甘い生活 since2013

俳句や短歌などを書きます! 詩が書けたらいいんですけど……。

写真や絵などを貼り付けて、二次元の旅をしています。

文楽と日本海

2023年11月01日 20時49分45秒 | 大和路を歩く

 北海道に行く前だったか、入江泰吉さんの旧居のツイッターをフォローしていて、来年のカレンダーができたというニュースを見ていました。

 今まで、鉄道系のカレンダーをぶら下げてることの多いうちの家ですから、ここでシックに入江泰吉さんの作品を毎月みられる環境はなかなかではないの、そう考えて、大阪から三重に戻る時に、まっすぐに奈良市写真美術館に行くことにしました。

 JR奈良駅について、外国人のお客さんたちも、そうでない人たちも、みんな東大寺・興福寺・奈良公園という空間をめざしているようでした。といっても、この人たちは、興福寺の国宝群に会いたいわけでもないし、東大寺の大仏様にご挨拶に行くというのでもなさそうです。

 せっかく奈良という、日本の古い町に来たというのに、人々はその核心に触れないで、ただお餅やさんのパフォーマンスに感嘆し、シカせんべいに駆け寄ってくるシカたちをじらしたり、エサをあげる満足感を得たり、シカに挨拶をさせたり、それはもう王様のようにふるまうのです。

 まるで日本にある風物全て自分の手に入れたような錯覚でも感じているのではないのか。たぶん、欲しいものはそんなにないから、適当に買えるものでもゲットしようなんて、少し思いあがったところがあるのではないだろうか。

 そうではないのです。シカたちは、神様の使いです。だから、敬して遠ざけるものなのです。本来は近づいてもらったら、おそれ多いことだと避けなければならない。なのに、ついついもの珍しくて、シカせんべいでシカたちを操った気分を味わうのでしょう。

 奈良を味わう間違った方法が横行しているし、地元の人たちも、適当にやらせている感じがする。それが経済でしょうなんて、つまらないことを考えてボンヤリしている。

 私は、そんなの知らないから、バスで奈良教育大学近くの奈良市写真美術館に来ました。お客さんは、そんなにいませんでした。この日は、去年まで館長だった百々俊二(どどしゅんじ)さんの写真作品と、入江泰吉さんの古い作品の展示が行われていました。

 百々さんは、熊野・紀伊半島、大阪、新世界、天王寺、その他のディープな世界を取り上げてきた写真家でした。人々のポートレートもたくさんありました。けれども、心に残ったのは、ちらしでも使われていた日本海の、山形県飽海郡遊佐町(ゆざまち)吹浦(ふくら)の冬の日本海のレールの写真でした。

 ネットから借りてきた写真は、海も町もまるで見えないけれど、大きな写真にすると、ものすごく見えないものが何かを語りかけてくれる雰囲気でした。いくつかの家だって、それぞれの息づかいというのか、海から来る寒波に耐えている気配というのか、それらを伝えていました。

 なかなか素敵でしたが、本を買う以外にこれらの写真を手に入れることはできなくて、心のアルバムに適当に入れただけで、すぐに消えてくかもしれないな。


 入江泰吉さんは、いつもの奈良の写真ではなくて、大阪で写真館をしながら撮りためていたすべての作品が戦争で焼けてしまい、避難する奥さんの足元に転がっていた文楽の写真資料、とりあえず奥さんは夫の大事なものだろうと、抱えて避難したそうで、戦前の泰吉さんの残された作品たちでした。

 そして、カラーではなくて、どうしてモノクロで文楽を撮っていたのか。カラーフィルムがないという事情もあっただろうけど、カラーで撮った写真よりもものすごく何かをこちらに語ってくれる作品群で、文楽とは、そんなに見るチャンスがあったわけではないけど、こんなに魅力的な世界があったのかと、見直せるような感じがしました。

 三味線、そこに乗せるセリフ、人形の使い手の動き、これらはすべて連動していて、いつも三位一体の動きであり、パターン通りなのだと思っていたものが、そうではなくて、それぞれが勝手に自分たちの予定通りのものを演じ、たまたま舞台作品として成立している。それぞれは独立しながら舞台世界を盛り上げ、いつの間にか、どこかのところでつながっているのだ、というのを最近どこかで読んで、そんな自由闊達な世界が、混然となったものが文楽・人形浄瑠璃だったのかと、ものすごく新鮮な気持ちになりました。

 改めて、いつか機会があれば見てみたい、そう思えた写真美術館でした。

 さて、カレンダーは買いましたか? 見本をチラッと見て、うちで使うには実用的ではないなと、断念したんです。ここまで突進してきたのに、パタリと止められた。これはなかなか自分でも成長したなと感じた瞬間でした。今までだったら、せっかく来たんだから、もう買ってしまえ、というところだったのにね。

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