくシンディ、お前の新しい腕ができるそうだから、土曜日、科学館に行くぞ」
 シンディ:「分かりました。……姉さんの方はどうなんでしょうか?」
 敷島:「あ、そうだな。ちょっと、平賀先生に聞いてみよう」

 敷島は机の上の電話機を取った。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「敷島家の人々」

2016-12-02 12:40:19 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月24日12:00.天候:霙 東京都千代田区丸の内 丸ノ内ホテル]

 敷島:「少し気温が上がったせいか、ようやく雪から雨に変わりそうだな」
 シンディ:「ええ。午後からは止むそうですよ」
 敷島:「結局、積雪は本当に3センチか。最近の天気予報は当たるなぁ」
 シンディ:「そうですね」

 タクシーがホテルのポーチ(車寄せ)に到着する。
 黒塗りのハイヤーと同じ車種である。
 でもそこはタクシーなので、料金はタクシーと一緒。

 シンディ:「せめて、雰囲気だけでもと……」
 敷島:「なるほど」

 敷島とシンディはタクシーを降りて、ホテルの中へと入った。
 昼食会場は日本料理レストランである。

 敷島:「あー、ここだな」
 スタッフ:「いらっしゃいませ」
 敷島:「敷島孝之亟と待ち合わせで来た敷島孝夫と申しますが……」
 スタッフ:「はい、敷島孝夫様ですね。こちらへどうぞ」

 スタッフの案内で敷島とシンディは、個室席へ向かった。

 スタッフ:「こちらでございます」
 敷島:「どうも」

 日本料理レストランであるが、座敷ではなく、あえてテーブル席である。
 これは孝之亟が90歳近い老齢であり、杖をついた足腰である為、座敷よりも椅子席の方がやりやすいというものによる。

 敷島:「敷島孝夫、参りました」
 シンディ:「秘書のシンディでございます」
 敷島峰雄:「おう、やっと来たか。少し遅刻だぞ」
 敷島孝夫:「すいません。雪による渋滞で、少し遅れるという連絡はさせて頂いたはずですが」
 敷島峰雄:「それにしたって、我々は時間前に来ているというのに……」
 敷島孝之亟:「まあ、良いではないか。ちゃんと来てくれたんじゃから」
 敷島峰雄:「はあ……」

 ※以下、参加者全員が敷島姓である為、下の名前で登場させる。

 孝之亟:「まあ、急に呼び立てて済まなかった。今日はワシの奢りじゃ。遠慮しないで好きなもの食べなさい」
 孝夫:「はあ……頂きます。シンディはそこに控えてて」
 シンディ:「かしこまりました」

 シンディは個室の隅に移動した。

 孝夫:「業務の合間に来たので、アルコールは控えさせて頂きます」
 孝之亟:「ごもっとも、ごもっとも。まあ、まずは食べよう。ワシも腹が減った」
 孝夫:(年寄りのくせにバクバク食いやがる。それでいてメタボではないし、胃も歯も丈夫って、どんだけ生きるつもりだよ、この爺さん……)
 峰雄:「随分、絶好調のようだな。キミの新しい事業は……。世の中、何が流行るか分からないものだ」
 孝夫:「アイドルも所詮、人間ですからね。アイドルは直訳して偶像と言います。そしてファンが求めているのは、正にそれなんです。ところが、その正体はやっぱり人間なんですよ。劣化したり、スキャンダルがあったり……。しかし、ボーカロイドはそんなことが一切ありません。理想のアイドル像なんです。だから流行ったんですよ」
 峰雄:「その流行も流行である以上、必ず終焉が訪れると思うが、どうかね?」
 孝夫:「会長らしくもない質問です。『流行というのは自然に流行るものではなく、故意に流行らせるものだ』と昔、仰ったじゃありませんか。確かに、既存のボーカロイドはいずれ飽きられるでしょう。しかし、人と違って機械はリサイクルできます。既存の流行が終わったら、似たようなものを流行らせるまでです」
 峰雄:「具体的なビジョンを立てられるというのであれば構わないがね。しかし、永久不変なものが1つある。それは……」
 孝夫:「家族の絆、とでも言いたいんでしょう?」
 峰雄:「分かってるなら何故、お祖父さんの望みを叶えてやらん?」
 孝夫:「お祖父さんって……。最高顧問は、私の直接的な祖父ではありません。私が大日本電機所属時代に亡くなっているんですよ」
 峰雄:「そういう問題じゃないんだな。それなら、敷島エージェンシーの開業資金を提供したのはどこだと思っている?その最高顧問がお望みであるのだがね?」
 孝夫:「く……」
 孝之亟:「まあまあ、峰ちゃんや。説教は後にしてくれ。せっかくの御馳走が不味くなってしまうぞい」
 峰雄:「はっ、これは失礼致しました」

 そこへまずは飲み物が運ばれてくる。
 役員達の昼食会であっても、乾杯はビールのようだ。
 但し、やはり仕事が控えている孝夫と峰雄はノンアルコールビールであるが。

 孝之亟:「ワシは引退した身じゃからの、本物を飲ませてもらうよ」
 孝夫:「どうぞご勝手に」
 峰雄:「孝夫、お前というヤツは……」
 孝夫:「何ですか?」
 孝之亟:「まあまあ。取りあえず、乾杯しよう。ワシも言いたいことがあるでな」
 峰雄:「はっ」

 シンディが役員達にビールを注いで行く。

 孝夫:「シンディ、爺さんには注がなくていいから。そのまま瓶ごと口にねじ込んでやれ」
 シンディ:「ええっ!?」
 峰雄:「殺す気か!」
 孝之亟:「ふはははははははは!さすがは敷島一族の若者!ユーモアのセンスが冴えとる!」
 峰雄:「最高顧問、ユーモアじゃないですよ、これは……」
 孝夫:「リアル“犬神家の一族”やっちゃおうかなぁ……」
 孝之亟:「おおっ!いいアイディアじゃ。で、このロボットに事件解決させるというものじゃな!?」
 孝夫:「えっ?!」
 孝之亟:「峰ちゃんや。エンタープライズの映画製作部門に、このアイディアを持ち込んでみるのじゃ」
 峰雄:「ははっ、検討致しましょう」
 孝夫:「そういうつもりで言ったんじゃないのに……」

 その後で料理が運ばれてくる。

 孝之亟:「こういう機会でも無ければ、こういうものは食べられんからな。たまには、こうして家族で食事をするのもいいものじゃ」
 峰雄:「さようでございます」
 孝夫:(家族じゃねーだろ。ウザい親戚付き合いのベタ過ぎる法則だ……)
 孝之亟:「それで、だ。孝夫や」
 孝夫:「何ですか?」
 孝之亟:「ワシが送ったファックス、見てくれたかの?」
 孝夫:「ああ……。そこにいるシンディなら、中古価格10兆円でお売りしますよ」
 峰雄:「何で中古で高くなってるんだよ!ってか、50億から10兆って、桃太郎ランドかよ!」

 桃太郎ランドネタが通用する四季グループw

 孝之亟:「ワシは新品が欲しいと言ったはずじゃが?そこの秘書は孝夫の財産じゃろう?いかに家族と言えど、個人の財産を横取りするようなことはあってはならんよ」
 峰雄:「崇高なお言葉にございます」
 孝之亟:「カネは既に半分用意してきた。もう半分はモノが完成してからじゃ」

 孝之亟がパチンと指を鳴らすと、黒スーツを来た男数人がスーツケースに入れた札束25億円分を持ってきた。

 孝夫:「マフィアの取り引きじゃあるまいし!ここにそんな現金持って来ないでくださいよ!危ないな!」
 シンディ:(まあ、確かにこんな現金持ち歩くような人なら、私みたいなマルチタイプの護衛は必要かもねぇ……)

 と、シンディは孝之亟にビールを注ぎながら思った。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「四季グループの圧力」

2016-12-02 10:19:46 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月24日11:00.天候:雪 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18階・敷島エージェンシー]

 敷島:「……というわけで、ボーカロイドの人気上昇に伴い、今後は所属ボーカロイドを増やす方向で検討に入りたいと思います。この件に関しましては、四季グループ全体の後押しもありますので、それだけ期待が大きいということを皆さん、自覚してください」

 敷島は会議室で営業会議を行っていた。

 井辺:「では、質疑応答に入ります。質問のある方は手を挙げてください」
 吉井:「はい」
 井辺:「吉井さん、どうぞ」
 吉井:「ボーカロイドの増備方針は分かりましたが、具体的な予算などが資料に書かれていないんですが、具体性はどれだけあるんでしょうか?」
 敷島:「吉井君も知っての通り、ボーカロイドはとても高価だ。ボーカロイドは、単なる商品でも無ければ備品でもない。まずはボーカロイドを増備する計画があるということを、皆に知ってもらいたいということなんだ。この敷島エージェンシーはまだまだ小さい会社だからね、ボーカロイド1機造るのも大変なんだ。もちろん、それが売れるとは限らない。四季エンタープライズの後押しも必要になるんだ。まずは当社でボーカロイド増備計画を皆に承認してもらって、それから四季エンタープライズに持ち込みたいと思う」
 吉井:「そういうことですか」
 敷島:「もっと会社が大きくなればね、ボーカロイドの1機や2機、こっちで勝手に増備できるようになるんだけども……。ま、現状が現状だから」
 井辺:「他に質問はありますか?……えー、無いようですので、これにて営業会議を終了致します。皆さん、お疲れさまでした」

 敷島は会議室を出て社長室に戻ろうとした。

 敷島:「ん?何か、事務室が騒がしいな?」
 井辺:「随分、電話が鳴り響いているようですが……」
 敷島:「何かあったのかな?」

 敷島と井辺は急いで事務室に戻った。

 一海:「も、申し訳ありません!社長の敷島は現在、会議に出ておりまして……はい!戻り次第、すぐに折り返しお電話を……」
 シンディ:「……ですから、会議中は一切本人に電話を繋がないよう、固く命じておられまして……いえ、ですから……」
 MEIKO:「一海!ファックス用紙が切れたわ!すぐに注文して!」
 鏡音リン:「……ハイ、お掛けになった電話番号は現在使われておりませんYo〜!」
 敷島:「な、何だ!?何か、クレームか!?」
 井辺:「それにしては、随分規模が大きいですよ」
 敷島:「今現在、現場行ってるの誰だ!?」
 井辺:「えー、KAITOさんがテレビジャパンで歌番組の収録、巡音ルカさんがCDジャケの撮影で日比谷公園に行ってます。それと、初音ミクさんが……」
 敷島:「もういい!一海、電話俺が代わる!」
 一海:「社長!」
 敷島:「相手はどこの誰だ!?」
 一海:「は、はい。敷島不動産の敷島銀之介会長からです」
 シンディ:「社長!こっちはフォーシーズンズの敷島修社長からよ!」
 敷島:「な、何だァ?クライアントからのクレームとかじゃないのか?」

 敷島、取りあえず一海の方の電話に出る。

 敷島:「もしもし。お電話代わりました。敷島エージェンシーの敷島孝夫です」
 銀之介:「おー、孝夫か。待ち侘びたぞ。いいか?お前は家族の恩というものをだな……」
 敷島:「はあ?」
 井辺:「シンディさん、一体何が起きてるんですか?」
 シンディ:「会議の前に四季ホールディンクズの会長から電話があって、どうも最高顧問の言う事を聞くように警告されたらしいの。でも、それを社長が突っぱねちゃって……。『最高顧問とは名ばかりの名誉職でしょう!?いつまで隠居したジジィの威光に怯えてるんですか!こっちは忙しいんです!』って切った後、このザマよ」
 井辺:「グループ企業全体から、即行の圧力ですか……。凄いグループに就職したものです……」

 井辺は事務室と一続きになっていて、開け放たれたドアから見える社長室に目をやった。
 社長室には四季グループの綱領というか、スローガンみたいなのが書かれていて、それはいくつかあるのだが、取りあえずここから見えるものとしては、
『家族の絆が一番大事!それは経営者も従業員も皆同じ!』
 と、書かれていた。

 井辺:「要は『家族の絆』の地雷を、社長自ら踏んでしまったのですね」
 シンディ:「大爆発よ」
 敷島:「くそっ!これだから同族企業はダメなんだ!!」
 シンディ:「ブーメラン、乙www」
 井辺:「社長、さっきの会議で『グループ全体の後押し』がどうとか仰ってませんでした?」

 と、今度は社長室の方に直接電話が掛かってくる。
 この場合、親会社の役員からの電話であることが多い。
 シンディが電話を取った。

 シンディ:「……あ、はい。少々お待ちください。社長、四季エンタープライズの敷島会長からですよ!」
 敷島:「あ……今行く」

 敷島は社長室に入って、電話を取った。

 敷島:「も、もしもし……」
 会長:「家族の絆を忘れてはイカンよ。で、どうする?昼食会を最高顧問が開いて下さるそうで、今後のキミの会社の方針について色々と聞きたいそうだ。最高顧問が気に入れば、グループの予算を多めに付けてくれるみたいだぞ」
 敷島:「え、えーと……」

 敷島は事務室の方を見た。
 するとまた電話が鳴り響き、MEIKOが紙を交換したばかりの複合機からまた大量にファックスが送信されてきた。

 敷島:「い、行きます!」
 会長:「それでこそ、我が四季グループ期待のホープ!」

 一斉に電話が鳴り止み、ファックスも止まった。

 会長:「それじゃ12時から丸ノ内ホテルのレストランで行うので、遅れないように。そうそう。キミの所の秘書も連れてくるようにとのことだ」
 敷島:「わ、分かりました。(てか、絶対それが目的だろ!)」

 敷島は電話を切った。

 一海:「社長、何だか真っ赤なファックスが届いたのですが、これは脅迫でしょうか?」
 敷島:「いや……これは“赤紙”だよ。パねぇな、うちの一族はァ……」
 一海:「赤紙?」
 敷島:「召集令状。ほら、丸ノ内ホテルに今日正午に来いって書いてあるだろ?」
 一海:「はい。要は招待状ってことですね」
 敷島:「そんなところだ。随分と物騒な招待状だよ。シンディ、お前の分もある」
 シンディ:「私もですか?」
 敷島:「むしろ、最高顧問はお前が目的だからな。もちろん、お前自身を買いたいんじゃなく、お前の設計データを買いたいって話だ。だから完成品を今一度見たいって話だろ」
 シンディ:「なるほど……」
 敷島:「一海、タクシーを呼んでおいてくれ」
 一海:「タクシー?会長や最高顧問とお会いになるなら、ハイヤーの方が……」
 敷島:「いいよいいよ。どうせ丸ノ内ホテルのポーチで降りるんだから」
 シンディ:「それならせめて……」

 シンディは一海の代わりに、どこかへ電話した。
 
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