報道写真家から(2)

中司達也のブログ 『 報道写真家から 』 の続編です

そもそもおカネとは何なのか ③④⑤

2009年12月28日 23時04分19秒 | 通貨・マネー

③ コインの表裏

貸出と預金は表裏一体

 銀行が「貸出」によって「預金」を創造するプロセスを、単純化したバランスシートで見るとわかりやすいかも知れない。

      銀行のバランスシート (貸借対照表)

   
貸出は金利を生むので資産に、預金は払戻義務があるので負債に計上される。

 いまこの銀行には貸出も預金もない。そこへ融資の依頼が来て、この銀行は1000円の融資を承諾したとする。銀行は依頼者の口座を作って1000円の貸出を実行する。銀行が貸出を実行するということは、借り手が口座の預金を手に入れるということだ。貸出の実行にはキーボードを叩くだけでよい。
 バランスシートは、次のようになる。
 1000円の貸出と1000円の預金が生まれた。



 
銀行が貸出を行えば、必然的に預金が生まれる。なぜなら、これはひとつの行為だからだ。ひとつの行為を別の角度から表記しているにすぎないのだ。銀行貸出とは、すなわち預金創造なのだ。貸出の度に、次々と預金が創造される。これらの預金はいままで存在しなかった預金だ。だからこそ『信用創造』という用語が適切なのだ。

 こんな芸当ができるのは銀行だけだ。証券会社や保険会社にはマネができない。証券や保険は、すでにある資金を移動させるだけで、新たな通貨を生む機能はない。これが、バンクとノンバンクの決定的な違いだ。バンクは、貸出によって無から預金通貨を創り出す。ノンバンクは、バンクが創造した預金通貨を単に仲介するだけだ。

 貸出創出と預金創出はひとつの行為だが、主体は貸出である。貸出が実行されない限り、預金は創出されない。順序をつけるとすれば、貸出→預金、ということになる。逆は、あり得ない。銀行が預金を貸出すことはない。銀行が、定期預金を貸付ける場合でも、新たな預金が創造される。定期預金を貸付けているように見えるだけで、そのとき銀行は、さらに新たな預金通貨を創り出している。

 銀行は、キーボードを軽く叩くだけで、貸出を実行し、何もないところから預金を創造する。キーボードのなかった時代は、ペンとインクで預金は創り出された。

銀行業が貨幣を創造する過程は、特に頭を使わなければならないほど複雑なものではない。何かこれほど重要なことが問題であるなら、もっと深い神秘性があっても当然だと思えもしよう。
p30 『マネー その歴史と展開』


現金通貨も「貸出」によって生まれる

 預金通貨は、商業銀行の貸出によって生まれるが、現金通貨の場合は日本銀行による貸出によって生まれる。
 約80兆円の現金通貨のうち約70兆円は、日本銀行による長期・短期国債の購入・引受によって供給されている。国債とはすなわち日本政府の借用証書である。

 現金通貨も預金通貨も、われわれがおカネと呼んでいるものは、誰か(個人という意味ではない)が債務を負わなければ創り出せない。ようするに、おカネとはすべて誰かの債務なのだ。これが、おカネの本当の姿だ。


日銀取引の詳しい内訳は下記を参照。
マネタリーベースと日本銀行の取引  日本銀行HP
http://www.boj.or.jp/theme/research/stat/boj/mbt/index.htm



④ 無から無へ

債務が返済されるとおカネは消滅する

 おカネの誕生については明らかになった。
 そして、誕生があるということは臨終もある。
 無から生まれた通貨は、返済によってもとの無にもどる。

 普通われわれは、返済された元本は銀行にとどまり、またどこかへ貸出されると考える。しかし、そうではない。すでに見たように、貸出と預金はコインの表裏なのだから、コインの表だけを消滅させることはできない。表が消滅すれば、裏も消滅する。返済によって貸出が消滅すれば、その分の預金も消滅しなければ帳尻が合わない。

 返済によって貸出と預金が消滅する過程も、バランスシートで見れば一目瞭然だ。
 借り手は、まず借りた1000円を支払いに使うので、預金は他行に移転して口座はいったん0になる(
この銀行のバランスシートは一時的に不均衡になるが、システム全体としては均衡している)。その後事業活動によって借り手は1000円を儲けたとする。



 口座に1000円がたまったので、借り手は返済を実行する。まず500円を銀行に返済すると、借り手の預金は500円減少し、返済を受けた銀行の貸出も500円減少する。



 そしてさらに500円を返済すれば、貸出も預金もゼロになる。



 このように、元本がすべて返済されれば、貸出も預金も消滅する。
 貸出によって無から生まれたものが、返済によって無にもどるということだ。
 ごくあたりまえの理屈だ。

現代の貨幣つまり現金通貨と預金通貨はいずれも信用貨幣であり、銀行の銀行としての中央銀行を頂点とする銀行システムを通じて、貸出によって供給され返済によって消滅する、という形で国民経済に対して供給される。
p『決済システムと銀行・中央銀行』

 これで、おカネの誕生から消滅というプロセスが明らかになった。
 銀行貸出が預金通貨を創造すると、経済の中の通貨がその分増加する。そして、元本が返済されると、貸出も預金も消滅し、その分の預金通貨が経済から減少する。このプロセスが繰り返される。


⑤ 国家債務は未来永劫まで

債務は返済されてはならない?

 中央銀行を頂点とする銀行システムは、今日、ほぼ世界共通システムとなっている。
 世界中の現金通貨と預金通貨は、中央銀行と銀行の貸出によって生まれている。ということは、こうした貸出がすべて返済されたとき、世界中の通貨が消滅するということになる。理屈上そういうことになる。もちろん、現実に、そうした事態が起こることはない。しかし、起こらないからといって、それでいいのか?、という思いが残る。

 この通貨システムは、債務が返済されないことによって成り立っている。逆に言うと、債務が返済されるとシステムが成り立たない。しかし、早合点してはいけない。それは決して、銀行から借りたものは返さなくてもよい、という意味ではない。それが意味するところは、こうだ。元本はそのままで、永遠に金利を払い続けろ、ということだ。

銀行はじつは貸し金を返して欲しいとは思っていない、ということを忘れてはならない。……。銀行は貸した金の金利によって儲けるのであって、元金の返済を受けても儲けにはならない。……借り手が金利だけを支払い、元金は返済しないでいてくれるほうがずっとありがたい。……。銀行が政府機関に貸し出したがる理由の一つは、その融資が返済されることを期待していないからだ。
 p49 『マネーを生みだす怪物』 エドワード・G・グリフィン

 銀行が貸出の返済を望まないのは、個々の銀行の利己的な利潤追求の結果であり、通貨システム全体を考慮してのことではない。また、銀行は自行の都合によっては、いつでも元本を回収する。金利を滞りなく支払っていても、容赦なく貸し剥がしは行われる。

 中央銀行レベルでは、大規模な債務の返済はシステムに対する脅威と映るだろう。たとえば、国家債務が返済されるとしたら、それだけで相当な通貨が経済から消滅する。当然、経済活動は極端に収縮する。中央銀行は、政府による国家債務返済の努力をまったく望んではいない。

フィラデルフィア連銀はこう述べている。「一方、国家債務は恵みとは言わないまでも有益であるという大規模な分析が増えている。……(それらの分析では)国家債務はまったく減らす必要がない」
 シカゴ連銀も言う。「債務 ─官民を問わず─ はなくならない。債務は経済のプロセスで不可欠の役割を果たしている。……債務をなくすことが必要なのではなく、慎重に利用し、賢明に管理することが必要である」
 p235-236 『マネーを生みだす怪物』

 国家債務は、この通貨システムの本質をなす部分なのだ。
 したがって、この通貨システムの下では、国家債務が解消されることは期待できない。
 国家は債務に縛られ、そのしわ寄せはすべて国民に回されるだろう。
 世界がいま抱えている問題の大部分は、この通貨システムそのものにあるのではないのか。
 
 ガルブレイスは、貨幣研究の何を指して「真実の偽装」「真実の回避」と記述したのだろうか。
 そしてそれはいったい何のための偽装や回避なのか。
 残念ながら、彼はいっさい具体的なことを記していない。

 安宿の洗面台の水底に折り重なってたたずんでいた古びたお札も、カブールの山頂でピストル強盗が奪っていったピン札のドル紙幣も、あなたのサイフや預金口座にあるおカネも、すべてどこかの誰かの債務によって創造された。この地上に存在するあらゆるおカネは、日々、膨大な金利を発生させている。

 
債務によってしか通貨が供給されないという、この通貨システムは本当に妥当なのか。
 そういう根本的な問題をこそ考える時期なのではないだろうか。

  

参考資料
 『決済システムと銀行・中央銀行』 吉田暁 日本評論社
 『現代金融と信用理論』 信用理論研究学会 大月書店
 『貨幣と銀行』 服部茂幸 日本経済評論社
 『マネー その歴史と展開』 ジョン・ケネス・ガルブレイス ティビーエス・ブリタニカ
 『ノーベル賞経済学者の大罪』 ディアドラ・マクロスキー 筑摩書房
 『マネーを生みだす怪物』 エドワード・G・グリフィン 草思社

 マネタリーベースと日本銀行の取引 日本銀行
 http://www.boj.or.jp/theme/research/stat/boj/mbt/index.htm
 マネタリーサーベイ 日本銀行
 http://www.boj.or.jp/theme/research/stat/money/datams/index.htm

その他参考資料
 『スティグリッツ マクロ経済学』 ジョゼフ・E・スティグリッツ 東洋経済新報社
 『マンキュー マクロ経済学Ⅱ』 N・グレゴリー・マンキュー 東洋経済新報社
 『経済学』 西川俊作 東洋経済新報社
 『経済学入門』 鬼塚雄 東京大学出版会
 『明快マクロ経済学』 荏開津典生 日本評論社
 通説的信用創造論(所謂フィリップスの信用創造論)の批判的検討
http://libir.josai.ac.jp/il/user_contents/02/G0000284repository/pdf/JOS-KJ00004176289.pdf


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