LiveInPeace☆9+25

「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」

教育編 第9回 コンドルセの後に――未完の革命

2012-01-11 | 憲法って、面白っ!

 これまで、「フランス革命期の公教育論」という本から、コンドルセの「公教育の全般的組織についての報告と草案」(1792年4月20,21日)の内容を紹介してきました。
 不幸なことに、この報告をおこなった翌日にオーストリアに対する宣戦布告がなされ、この公教育案は審議されずに終わってしまいました。しかし、これは同年12月にあらためて印刷・配布されました。
 これを受けてまた活発な討議が行われるようになりました。この本の中では他にも様々な教育に関する論文が掲載されています。

 コンドルセ案に基本的に賛成しているロムの報告は、コンドルセと似たようなことを言っているにも関わらず、部分的にはむしろ後退しています。
 例えばコンドルセは女児を初等教育の対象にすると述べ、子どもの家庭での教育がほとんど母親に委ねられているところから、女性教育の重要性を強調していました。初等教育以上の学校で女性がどう扱われるのかは不明ですが、少なくとも入学できないとは書いていません。一方、ロムは「中等学校は男女両性のためのものではない」と、女性を中等教育から最初から排除していました。また、女性の教育が重要だとも述べているのですが、そこには「自然は、女が男の教育を完成することを望んだから」という奇妙な理由が挙げられています。こうした露骨な男尊女卑思想が当時は一般的でした。

 コンドルセの批判者の中で、貧困層の立場を最も強く主張したルペルティエについてはその意義について触れておきたいと思います。
 彼は、コンドルセ案では小学校が約4平方キロメートルにひとつしか置かれないのはあまりに不十分であり、実質的には、富裕層にのみこの教育制度の恩恵が与えられ、貧困な勤労層にとっては、実質的には無権利状態に等しいと指摘しました。

「子供の労働に頼らずに子供を養うことができるものは、子供を毎日数時間、学校に通学させることができる。」
「しかし貧困階級にとってはどうなのか。たしかに諸君はこの貧しい子供に教育を与えることはできる。しかしその前に、子供にはパンが必要なのだ。彼の勤勉な父親は子供に与えるための一片のパンにも事欠いており、子供が稼がねばならないのだ。子供の生命は労働にかかっているから、子供の時間は束縛されている。子供が田畑でつらい一日を過ごしたのちに、休息のためにおそらく半リュー(約2キロメートル)は離れた学校に行くようなことを諸君は望んでいるのか。」

 またルペルティエは学齢期に至る前の子どもの育児についても、母親に公権力が援助をすべきであると考えていました。

「母親に励ましと援助と教育を与えること。子どもの授乳に関心を抱かせること。間違いと有害な無知、有益な配慮と気配りについてやさしい方法で母親を啓発すること。子供の誕生と維持が、母親にとってつらい負担でなく、反対にゆとりの源泉であり、次第に大きくなる希望の対象であるようにすること。これが、人生の最初の五年間のためにわれわれがなしうる有効なことの全てである。」

 さらに学齢期の少年少女のためには劣悪な環境から切り離して寄宿学校で知識と実践を結びつけた教育を受けさせることを主張しました。1793年のジャコバン独裁の時代に、いったんはこの案が採択されたのですが、結局、予算不足のために断念されました。

 ルペルティエ以外のコンドルセの批判者については、むしろ反面教師として見ることができます。特に、1801年に発表されたトラシーの「現在の公教育制度についての観察」では、エリート教育と労働者階級向きの教育とは全く別ものでなければならないと述べられています。彼はこのように主張します。あらゆる文明社会には、自分の手の労働で生計を立てる労働者階級と、自分の財産の収入、または精神労働が重きを占める職務の収入で生計を立てる「学識階級」の二つの階級が必ず存在し、そして、この二つの階級には、それぞれ異なった教育――労働者階級に属する子どもには、数年で与えられる簡潔でそれ自体で完結した教育、そして学識階級の子どもには、学校だけでなく放課後も家庭教師の指導・監督を受けること――が必要であると。

「以上に述べたことは人間の意志にはまったく属さない事柄であり、人間と社会の本性から必然的に生じる事柄である。人間にはそれを変える力はないのだ。したがって、この不変の事実から出発しなければならない。」

 革命が産んだ共和国フランスは1799年にナポレオンのクーデターで帝政となってしまいました。そして教育思想においてもまた革命の理想を大きく裏切っていったのをここに見ることができます。

 コンドルセの提起した問題が、現在の私達にとっても今なお大きな意義を持っているのは、フランス革命が提起した理想に私達の社会がまだまだ到達し得ていないということでもあるでしょう。(鈴)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。